経団連排出権取引・共同実施等に関する調査チーム報告書

団長所見

経団連排出権取引・共同実施等に関する調査チーム
団長 中田 敏夫

  1. 総 論
    1. 温暖化対策についての米国の認識
    2. 京都議定書の批准

  2. 柔軟性措置について
    1. 排出権取引(キャップ&トレード)
    2. 排出権取引の問題点に対する米国の考え
      1. キャップ(排出枠)の設定は経済統制ではないか?
        キャップはトレード(売買)と一体不可分と捉え、どのようにするかは企業の自由裁量に任されており、統制ではない。キャップの設定は自由経済の理念に反するものではなく(DOS)、土地取引と同様に考えれば良い(MIT)。つまり、両者共に天より付与された限定された資源であり、所有と使用を分離し、所有権は法的プロセスで決められ、使用権は市場で決められる(MIT)。

      2. SO2の場合と異なり、実用可能な処理技術や代替技術に乏しく、売手市場になってしまい、制度として機能するのか?
        市場メカニズムが最小の費用で最も効果的に機能するとの考え。価格の上昇が売手の増大と技術革新を刺激する。(産業界の中には実際問題として海外諸国は米国内取引価格以下では売らないので、費用は削減できないと見るところもある。)

      3. キャップの配分は、十分公正に行え得るものであろうか?
        SO2の経験によれば、一定の算出方式に加えて、クリーンプラントには実績の20%増、人口急増地域には4%増等の政治的配慮も加えられており、共通算定方式+特殊事情配慮でうまくいくと考えられている(EPA)。なお、最初からすべてオークションで行う方が良いとの考えもある(CCAP)。

      4. CO2の場合、SO2と異なり、対象範囲が広く、キャップ&トレードのメカニズムはうまく機能するだろうか?
        CO2の場合、電力、鉄、セメント、化学、紙パルプ等の主要製造業については、SO2と同じ考え方が適用され得るが、運輸と民生部門をどのようにするかが、今後の検討課題である(CCAP)。

      5. 新規参入者を阻害することにならないか?
        SO2の場合には、EPAが毎年各排出者より約2%供出させ、それをオークションにかけ、その収入は供出者に返却している、同様な方法がCO2の場合にも取り得る。新規参入者は排出権をオークションで購入できる。

      6. キャップ&トレードでの行政府の役割は実際どうなっているのか?
        SO2の場合、議会が排出枠の割当のルールを決め、排出枠の設定を行う。排出源毎のSO2の排出量の管理はEPAが行う。この場合の重要なポイントは排出量のモニタリングシステムの設置を義務づけ、コンピューターで自動的に1時間毎に排出量が報告される。3ヵ月に1度排出量の正式の報告は別途行われる。一旦、このシステムが出来れば、取引については関係者は取引量をEPAに報告するのみで、それ以上のことは要求されない。但し、違反に対する罰則は厳しく、排出枠を越えた分について高額の罰金を課すと共にその分を排出枠から削減し、場合によっては責任者に刑事罰も課す。

      7. 森林の評価についてはどうか?
        植林によるCO2の固定の評価方法はいろいろ研究されているが、既存の森林を破壊から守ることによる森林管理についても、NGOが総合評価のノウハウを持っている(The Nature Conservancy)。

    3. 共同実施(JI)・クリーン開発メカニズム(CDM、対途上国)
    4. 一言で言えば、JI, CDM両方共に問題点が多いというのが米国の見解。行政府はJI, CDM共に制度の構築と運用が複雑で、取引コストがかかりすぎるとして、キャップ&トレードをベースとして排出権取引に重点を置く方針を明確にしている(DOS, DOE)。一方、米国の産業界は、政府やNGOの協力も得て、これまで省エネルギーを中心とする自主行動計画と海外については、JI, CDMがパイロットプロジェクトを推進してきており、JI、CDMへ高い関心を示している(EEI, BCSE, USCIB)。なお、欧州域内で行われる不透明なJIと排出量のデータ整備に信頼性を欠くロシアとのJI(所謂“ロシアン・ホットエア”)に懐疑的である。

  3. 経団連の検討課題
    1. JI、CDMに加えて、費用対効果の高い対策であると米国で評価されている排出権取引の問題点や課題の整理と検討。
    2. 目標期間(2008年〜2012年)の前に早期に自主的にこれら柔軟性措置を活用(アーリー・リダクション)する場合の問題点や課題の整理と検討。
      1. 経団連環境自主行動計画の中での柔軟性措置の位置づけの検討。
      2. 産業界がJIやCDMに該当するプロジェクトを発掘・推進する仕組みとして、ビジネスベースだけで十分行なえるか。不十分な場合、どのような対応策がありうるか。
以 上

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