わが国の宇宙開発・利用および産業化の推進を望む

1998年7月7日
(社)経済団体連合会


  1. はじめに
  2. わが国の宇宙開発はこれまでのところ比較的順調に進展してきており、その成果の利用も始まりつつある。科学技術創造立国を目指すわが国にとり、宇宙開発・利用の推進と宇宙産業の育成は、国際貢献、国家技術戦略の面から重要であり、政府として宇宙プロジェクトへの取り組みをさらに強化すべきである。
    一方、厳しい財政状況の下で、科学技術等の大型のプロジェクトについては、その必要性や経済性、経済・社会への寄与が厳しく審査される状況となっている。幸い宇宙開発については、先の総合経済対策においてH-IIAロケット、JEM等の開発の前倒しが認められるなど、既に関係方面の理解を得られているところである。しかし、今後とも国家プロジェクトとして宇宙の開発・利用を継続的に推進するためには、官民が協力して、宇宙開発・利用の意義や効果、開発努力の実態等を広報し、国民の理解と支持を得ることが重要である。

  3. 21世紀に向けた宇宙開発・利用の推進
    1. 科学技術を先導する宇宙開発
    2. 科学技術基本法においてわが国は科学技術創造立国を目指すこととされており、経済が低迷しているこの時期にこそ、将来への布石として技術および新産業を創出する基盤となる宇宙開発を一層推進すべきである。
      また、宇宙の開発・利用は、気象観測、大規模災害の監視、資源探査等を通じてグローバルな地球環境問題の解決などに寄与するものであり、わが国は国際貢献の視点からも、独自の宇宙開発技術をもって宇宙の開発・利用に積極的に取り組まなければならない。

    3. 経済・社会の発展に寄与する宇宙開発・利用
    4. 今後の宇宙開発・利用においては、科学技術という軸に加え、経済・社会への寄与という新たな軸の重要性が増していく。既に、宇宙開発の成果は、通信・放送(BS、CS放送、多チャンネルデジタル放送、携帯電話)、地球観測(気象観測、災害監視システム)、測位(カーナビゲーション)分野等に広範囲に利用されており、宇宙は陸・海・空に次ぐ「第4のインフラ」として国民生活の質的向上に大きく貢献している。更に、今後のマルチメディア・ネットワーク化の加速度的進展に伴い、宇宙がその重要性を増すことは確実であり、欧米諸国のように宇宙を戦略的インフラとして位置づけ、官民を挙げて開発・利用への取組みを強化する必要がある。

  4. 国際競争力を有する宇宙産業の育成
  5. わが国の宇宙開発は、自主技術による開発を基本方針とし、官民一体の努力の下、今日ようやく国際的に遜色のない技術水準を確立するに至った。宇宙関連企業は、高品質や信頼性の維持に努めつつ、コストダウンや工期の短縮等を進めており、企業努力の成果は、例えば、H-IIAロケットによる海外商業衛星の打ち上げの受注や衛星のコンポーネントの輸出として結実しているところである。
    しかし、衛星システムや次世代の輸送系については、未だに国際競争力を有する段階に至っていない。宇宙関連企業としては、昨今の衛星、ロケット打ち上げの不具合も教訓として、引き続き技術力強化を図り、確実性と経済性の両面で国際競争力の維持・向上に取り組む所存である。欧米では宇宙産業の育成は国家的課題となっており、わが国においても、宇宙産業の自助努力に加えて、今後は国として宇宙産業育成策を積極的に展開することが求められる。

  6. 推進すべき重要課題
  7. 宇宙開発・利用を推進するとともに、わが国宇宙産業の国際競争力の維持・向上を図るため、以下の施策を重点的に推進することが望ましい。

    1. 宇宙輸送システムの分野
    2. 国際水準並みの低価格とそれによる人工衛星打ち上げの商業化の実現が確実に見込まれるH-IIAロケットの開発を計画通りに推進する。また、要素技術の取得が可能となる宇宙往還実験機(HOPE-X)の開発を促進するとともに、中型ロケットについても研究を推進する。宇宙への輸送コストを大幅に削減できる完全再使用型宇宙輸送機(RLV)については、世界の潮流に遅れないよう早期に研究に着手する。

    3. 衛星および宇宙科学の分野
      1. 地球観測システムの充実
        地球環境を監視したり、大規模災害に迅速に対応するために、陸域観測技術衛星(ALOS)、環境観測技術衛星(ADEOS−II)の開発を推進するとともに、降水観測技術衛星等の後継機を早期に立ち上げ、地球観測システムを早急に充実する。

      2. 月・惑星探査の推進
        惑星探査、天文観測などの科学観測計画を着実に推し進めるとともに、月探査活動を行なう上で基盤となる技術の開発などを目的とした月探査周回衛星の開発に着手する。

      3. 通信・放送分野の開発推進
        通信・放送分野での次世代技術開発のため、技術試験衛星VIII型(ETS−VIII)およびデータ中継技術衛星(DRTS)の開発を推進し、超高速通信技術衛星の開発研究に着手する。

      4. ミッション実証衛星シリーズの推進
        ミッション実証衛星シリーズの研究開発を着実に進めるとともに、今後のミッション機器やミッション選定の公募選定制度については、民間企業が参画しやすい体制を整備する。

    4. 宇宙ステーションの運用・利用の分野
    5. 宇宙環境利用の中心となる「軌道上研究所」であるわが国の実験棟(JEM)の2002年からの運用開始に先立ち、事前準備を早期に本格化させる。また、民間企業が利用しやすいよう、より有効な利用方法を開発するとともに、利用分野の拡充を検討する。また、JEMへの物資補給のための補給機(HTV)についても、引き続き開発を推進する。

    6. 国際競争力の向上のための施策
      1. 適正な利用料で民間が活用できる国の大型試験設備の整備
      2. コストダウンや工期の短縮のための技術開発(設計・試験等における効率的開発手法)及び規制緩和
      3. 宇宙開発の成果技術の利用に係る規制の弾力的運用
      4. 国や宇宙開発事業団の保有する技術の民間への移転促進
      5. 国や関連機関による衛星通信、地球観測等宇宙インフラの利用の更なる推進

    7. 中長期プロジェクトの推進
    8. 全地球観測システム、全地球航行衛星システム(GNSS)、無人プラットフォーム、有人支援型プラットフォーム、大型天文観測衛星、有人宇宙活動、太陽エネルギー利用などの中長期プロジェクトについては、適切な時期に研究に着手する。

    上記プロジェクトの円滑かつ着実な推進および産業化に向けた取組みの強化のため、平成11年度の予算編成においては本年度の実績を踏まえ、宇宙関係予算の充実を図ることが必要である。

以 上

日本語のホームページへ