新産業・新事業創出に関する緊急提言

大学・企業の起業家精神の発揮を望む

1998年6月18日
(社)経済団体連合会


目  次
(はじめに)
  1. 大学のベンチャー化
    1. 新産業・新事業創出を担う人材の育成
      1. 求められる人材と大学教育のあり方
      2. 産業界との人的交流の拡大
    2. 研究成果の社会的還元のための環境整備
      1. 大学の取組みの強化
      2. 規制緩和
    3. スタッフ機能の強化
  2. 大企業のベンチャー化
    1. 挑戦的風土への改革
    2. 経営層のリーダーシップの発揮とコーポレート・ベンチャーへの支援
      1. 経営層のリーダーシップの発揮
      2. 迅速な意思決定
  3. 真のベンチャー・キャピタルの確立
    1. 米国のベンチャー・キャピタルの役割
    2. わが国のベンチャー・キャピタルへの期待
    3. コーポレート・ベンチャー・キャピタルの活用
  4. コーポレート・パートナーシップ(対等な企業間連携)の推進
    1. コーポレート・アライアンス(独立ベンチャーとの戦略的提携)の推進
    2. スピンアウトした人との連携
    3. オープンで公正な事業環境の整備
  5. 環境整備
    1. 税制見直し
    2. 規制緩和
    3. 店頭登録市場の活性化
    4. 行政サービスの民間へのアウトソーシングの促進
    5. 公共調達におけるベンチャー企業の参入機会の拡大

(はじめに)

わが国が景気の停滞から脱却し、経済を活性化させるためには、金融システムの安定化、抜本的な税制改革、産業基盤の強化を図るとともに、それを活用した新産業・新事業の創造への取組みが必要である。経団連は、これまで95年7月に中間提言「新産業・新事業創出への提言−企業家精神を育む社会を目指して−」、96年12月には「日本型コーポレート・ベンチャーを目指して」をとりまとめ、ストックオプション制度の一般化など一定の成果を挙げた。第3次ベンチャーブームといわれる中で、ベンチャー支援のための制度や仕組みは形の上では一通り整備されてきたものの、長引く不況や金融機関に関する早期是正措置等を背景に、厳しい状況に追い込まれている独立ベンチャーも少なくない。今、まさに新産業・新事業創出のあり方が問われている。
わが国の問題は、起業家精神を発揮する人材や、それを実務的に支援できる人材など、人的インフラの整備が立ち遅れていることであり、その背景には、挑戦を評価し、後押しする社会風土や意識が根づいていないことがある。
新産業・新事業の創造に向けた社会改革のためには、技術や人材を育て、社会に送り出す大学、ならびに技術、人材、資金、経営ノウハウ等の経営資源が蓄積されている大企業が、起業家精神を発揮し、新産業・新事業創出の成功事例を積み重ねることが肝要である。米国では、挑戦を評価し、失敗してもその体験を学習のプロセスとして活用する風土があり、起業家精神が満ち溢れている。大学、起業家、大企業、ベンチャー・キャピタルなどを中心に、個人的信頼関係に基づく人的ネットワークが形成され、アイデアや技術等を事業として成功させ、それが起業家精神をさらに高揚させている。
そこで、98年5月の訪米調査結果を踏まえ、改めて、会員企業に対して新産業・新事業創出への取組みやベンチャー・キャピタルの強化を呼びかけるとともに、大学による起業促進に向けた取組みの強化や政府における環境整備の推進を緊急に提言する。

  1. 大学のベンチャー化
  2. 大学においては、学術研究や学生の教育といった従来からの目標に加え、研究成果の社会的還元や地域発展のための中心基盤としての期待が高まっている。とりわけ、より開かれた大学づくりに向けた意識改革と、主体的な取組みを通じて、大学が、起業家精神の醸成と実践を主導することが求められる。米国では、高度な研究水準を誇る大学が、研究成果の実社会における応用を重視し、その結果を研究活動にもフィードバックさせている。

    1. 新産業・新事業創出を担う人材の育成
      1. 求められる人材と大学教育のあり方
        新産業・新事業創出のためには、起業家精神に富み、アイデアや技術を具体的な事業計画にまとめ上げ、それを的確に説明し、実施に移すことのできる人材が不可欠である。とりわけ、大学に対しては、自ら起業を行なう人材のみならず、企業内で新産業・新事業に取り組む人材、あるいはベンチャー・キャピタリストや産学連携のコーディネート役として活躍できる人材を輩出することが期待されている。
        したがって、大学教育の一環として、文系、理系いずれの学生でも、事業計画の作成や論理的な説明を行ない、さらに実践する能力を体得できるようにするとともに、理工系学生が技術経営に関する教育を受けられるようにすることが求められる。また、文科系、理科系の双方の学生を対象とした講座や、学部間・大学間の相互交流を拡充し、文理双方の学生がお互いに啓発しあう機会を設けることも重要である。
        近年、わが国の大学では起業家養成に向けた取組みが進みつつあるが、各大学が特色あるプログラムを打ち出すことができるよう、大学設置基準のさらなる緩和等により、学科の設置・改組、設備、教員資格・数、さらには事務局の組成・人員配置等の面で大学の自由裁量を拡大すべきである。指導陣の充実を図るため、経験豊富な外国人を活用することも一考に価しよう。また、文科系・理科系の学生の交流を促進するため、単位互換制度に関する規制の緩和や運用改善、大学間・学部間の情報交換や連携などを図る必要がある。欧米の大学や、その日本分校について、わが国大学との単位互換や相互交流、さらには、その卒業生に対する学位授与、わが国大学・大学院への編入学等も弾力的に認めるべきである。
        新産業・新事業を担う人材の育成のためには、大学教育の改革に加えて、初等中等教育段階から起業家精神を醸成することが重要である。

      2. 産業界との人的交流の拡大
        学生が実際のビジネスの最先端で活躍する企業人から実体験を踏まえた講義を受けたり、企業現場での就労を体験したりすることは、専門の知識を深めるのみならず、自らの進路に対する明確なビジョンを確立し、実践的な事業ノウハウを習得する上で有益である。そのため、大学は、指導陣への企業人の積極登用や、学生に就業体験を提供するインターンシップの推進に努めるべきである。企業側も講師候補者のデータベース化、ネットワーク化や人事・就労面での支援体制の整備、並びにインターンシップの受入体制の拡充、採用時にインターンシップ経験者を積極評価できる仕組みづくりなどに取り組む必要がある。大学生、さらには小中高校生等と企業経営者との交流を頻繁に行なうことも検討に値する。

    2. 研究成果の社会的還元のための環境整備
    3. わが国では研究者の3分の1以上が大学に在籍し、また、研究資金の2割強が大学において利用されているが、民間への技術移転という面では著しく立ち遅れている。研究資金の多くが集中している大学で生み出された研究成果を新産業・新事業に結びつけるため、産学協同や企業への技術移転の拡充等を推進し、大学が新産業・新事業を発信することが期待される。

      1. 大学の取組みの強化
        米国の大学においては、教員自らが起業家として活動したり、企業への技術移転を行なうことにより、研究成果の実用化が図られている。わが国においても、起業などの学外活動を積極的に行なう意欲や能力のある教員が、学内、学外で活躍できるよう、大学における意識改革が求められる。評価システムについては、現行の論文による評価に加えて、大学経営や社会への貢献の度合いも評価する複線型のものとする必要がある。また、技術移転の成果を大学、学部、教員間で配分するルールの策定など、学外活動や技術移転を後押しする環境整備に着手すべきである。米国のように、教員が一定期間休職し、企業での研究活動や新事業の立ち上げに従事するサバティカル休暇制度を活用するのも一案である。

      2. 規制緩和
        国立大学の教員については、勤務時間外において民間企業における研究開発または研究開発に関する技術指導に従事することは可能となったが、民間企業の役員に就任することは認められていない。国立大学の教員が、研究成果を事業化しようとする民間企業の事業活動に、役員として主体的に参画できる制度を早急に導入する必要がある。

    4. スタッフ機能の強化
    5. 起業家教育の充実や産学協同、民間への技術移転等を推進するためには、大学内の意識改革とともに、教員と連携してこれらを推進するスタッフ、とくに、技術評価やマーケティング能力、交渉能力に長けたライセンス・アソシエイト(特許取得やライセンスのコーディネーター)やリエゾン・オフィサー(企業との橋渡し役)の確保が不可欠である。専門的ノウハウを蓄積したスタッフを強化するための予算措置を講ずる必要がある。また、企業の実務経験者の活用など、大学の裁量による思い切った人材登用が可能となるよう早急に措置すべきである。

  3. 大企業のベンチャー化
  4. 技術、人材、資金、情報、経営ノウハウなどの経営資源が集中している大企業においても、経営層のリーダーシップにより、従業員の起業家精神を活かして新事業開拓に挑むコーポレート・ベンチャー(既存企業による新規事業創出。分社化するものや社内で推進されるものなど多様な形態がありうる)など、より一層、積極的に新産業・新事業の創造に取り組む必要がある。

    1. 挑戦的風土への改革
    2. 企業内の優秀な従業員のもつ潜在能力を十分に発揮させて、新規事業開拓を推進するためには、企業自らが自己革新を図り、自助・自立、自己責任の原則の下に、失敗を怖れずに挑戦する意欲をもって、創造的な試みを実践する気概を高揚させることが肝要である。そのためには、何よりも経営層のリーダーシップにより、挑戦を後押しし、新たな挑戦を行なおうとする気風を養う必要がある。 失敗しても、それを学習のプロセス、経験の蓄積として前向きに受けとめ、敗者復活戦を可能とし、失敗の経験を活用するとともに、それに則した複線型人事評価システムを構築することが求められる。 また、新たな事業への挑戦というリスクをとる者に対しては、成功した場合の報酬を適正に得られる仕組みを設ける必要がある。とくにコーポレート・ベンチャーについては、母体会社の報酬体系にとらわれずに、大胆な成功報酬制度を導入する必要がある。米国で広く活用されているストックオプションについて、わが国においても、97年の商法改正により制度の一般化が実現したことから、これを最大限に活用し、優秀な人材の確保や役員を含めた従業員のインセンティブ向上を図ることが期待される。98年4月に施行されたストックオプション税制については、権利行使までの待機期間(2年間)の短縮や年間行使価額の最高額(1,000万円)の引上げといった適格要件の緩和などを行なうべきである。

    3. 経営層のリーダーシップの発揮とコーポレート・ベンチャーへの支援
      1. 経営層のリーダーシップの発揮

        (1) 新規事業推進の雰囲気づくり
        安定志向の強い大企業において、従業員の起業家精神を発揮させ、新規事業の創出を促すためには、経営層が率先して新規事業に理解を示し、リスクに対して積極的に挑戦する姿勢を明確にすることが求められる。また、新規事業の芽やアイデアを、社内の管理意識や横並び主義から守るため、とくに、人材、資金、技術をはじめ、各種資源の新規事業部門への適正な配分に関しては、担当者任せにせず、経営層がリーダーシップを発揮する必要がある。
        市場規模やコストなどの面から、一般的に大企業では事業化が難しいプロジェクトであっても、コーポレート・ベンチャー方式を経営層の後押しで推進することによって、採算ベースにのせることが可能となる。成功例を作り上げることによって、社内に、常に新規性を追求する気風が醸成されることも期待できる。母体会社も含めた活性化に向けて、コーポレート・ベンチャーで培ったノウハウ、経験を母体会社本体にフィードバックさせる仕組みを構築しておくことも望まれる。
        経営トップが、新規事業担当者、コーポレート・ベンチャーや社内事務局を直接励まし、精神的に支えることも大事である。
        (2) 社内の縦割の是正
        コーポレート・ベンチャーの立ち上げや発展のためには、母体会社が、経営資金提供に加え、経営管理ノウハウ(人事、財務、経理、法務、営業等)、研究成果、研究・製造設備等の社内の経営資源を提供する必要がある。そこで、コーポレート・ベンチャーが関連部署の協力・支援を得られるよう、経営層が、社内の縦割り組織の弊害を排除して、コーポレート・ベンチャーに経営資源を投入しやすい環境を作る必要がある。
        一方、経営層のリーダーシップによって、企業間と同様、企業内にも競争原理を導入し、弛まざる挑戦が繰り返される仕組みをビルトインすることも重要である。企業は、既存部門との競合が想定される事業であっても、常に新たな手法を試みる機会を積極的に与えるべきである。

      2. 迅速な意思決定

        (1) コーポレート・ベンチャー支援部門と経営層との直結
        コーポレート・ベンチャーの成功のためには、迅速性、機動性、柔軟性が要求される。経営層のリーダーシップにより、コーポレート・ベンチャー支援部門と経営層との距離をなくし、両者が直結する必要がある。
        (2) コーポレート・ベンチャーの独自ルールの容認
        また、コーポレート・ベンチャーの最大の特徴である組織の柔軟性・機動性を損なうことのないよう、人事、報酬、営業体制、外部資源の活用、意思決定等に関しては、コーポレート・ベンチャーの独自ルールを最大限尊重することが不可欠であり、母体会社からの権限委譲を徹底する必要がある。

  5. 真のベンチャー・キャピタルの確立
    1. 米国のベンチャー・キャピタルの役割
    2. 米国では、技術やアイデアがあれば、それを事業化し、発展させる支援ビジネスが整っている。その中核となっているのがベンチャー・キャピタルである。ベンチャー・キャピタルが、コーポレート・ベンチャー、独立ベンチャーを問わずベンチャーの立ち上げや成長・発展のための仕掛け(プロジェクト・フォーメーション)を作るビジネス・プロデューサーとして、ベンチャー・ビジネス発展に決定的に重要な役割を果たしている。即ち、ベンチャー・キャピタリストが独立ベンチャーの役員となり、経営ノウハウを提供するとともに、必要な人材(経営者、技術者、財務担当者等)の確保、各種提携先の紹介、販路開拓などの面で協力したり、起業家の相談相手になっているのが一般的である。ベンチャー・キャピタリストは、個人的な信頼関係に裏打ちされた人的ネットワークを活用している。

    3. わが国のベンチャー・キャピタルへの期待
    4. わが国においても、多くのベンチャー・キャピタルが独立ベンチャーへの投融資を行なっており、銀行、証券会社等の大企業が母体となったものもかなり活動している。今後は、米国のように、人的ネットワークを構築し、ベンチャー・キャピタルが、経営陣強化のための人材斡旋、紹介、新規販売先、提携先の紹介、経営戦略・販売戦略等に関するアドバイス、投資先の役員、業界・人脈の利用、紹介など総合的な企業育成・支援を行なうことが期待される。
      また、技術と企業経営に明るく、創設時の企業の経営を支援できる優秀なベンチャー・キャピタリストを育成するためには、母体会社の人事制度と切り離して、米国で一般化している成功報酬制度の導入などのインセンティブを設けるとともに、企業等の実務経験者で、起業家精神が旺盛な人材や米国のベンチャー・キャピタルで実務経験を積んだ人材の活用を図る必要がある。

    5. コーポレート・ベンチャー・キャピタルの活用
    6. 米国では、最近、大企業自らベンチャー・キャピタルの機能を備え、コーポレート・ベンチャーや外部の独立ベンチャーに出資等を行なうコーポレート・ベンチャー・キャピタル方式が注目されている。コーポレート・ベンチャー・キャピタルは、ベンチャー投資のリスク分散の手段として、長期戦略の観点から連携効果が大きい社外の独立ベンチャーを含めた多数のベンチャー企業に対し出資を行なう。また、ベンチャー・キャピタルの協力を得て、独立ベンチャーとの連携を図っている。
      わが国の大企業においても、ベンチャー・キャピタルと連携して、コーポレート・ベンチャー・キャピタル方式を活用することは、将来の有望ベンチャーとの連携を通じて事業面、活力面で相乗効果が得られる。それはまた、ベンチャー・キャピタルを育成する効果を持つ。コーポレート・ベンチャー・キャピタルを担う専門スタッフについても、米国のベンチャー・キャピタルでの訓練や実務経験の蓄積などを通じて、その育成を図り、そこで得られたノウハウを新規事業開拓に活用すべきである。あわせて、社内にとらわれることなく、海外を含めた社外から人材を取り込むことも検討に値する。

  6. コーポレート・パートナーシップ(対等な企業間提携)の推進
  7. 企業の規模、設立年数にかかわらず、企業が積極的に外部資源を活用して、自らは得意な分野に専心することにより、結果として最適な経営資源の配分が可能となる。とりわけ、大企業の場合、独立ベンチャーとの対等な連携の強化によって、新規事業開拓のみならず、大企業の保守性や硬直性、横並び意識を克服し、組織を活性化することが期待できる。
    米国のように、提携先の選定や独立ベンチャーへの支援の面で、ベンチャー・キャピタルを活用することも一案である。

    1. コーポレート・アライアンス(独立ベンチャーとの戦略的提携)の推進
    2. 独立ベンチャーとのパートナーシップを成功させるためには、対等なギブ・アンド・テイクの関係を構築するとともに、自らの持てる経営資源、経営ノウハウを積極的に提供することが求められる。例えば、独立ベンチャーがリスクの大きい創造的な新技術の開発や製品化を担い、大企業が資金提供、販路開拓の支援などの協力を行なうことが考えられる。また、米国のように、大企業が、技術革新の速い分野やコアビジネス以外の分野で、独立ベンチャーの持つ独自技術やノウハウを活用するため、独立ベンチャーと研究開発面で提携していく必要がある。大企業が有する休眠特許を独立ベンチャーに提供していくことも求められる。

    3. スピンアウトした人との連携
    4. 大企業を退職し、新たに事業を開始する人材についても、大企業の新たな発展の源泉の一つとみなし、対等なパートナーシップ契約に基づいて支援を行なうことで、より少ないリスクで新規事業開拓のメリットを享受することが可能になる。例えば、契約によって、一定割合の株式保有やライセンスの優先権などの条件を定め、コーポレート・ベンチャー同様、社内の経営資源を活用した支援を行なうことが考えられる。また、大企業退職者等のノウハウは、独立ベンチャーにとって、貴重な経営資源となりうることから、大企業退職者等を独立ベンチャーの経営面で活用していくことも検討に値する。

    5. オープンで公正な事業環境の整備
    6. 今後、大企業と独立ベンチャーがパートナーとして発展を遂げていくためには、オープンで公正な事業環境を構築することが不可欠であり、新規参入者を排除するような排他的商慣行は改めるべきである。また、起業家精神旺盛な人材が活躍できるよう、雇用の流動化のための環境整備を行なうことも求められる。

  8. 環境整備
  9. 新産業・新事業創出のためには、民間企業自ら活力を取り戻し、起業家精神を発揮するとともに、政府等において、新産業・新事業創出を行なう上での障害を取り除く観点から、下記の施策を早急に講ずることが求められる。ここでは、新産業・新事業創出のための固有の課題とともに、産業活性化のための一般的な主要政策課題についてもとりあげる。

    1. 税制見直し
    2. (1) 法人税制の見直し
      法人税負担の軽減が不可欠であり、法人課税の実効税率について、現行の46.36%から国際水準並みの40%まで引き下げるべきである。
      (2) 連結納税制度の創設
      連結納税制度を創設することにより、企業の機動的な分社化を可能にすべきである。
      (3) 累進税制の見直し
      個人所得に係る高度累進税率(現在65%)を見直し、個人がリスクに見合ったリターンを望めるようにすべきである。
      (4) エンジェル税制の拡充
      約1,200兆円にのぼる個人資産のベンチャー育成への活用を促すため、97年に導入されたエンジェル税制を見直し、設立5年以内の未公開企業に対する投資額(一定限度内、例えば年間1,000万円限度)のうち、一定割合(例えば20%程度)を所得控除できるよう拡充すべきである。
      (5) ベンチャー・キャピタル税制の検討
      ベンチャー・キャピタルの充実を図る観点から、ベンチャー・キャピタルが起業時や創設後間もない企業に対して行なう出資について、税制面の優遇措置を講じるべきである。
      (6) 寄付金税制の拡充
      法人税の場合、企業が大学等の特定公益増進法人に対して行なった寄付金は損金算入が認められている。産学協同推進のため、住民税についても大学等への寄付金の所得控除を認めることをはじめ、寄付金税制の拡充を図るべきである。

    3. 規制緩和
    4. 経団連では、かねてより、金融・証券、情報通信、医療・福祉をはじめ具体的な規制緩和事項を提言し、政府・与党等関係方面に働きかけており、着実な実現がみられているが、今後も、引き続き、企業活力の発揮や新産業・新事業開拓の観点から、次の点を含めて、規制緩和を推進する必要がある。

      (1) 子会社設立手続きの簡素化等
      現在、100%子会社を設立する際には、総会決議や裁判所の検査役による検査等が必要とされている。子会社設立を容易にするため、100%子会社の現物出資・事後設立について、検査役による検査を不要にし、取締役会決議で行なえるようにするとともに、子会社の定款記載の目的と親会社の定款記載の目的の整合性について弾力的な取扱いを行なうことが求められる。
      (2) 有料職業紹介・人材派遣に関する規制緩和
      有料職業紹介事業のネガティブ・リストの範囲縮小、人材派遣事業のネガティブ・リスト化を速やかに進め、人材の流動化に向けて民間活力の活用を促すべきである。
      (3) 年金ポータビリティの実現
      人材の流動化を促進するため、企業年金について、ポータビリティを確保できるよう、積立金の受け皿となる個人勘定を創設すべきである。その際、企業年金間、または企業年金と個人勘定との間の積立金の移動の際に、課税が行なわれないよう、必要な税制上の措置を講じる必要がある。
      (4) 再挑戦を可能とする倒産法制の検討
      わが国では、ひとたび事業が失敗すると、法制上、再び新事業に挑戦することが極めて困難になっている。現在、法務省において倒産法制の見直し作業が進められているが、起業家の再起を促す観点から債務者保護のあり方や破産手続きの負担軽減等に関する検討を急ぐべきである。

    5. 店頭登録市場の活性化
    6. ベンチャー企業が店頭登録を円滑に行なえるよう、企業側のニーズをふまえて店頭登録市場の活性化を図るべきである。例えば、売買気配の常時発表や、気配のスプレッドの適切な設定など、マーケットメイクの活発化が期待される。

    7. 行政サービスの民間へのアウトソーシングの促進
    8. 国や地方公共団体が、民間企業へのアウトソーシングを促進することによって、行政サービスに関わるコスト削減やサービスの質の向上を図るとともに、新たなビジネスの育成を図るべきである。

    9. 公共調達におけるベンチャー企業の参入機会の拡大
    10. ベンチャー企業は市場開拓や実績作りに多くの困難を伴う。そこで、これを側面から支援するため、米国においてルール化されているように、国や地方公共団体が行なう公共調達等において、一定割合の中小企業優先枠の設定や、仕様の策定プロセスのオープン化等により、ベンチャー企業の参入機会を拡大すべきである。

以 上


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