次代を担う人材と情報リテラシー向上策のあり方に関する提言

III.情報リテラシー向上のための環境整備


  1. 教育機関での情報教育のあり方
  2. 経済社会全体の情報リテラシーを向上させるためには、教育機関における情報化をより一層推進する必要がある。すでに米国では、クリントン大統領が、1996年1月の一般教書演説で、「2000年までに、全米のすべての教室、図書館を、コンピュータと優れたソフトウェア、よく訓練された教師によって、情報スーパーハイウェイに接続する」方針を示し、さらに1997年2月には「今後4年間の最優先の課題は、…12才でみんながインターネットにアクセスできること」を表明するなど、教育分野における情報化を国家戦略として推進している。

    1. 教育の質的変化
    2. インターネット等の情報ネットワークは、教育の質的変化をもたらす。例えば、可視教育、バーチャル教育、遠隔教育などが行えるようになる。現在の紙の2次元の教科書は、生徒の視聴覚をより刺激する映像や3次元の情報教材へと生まれ変わる可能性もある。学校の枠を越えて、自主的な情報の収集や幅広い交流、さらには感情が込められた情報の交換や意思疎通も可能であるため、人間関係や心を育む上でも有益である。
      今後、児童・生徒が、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する能力を身につけるとともに、主体的なコミュニケーションを行なえるようにするため、教育現場において、積極的に情報ネットワークを活用すべきである。その際、インターネットの利用体験を通じて、情報を選択し、活用する能力を育成することが大切である。選別ソフト等による有害情報へのアクセスの制限等は必要であるが、自ら判断する能力を身につけさせるためには、自由にインターネットの世界を渡り歩き、情報を収集することを基本としなければならない。また、児童・生徒が情報ネットワークの利用に関するルール、マナーを身につけ、実践できるようにすることも非常に重要である。

    3. 校長ならびに教職員のリテラシー向上
      1. グローバルな情報化社会に対応できる人材を育てるためには、教育現場において情報技術を活用できる教員を登用する必要がある。1998年3月末現在、コンピュータを使用して教科等を指導できる教職員は、小学校で21.7%、中学校で23.2%に過ぎない。現役の教職員に対する情報リテラシー教育、ならびに大学での教員養成カリキュラムを充実させるとともに、教育職員免許法に基づいて定められている教育免許取得に必要な科目の見直し(例えば、情報ネットワークの活用を早期に必修とする)、最低取得単位数の見直し等を行う必要がある。また、情報リテラシーの水準を、昇給等に反映させることも求められる。教員が民間企業で情報ネットワークの活用に関する実地研修を受けられる制度の導入も積極的に推進すべきである。
      2. 企業では、情報リテラシー向上、情報ネットワークでの実務への活用のために、経営トップならびに管理職に対する情報化教育の優先的な実施や、一人一台パソコンを配備してパソコンを利用しないと業務に差し障りがあるような環境整備などに取り組んできた。学校においても、トップ層である校長、教頭等への情報リテラシー研修を集中的に実施すべきである。また、現在、公立の小中学校の職員室(保健室を含む)の多くは、単独利用しかできないパソコンが1台あるかどうかという状況にあると言われているが、職員室の情報ネットワーク化を促進し、教員が一人一台、ネットワークでつながれたパソコンを活用して情報共有、意思疎通や家庭との双方向のコミュニケーション等に心がけるべきである。教育する側の情報化が進み、児童・生徒のリテラシーの向上が加速されることが期待できるだけでなく、事務の効率化に伴って、教職員に余裕が生まれ、児童・生徒と向き合う時間をより多く確保することが可能となる。
      3. 教育界が、国民から期待される役割を果たしていくためには、様々な人材を受け入れることが重要である。とくに教育の情報化に関しては、その導入・普及期には、指導教職員の絶対数が不足することが懸念される。そこで、目的に合せて情報ネットワークを使う方法を教えたり、情報ネットワークを活用して科学、社会、外国語等の分野の教育を実践できる民間人、例えば、民間企業における定年退職者や現役社員の活用を図るとともに、民間企業へのアウトソーシングを積極的に行う必要がある。
      4. 米国では企業人を中心とするボランティアが、学校に入り込んで、ネットワーク接続やパソコンの利用等に関する支援を行っている。わが国においても、NTTを中心とする民間企業、団体、個人が、全国の小中高等学校等の約1,000校に対してネットワーク利用環境を支援する「こねっと・プラン」など、民間からの支援事業が一定の成果をあげているが、教育機関に対する情報システム・機器の設置、維持・管理を積極的に支援する活動が更に活性化することが期待されている。
        学校側も、民間企業等からの支援を前向きに活用すべきである。同時に、寄付などによって得られたものを含めて情報システム・機器をただの「箱」に終わらせないためには、維持・管理が不可欠であるという意識を改革し、適切な維持・管理のための措置を講ずることが不可欠である。

    4. ネットワークを活用した教育の拡充
      1. ネットワークの活用

        1. インターネットなどネットワークを活用して、多様な情報ソースから情報を収集することは、学習内容を掘り下げ学習効果を高めるとともに、児童・生徒が情報の洪水の中から必要な情報を選択する能力を習得する上で、極めて有効である。
        2. しかしながら、国公立の学校でのインターネット接続率は極めて低く、1998年3月末現在、小学校で13.6%、中学校で22.7%、高等学校で37.4%にすぎない。また、1学校当りの回線数は2.6本しかないという調査結果もある。これに対して、情報化先進国である米国では、昨年秋時点で、小学校で75%、中学校は89%がインターネット接続をしている。また、米国では5教室以上接続している学校が43%を占め、大統領は2000年までに全教室をインターネット接続する方針を打ち出している。わが国においては、全学校へのインターネット接続の目標年度が中高等学校2001年度、小学校2003年度となっているが、これを、例えば3年前倒しし、2000年度までに全学校インターネット接続を実現するとともに、できるだけ早期に全教室へのインターネット接続を図るべきである。インターネットの接続に要する通信・接続料金は、利用形態等にもよるが、米国の2、3倍することもある。ネットワーク活用に要する費用を財政面から支援する必要があるとともに、通信事業者による教育機関向け通信料金割引サービスの提供が期待される。
        3. 中学校での情報教育は、技術・家庭科の中の「情報基礎」という選択領域に過ぎないが、必修科目とする必要がある。また、現在は、ほとんどの時間が機器の操作等の指導に当てられ、また、第3学年で履修する学校が大半であるため、他の教科での情報ネットワークの活用という点では不十分である。今後は、他の教科の学習においても情報ネットワークを積極的に活用すべきである。なお、教育の情報化にあたっては、コンピュータ・リテラシーの高い生徒には、さらにその能力を高めて活かせるような場を作ることにも配慮すべきである。
        4. 学校の図書館の情報ネットワーク化を進め、現在の紙の本を置く場所という概念を脱し、図書館は、外部のデータベース、ホームページ等とを結ぶ拠点へと発展させる必要がある。
        5. 全国で1,000近い地方公共団体の条例においてオンライン接続が禁止されているが、これは、公立学校のインターネット接続の制約となり、児童・生徒によるインターネット利用を阻害している。オンライン接続禁止条項の見直しが急務である。
        6. 将来的には、パソコンが、鉛筆・ノート等と同じような文房具になることが予想される。生徒は自分のパソコンを持ち込み、ネットワークにパソコンを接続して授業を受ける日が到来することを想定し、学校にネットワーク環境ならびに教育用サーバー、プレゼンテーション機器等を整備することを前広に検討すべきである。

      2. 学習用ソフトの充実
        わが国の教育にふさわしい学習用ソフトの拡充が必要である。企業、行政等において児童・生徒が容易に利用・理解できる平易なホームページを拡充するとともに、動画による社会、科学関連コンテントの開発、各地の博物館、図書館、資料館など地域発のコンテントの全国利用、コンテント利用の教育プログラムの開発を推進するなど、児童・生徒向けコンテントの充実が望まれる。その際に、日本の風土、歴史をふまえたソフトの開発・提供が求められる。同時に、国際化に対応できるよう、外国のデータベースや学習ソフトを活用することも望まれる。この場合、外国の児童・生徒向け学習用の優良なソフト資産が、英語ゆえにそのまま活用できない場合もあるので、児童・生徒が夢中になり、教育効果の高い優良な学習用ソフトについては組織的に日本語化し、ソフトの充実化を進める必要がある。

    5. 学習指導要領、教科書の機動的な見直し
    6. 情報ネットワーク技術は急速に進歩しており、情報化に関する教育もこれに対応していかなければならない。現在、学習指導要領の見直しは、10年毎にしか行われていないため、技術革新に対応できるよう、学習指導要領を大綱化するとともに機動的に見直すことが望まれる。
      また、情報に関する教科書の内容については、情報ネットワークに親しんで活用することを重視すべきである。現在多くの日本人が英会話に苦労している大きな要因は、文法を中心に据え、現実の生活や社会の中で活用する視点を欠いていた英語教育にある、ということは衆目の一致するところである。グローバルな共通言語となっている英語に関する実務的な表現力を高める観点から、小中高等学校段階での教育のあり方を改革する必要があるが、こうした英語教育における教訓は、情報教育のあり方を考える際にも、大きな示唆を与えるものである。
      現行の中学校の「情報基礎」に関する教科書は、演算装置としてのコンピュータの仕組みやプログラム言語など情報科学的な知識に関する記述が多い。しかし、コンピュータを、ネットワークに接続して情報を収集、分析、発信したり、コミュニケーションを行うものと捉え、コンピュータに関する知識を離れて、情報ネットワークに慣れ親しみ、徹底的に活用することから始めるのが望ましい。企業では、教育研修の実をあげるため、パソコンの専門家ではなく、実務を理解した者が指導することが重要となっており、情報教育においても、情報科学ではなく、学校の内外との交流や他の教科への応用面・活用面を重視した内容とすべきである。
      また、現在の教科書では、急速な技術革新に対応できず、一般的には既に使われない、あるいは習得する必要のない技術、知識までも含まれている。今後、印刷メディアとしての教科書を、技術革新に対応して機動的に見直すとともに、多様なメディアを活用した教育を可能とするために教科書の概念を広げる必要がある。

  3. 情報利用環境の整備
  4. 情報リテラシーの維持・向上を図るためには、教育・研修で身につけたパソコン操作等のノウハウを日常生活、日常業務の中で活用できるような環境が整備されなければならない。

    1. 行政、立法機関、裁判所の情報化の促進
    2. 行政の情報化は、行政の効率化・サービスの高度化、さらには行政改革を可能にするのみならず、国民、企業の情報リテラシーの向上にも繋がる。行政自らも情報リテラシー向上に努めるとともに、公共調達等の行政EDIの推進、申請、届出、報告等の行政手続きや稟議、決裁、事務処理等の行政内部プロセスの電子化への検討・取り組みを加速するとともに、情報化を想定していない制度の見直しを推進すべきである。
      また、行政の保有する情報について、プライバシー、企業秘密に係わるものを除いて、審議会等の詳しい議事内容、提出資料を含めて電子化を一層進め、広く国民に対して、迅速かつ詳細に公開すべきである。
      国会、地方議会や裁判所においても、同様に、あらゆる手続きの電子化や情報の電子公開等を早急に推進する必要がある。

    3. 情報関連機器の減価償却制度の見直し
    4. 情報関連機器の場合、技術革新に伴うモデルチェンジやバージョンアップのサイクルが速く、陳腐化が激しい。情報関連機器の法定耐用年数の短縮化が必要である(現行6年を3年程度に短縮)。
      また、今や企業においては一人一台パソコン時代を迎えており、少額減価償却資産の損金算入限度額を30万円〜40万円に拡大する必要がある。将来的には、パソコンは、鉛筆、ノートと同様の消耗品として取り扱うようにすべきである。

    5. 使いやすいパソコンハード、ソフト
    6. パソコンのユーザーから、

      1. 情報ネットワーク側が、より一層人間に近づき、利用者が容易にパソコンを利用できるようなハード、ソフトの開発・提供が促進されること、例えば音声認識、手書き入力、翻訳ソフト、対話型システムなどを、できるだけ安価な費用で利用できるようにすること、
      2. 当面、バージョンアップに際しては、旧バージョンのデータベースの活用、旧システムへのサポートの継続、機能が向上した部分のみの販売を行うこと、
      3. 省資源化の観点から、パソコン機器は、基板の交換等により性能が向上できるようにすること、
      4. 取引先、関連会社等社外の異なる情報システムや保管方法が異なる電子データとの親和性を確保するため、当面、より一層効率よく低廉で安心してデータ交換をできるようにすること、
      などの要望が出されており、こうした利用者の立場に配慮することが期待される。

    7. 廉価な通信サービス
    8. 情報ネットワークを、だれもが、必要な時に、必要なだけ、どこでも利用しやすい環境を整備する一環として、例えば、専用回線の料金及びインターネット接続料金のさらなる低廉化や、従来の従量型料金に加えて昼間の定額料金も選択できるなどのユーザー要望に応えられるよう、通信事業者が安価で良質なサービスの提供に努めることが期待される。一方、行政は、このようなユーザー要望に対して通信事業者が柔軟かつ迅速に実現可能となるよう、より一層の自由かつ公正な競争のための環境整備に取り組む必要がある。

以 上

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