次代を担う人材と情報リテラシー向上策のあり方に関する提言

II.経営改革と情報リテラシー向上


  1. 経営改革に向けた情報化の意義
  2. わが国企業は、激しい環境変化と世界的な大競争時代の中で、競争上の優位を確保するため、コスト削減と付加価値創造を目指して俊敏で、活力ある企業づくりに取り組んでいる。とくに、企業と市場、顧客や取引先との間の距離の短縮、ならびに管理間接部門等の革新(業務の簡素化、効率化、迅速化)などが急務となっている。その鍵を握るのは、研究開発、製造工程から販売、アフターサービスまでの一連の事業プロセスの迅速化、ならびに、管理間接部門、営業部門、ソフトウェア開発部門等の生産性向上である。これまで競争の矢面に立ってきた生産部門では、懸命の合理化努力によりコスト削減や効率化が進んでいるが、それを取引先を含めた効率化・迅速化や顧客へのサービス向上、販売拡大等につなげていくことが求められている。管理間接部門、営業部門等においても、業務の抜本改革と能力向上等により、業務の効率化と付加価値の拡大、すなわち生産性向上を図らなければならない。

    そのためには、人事・報酬制度の見直しも必要であるが、同時に、

    1. コミュニケーション・スタイル(社内や社外との迅速・確実・双方向のコミュニケーション等)、
    2. マネジメント・スタイル(素早い意思決定、即時処理・即時伝達、迅速な実務展開、正しい情報の把握、情報の管理等)、
    3. ワーク・スタイル(直行直帰、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、時間・距離・組織を越えた情報の検索と活用等)、
    を革新することが重要である。そうした革新の手段の一つとして、いつでもどこでもすぐに、必要な情報を使え、指示を出せ、報告を受けられる、シームレスな情報ネットワークを整備し、活用することが不可欠となっている。

    わが国を代表する企業の多くは、実質的に一人一台端末時代を迎え、パソコン操作研修、電子メールやインターネットの操作研修、紙情報の電子情報への切り替え等に取り組み、情報機器利用意識の高揚、電子メ−ル文化の浸透、部内での情報共有化、単純業務の効率化など一定の成果をあげてきた。今後は、効率的で付加価値の高い企業づくりを目指して、

    1. 営業、生産、開発など基幹業務の拡充や経営戦略等意思決定のため情報を戦略的に活用すること、
    2. 情報ネットワークや情報資源を徹底して活用していく情報化文化を成熟させること、
    3. 競争優位のための価値の創造に向けて、シームレスな情報ネットワ−クを利用した協働(異なった部門、異なった職位者が、物理的距離、組織の壁を越えて共同作業を行うこと)による業務の並行化・同時化、
    4. 社内外の良質な情報や社員のもつノウハウを組織的に探索・選別、蓄積、管理、共有、分析する知識管理、
      さらには、
    5. 調達、生産、在庫、販売、物流、アフターサービスなど一連の業務に必要な情報を、関連する企業、部門等が瞬時に共有して迅速に業務を遂行するためのサプライ・チェーン・マネジメント、
    などが重要となっている。

  3. 経営改革のための情報リテラシー向上
    1. 情報リテラシーとは
    2. 情報ネットワークを活用して効率化や付加価値の向上を図るためには、情報リテラシーが不可欠である。情報リテラシーとは、情報機器を操作する能力(コンピュータ・リテラシー)にとどまらず、情報ネットワークを活用して必要な情報を収集・整理・加工・分析し、本質をつかんで発信できる能力、業務に精通し、業務に必要な情報を管理・更新・活用して新たな価値の創造を行う能力である。
      言い換えれば仕事の能力そのものであり、ワープロソフト、表計算ソフト、電子メール等を使えるコンピュータ・リテラシーにとどまらず、パソコン、インターネット等の情報ネットワークを活用して、状況分析、問題の把握と課題の設定、問題の解決、業務改革、経営管理、論理的な説明・報告等を行えるビジネス・リテラシーの両方が備わった能力である。俊敏で活力ある企業に向けて経営を革新していくためには、情報リテラシーの向上が不可欠である。

    3. 情報リテラシー向上のための課題
      1. 情報化文化の醸成、風土の改革
        技術、ネットワーク環境等の基盤整備の段階から、情報化の展開・定着、情報活用へ移行する段階を迎えている。企業内においては、社員にネットワークで結んだパソコンを配布し、基本的な操作教育を施すなど、情報活用のための下地は充実しつつある。今後は、情報ネットワークの可能性を十分に発揮させるため、情報を電子化して経営や事業活動、あるいは意思決定に活用することが重要である。あらゆる業務を徹底的に情報ネットワークを活用して行うという企業文化の醸成、風土の改革を進めることが求められている。そのため、経営層のリーダーシップのもとに、経営戦略の一環として、取引先との関係を含めて情報ネットワークで仕事ができるよう、管理間接部門、営業部門等の業務内容や手続き、勤務形態等を改革することが不可欠となっている。

      2. ビジネス・リテラシーの強化

        1. 情報の創造・発信・活用
          情報ネットワークについては、単なる管理間接業務等の効率化の手段にとどまらず、それを戦略的に活用して競争優位につながる価値を創造することが重要になっている。
          めまぐるしく変化する企業環境の中で、経営に関する意思決定やその迅速な実践、あるいは市場や顧客との距離の短縮による商品開発や販売促進等に情報ネットワークを活用していくことが求められている。単に情報の共有を図るにとどまらず、情報ネットワークを活かして、時間・距離・組織の壁を越えた共働を推進し、効率的に新しい価値を生み出すことが重要な課題となっている。情報の有効な利活用が行われるためには、情報の正確性の確保と情報の鮮度の維持が鍵となる。

        2. 情報マインドの醸成
          電子化されたネットワークを通じて報告、連絡、相談、情報交換や意思疎通等を円滑に行うためには、情報の受発信や情報の収集・活用に関するマナー、モラルが必要である。とくにコンピュータ・ウイルス対策、プライバシー保護を含めた情報の管理・保全や著作権の保護に対する意識の向上を図るとともに、情報の管理・保全の確保が可能な情報システムを整備することも重要である。

  4. 企業における情報リテラシー向上のための方策
  5. わが国を代表する企業は、次のような問題意識で情報リテラシーの向上に取り組んでおり、こうした取り組みは、経済社会全体の情報リテラシー向上にとって大いに役立つものと期待される。なお、中小企業の中には、大企業以上に情報ネットワークを有効に活用しているところも多いが、情報ネットワークは参加者が多いほどメリットが大きくなるので、大企業においては、グループ企業や取引先などにおける情報リテラシーの向上を支援していくことも望まれる。

    1. 経営者のリーダーシップと管理職のリテラシー向上
    2. 経営トップにおいては、情報化の重要性を理解し、情報化の環境づくりに積極的に取り組むとともに、自らが範を示すことが、重要な責務である。すでに、役員会議での報告、説明用資料等を紙からパソコンに移行したり、役員からの指示や役員への報告等を電子メールに変えたりする取り組みが行われている。
      また、管理職についても、情報機器の扱いに慣れるだけでなく、情報ならびに情報ネットワークを事業活動、経営管理等に活用していく必要がある。情報活用の有効性と重要性を良く理解し、自部門が企業経営のために責任をもつべき情報の整備・発信に努め、経営に役立てるとともに、自ら関係部門に対しても必要とする情報を要求することが重要である。さらに、業務に精通した中高年層の知識やノウハウを活用できる環境を整備すると同時に、情報ネットワークを有効に活用できる若い人達の提案を受け入れる姿勢が求められる。こうした観点から管理職向けの教育メニューを整備するとともに、管理職の意識改革を促すことが望まれる。
      情報ネットワークを使わないと仕事ができない仕組みを作ることも重要である。その際、情報システム部門だけに任せず、役員層が率先して推進することが肝要である。また、既存業務の単なるOA化にとどめるのではなく、当該部門の業務をよく理解している人が業務分析を行った上で、業務内容、仕事の進め方等を改革することが求められている。権限の見直し、明確化、標準化、さらには管理・間接業務の削減、重複の排除を進めるとともに、対話型・並行型の共同作業、他人の作業結果を活かした作業等が容易にできるようにすることも重要となっている。

    3. 情報発信の土壌づくり
      1. 必要な人が必要な時に欲しい情報を活用できる環境、業務に必要な情報、資料、ノウハウ等をデータベース化し、時間・距離、組織の壁を越えて、効果的(迅速化、効率化、的確化)に共有できるようにすることが求められている。とくに、陳腐化した情報の価値は極めて低いので、情報発信の重要性を認識し、積極的に情報を発信するような意識を醸成することが大切である。情報の鮮度の維持を図るため、日々データが更新され、必要な情報が適時適切に共有されるような環境を整備する必要がある。そのためのインセンティブとして、提供される情報に価格をつけて人事評価へ組み込んだり、情報提供の質を社員の業績評価の項目に追加して給与に反映する、などの取り組みが既に始まっている。

      2. グローバル化の進展や世界大競争の到来等にともない、情報の収集や発信において常に英語等外国語を意識せざるを得ない環境にあり、グローバルなコミュニケーション能力の育成が急務である。また、情報交換、議論、意思疎通等を効果的に行えるようにするため、論理的思考と説明能力、ディベート能力の育成に配慮する必要がある。

    4. 企業における基盤整備
      1. 社内や取引に関する情報等の電子化ならびにデータベース化を推進する一方、イントラネット、エクストラネットなどのネットワークの上に、個別分野のサブシステムを意識することなく情報が流れ、あるいは情報を引き出し活用できるシステムを整備することが求められている。例えば、顧客情報や顧客への提案事例などを蓄積した営業情報データベース、社員の技能・資格・業務経歴などを蓄積した人材情報データベース、人事総務情報や業務マニュアルなどを蓄積した全社情報データベースなどの各サブシステムに蓄積された情報を引き出せ、活用できるシステム、また、設計・製品開発、生産、受注、販売等の情報がシームレスに流れるシステムの構築が望まれる。情報の流通性を高めるため、データに関する意味・定義の明確化等を図ることも重要である。

      2. また、効率的な営業やゆとりある勤務等のためにワーク・スタイルを変革する観点から、セキュリティに十分配慮しつつ、場所にとらわれず情報の発信、共有、活用ができるよう、モバイル環境を整備する必要がある。

    5. リテラシー教育の強化
      1. 情報の創造と利活用能力の育成
        情報技術を活用し、組織や業務の改革、生産性の向上に寄与できる人材を育成するため、

        1. ネットワークとデータベースと現場情報とを駆使して問題の把握と解決に向けて情報を創造する能力、
        2. 知識・知恵・ノウハウを含む情報をデータベース化して共有する能力、
          ならびに
        3. あふれる情報の中から必要な情報を取り出す取捨選択能力、
        等の強化が求められている。例えば、情報ネットワークを利用して個々の情報間の相関関係を明らかにし、どの様な時にどの様なものが誰に売れるのかという分析を行い、新商品開発、市場開拓に繋げることなどが期待されている。その際、与えられた課題への対応だけでなく、情報ネットワークを用いて課題を自ら見つけ、解決していく能力を育成することも重要である。
        既に、パソコン操作研修、電子メールやインターネットの操作研修等のコンピュータ・リテラシー向上のための教育は進んでいるが、今後は、実務に役立つ応用面の研修、すぐれたネットワーク活用事例の紹介等を行うことが求められている。
        また、情報を経営資源と捉えて、戦略的に情報ネットワークを新商品開発、営業等に活用するためには、パソコン知識に詳しい人ではなく業務を理解した人がリテラシー教育を支援することが重要である。部門毎に指導者を育成、配置し、業務ニーズに密着した教育を企画・実施することが今後の課題である。

      2. 情報マインドの育成

        1. 情報を受発信し、収集・活用する際、マナーやモラルを遵守することが重要であり、社員に対する啓蒙を図ることが求められている。例えば、相手の誹謗中傷やいたずらなど、自分が受け取ったら不快になるような電子メールは発信しないこと、顧客等に関するプライバシーの保護を徹底することをはじめ、マナーやモラルの遵守を徹底させることが重要であり、既に社内倫理規定の制定、情報エチケット集の作成等を行う動きがある。
        2. 情報保全のためにセキュリティの確保が重要である。経営者自らセキュリティに対する認識を深めるとともに、セキュリティに関する行動基準等を示すなど、全社をあげた取り組みが求められる。外部からの情報ネットワークへの侵入を阻止する手段を強化することは大事であるが、内部の者が情報を盗むケースが情報漏洩の約9割にも及ぶと言われており、内部のアクセス権者自身に情報の取り扱いに関する意識を高揚させる必要もある。また、パスワード管理をしっかり行うことはもちろん、アクセス権者以外からのアクセスを阻止することが重要である。アクセスのしやすさを追求するあまり、セキュリティの確保が疎かになってはならない。
          企業の情報システム面においても、情報ネットワークのオープン化に対応し、安全性の強化が極めて重要になっている。情報の保全・保護のための基盤を整備する観点から、不正アクセス防止のためのファイアーウォールの強化、ウイルスに対する防疫体制の整備や防疫手段の強化等が求められている。
          また、企業間の情報ネットワーク化が不可欠になっている中では、安全性に留意しつつ、互いのネットワークの親和性が確保されるよう配慮する必要がある。例えば、コンピュータの2000年問題(西暦を下二桁でしか認識しない様式であるため、2000年以降のデータを処理する場合に情報システムがストップしたり混乱したりする問題)については、自社だけでなく、取引先や関連会社を含めてシステムの状況を把握し、適切な対応を行うことが重要である。
        3. 著作権保護の意識向上は不可欠である。ネットワークを通じて入手したデータ、メッセージやプログラムなどの著作物を、著作者などの許可なく使用することは著作権の侵害となる可能性があるので、複製、転載、引用などの際には、適切な処置を講ずる必要があることを周知徹底することが求められている。

      3. 社内教育環境の整備
        社員が業務に密着した情報リテラシーを主体的に身につけるようにするため、必要なことを、必要な時に、自分の時間が空いた時に、自分の学習進度に合わせて、自分の席で、自主的に学習できる環境を整備することが求められている。


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