株式保有、合併等に係る「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」の考え方(原案)に対するコメント

1998年8月31日
(社)経済団体連合会


世界的な大競争時代の到来の中で、わが国企業が国際競争力を維持・強化していくためには、経済・社会環境や産業構造の変化に迅速に対応し、柔軟に企業組織を改編させていく必要がある。こうした中、実体・手続両面における企業結合規制の緩和は強く求められてきており、経団連では、これまで、96年1月に「独占禁止法第9条改正についての意見」、97年1月に「企業結合規制の抜本的見直しに関する提言」をとりまとめてきたところである。
こうした経団連の意見等を受け、昨年の純粋持株会社の解禁に続き、今般第4章全般にわたる手続規定の見直しが行われたことは高く評価される。
この法改正をより実りあるものとするために、さる6月18日、公正取引委員会により公表された「株式保有、合併等に係る『一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合』の考え方(原案)」(以下「原案」)につき、これまでの経団連意見にそって、企業実務や規制緩和の観点から、下記の通り、修正を求める。
経済のグローバル化の進展に伴い、企業は、国際競争力を維持・強化するために、国境を越えた結合関係を形成することが必要となっており、アメリカ、EUでは、このような世界的な企業再編の流れを考慮した競争政策の運用がなされている。下記事項と併せて、公正取引委員会には、国際競争および海外競争当局における運用状況を勘案した独禁法の運用を強く求めたい。


  1. 100%子会社設立
  2. 「原案」は、3ページ〈第1-1-(1)-ア〉において、株式所有会社と株式発行会社との間に結合関係が形成・維持・強化される場合に当たらないものとして、「株式所有会社が自己の現に行う業務の一部を分離して会社を設立する場合であって、その発行済株式の全部を設立と同時に取得する場合」を挙げている。しかし、既存業務の分社化であるか、新規事業参入のための子会社設立であるかを問わず、100%子会社の設立であれば、結合関係が新たに形成・維持・強化されることはない。したがって、「株式所有会社が自己の現に行う業務の一部を分離して会社を設立する場合であって」との要件は削除すべきである。なお、改正独占禁止法第10条第2項但書は、既存業務の分社化であるか、新規事業参入のための子会社設立であるかを問わず、「株式発行会社の発行済の株式の全部をその設立と同時に取得する場合」に、一律に報告書の提出義務を課していない。
    また、企業グループによる100%子会社設立(同一グループ内企業によって、新設会社の発行済株式の全部が設立と同時に取得される場合)も、結合関係が形成・維持・強化される場合に当たらないものとすべきである。

  3. 株式所有比率が25%超50%以下の場合
  4. 「原案」は、3ページ〈第1-1-(1)-イ〉において、株式所有比率が25%を超え且つ株式所有会社が単独筆頭株主である場合は、一律に結合関係が形成・維持・強化されるとしている。しかし、現行株式所有ガイドライン〈第二-2-(2)〉においては、株式所有比率が25%以上50%以下の場合に、単独筆頭株主以外にも考慮事項を掲げており、「原案」では現行より規制が強化されることとなる。現行株式所有ガイドライン同様、株式所有比率が25%超50%以下の場合についても、「原案」4ページ〈第1-1-(1)-エ〉の(ア)〜(キ)を考慮して結合関係が形成・維持・強化されるか否かを判断することとすべきである。

  5. 共同出資会社
  6. 「原案」は、3ページ〈第1-1-(1)-ウ〉において、共同出資会社では、一律に、出資会社間の結合関係が形成・維持・強化されるとしている。しかし、現行株式所有ガイドライン〈第二-2-(1)-ウ〉においては、株式所有会社と他の出資会社が競争関係にある場合に限り、株式所有比率等を考慮した上で(現行株式所有ガイドライン〈第二-2-(2)〉参照)、結合関係の有無を判断している。現行より規制が強化されないよう、現行株式所有ガイドラインと同様とすべきである。
    また、「原案」は、17ページ〈第3-3〉以降において、共同出資会社における「競争を実質的に制限することとなる場合」について、一括して述べている。しかし、同じ共同出資会社でも、共同生産会社においては、「ブランド間競争」の増大等、競争を促進する場合が多い。また、共同出資会社の運営にはさまざまな形態があり、出資会社が競争関係にある場合でも一律に「競争に与える影響が大きい」とは言えない。そこで、共同出資会社については、共同生産会社、共同販売会社、共同購入会社等の類型毎に、評価の要素、基準を示し、併せて、ホワイト・リストも示すべきである。

  7. 兄弟会社間の合併・営業等譲受け
  8. 「原案」は、6ページ〈第1-3-(2)および第1-4-(2)〉において、競争への影響をみるべき企業結合に当たらない場合として、兄弟会社間(50%超の株式保有関係にある場合であって、他の株主構成および出資比率が同一である場合に限る)の合併・営業等譲受けを挙げている。しかし、「他の株主構成および出資比率が同一である」会社間の合併・営業等譲受けでなくとも、合併・営業等譲受け当事会社のそれぞれの発行済株式総数の50%超を有する会社が同一であれば、独禁法上問題となるような結合関係が生じるとは言えない。また、他の株主構成および出資比率が同一である場合に限ったときには、競争への影響をみるべき企業結合にあたらない場合が極めて限定される。したがって、兄弟会社間の合併を「他の株主構成および出資比率が同一である場合」に限るべきではない。なお、改正独占禁止法第15条第2項2号および第16条第3項第2号では、兄弟会社間の合併・営業等譲受けについては、事前届出の対象とされていない。
    また、企業グループ内における合併・営業等譲受けについては、結合関係が形成・維持・強化される場合に当たらないものとすべきである。

  9. 株式所有比率が10%超の場合
  10. 「原案」は、4ページ〈第1-1-(1)-エ〉において、株式所有比率が10%超50%以下の場合に、「原案」4ページ〈第1-1-(1)-エ〉の(ア)〜(キ)を考慮して結合関係が形成・維持・強化されるか否かを判断するとしている。しかし、現行株式所有ガイドライン〈第二-2-(1)〉においては、株式所有比率が10%以上25%未満の場合については、その対象を、株主順位が第1位の場合又は株主順位が第3位以内で当事会社が競争関係にある場合に限っており、その上で、その他の事項を考慮して、株式保有による結合関係の審査対象とするか否かを判断している。現行より規制が強化されることのないよう、現行の株式所有ガイドラインと同様、株主順位が第1位の場合又は株主順位が第3位以内で当事会社が競争関係にある場合に限り、その他の事項を考慮した上で(現行株式所有ガイドライン〈第二-2-(2)〉参照)、結合関係が形成・維持・強化されるか否かの判断の対象とすべきである。

  11. 組織変更および額面株式一株の金額を変更する目的で行う合併
  12. 「原案」は、6ページ〈第1-3-(2)-イおよびウ〉において、競争への影響をみるべき企業結合に当たらない場合として、組織変更および額面株式一株の金額を変更する目的で行う合併を挙げているが、100%出資関係にある会社間又は出資者構成及び出資比率が同一の場合であって存続する会社が営業を行っていない場合に限るとの要件を課している。しかし、出資関係については、「ア 親子・兄弟会社間の合併」として捉えればよく、また、存続する会社が全く営業を行っていない場合に限る必要はない。したがって、この要件は削除すべきである。

  13. 事前届出を要する営業等譲受けにおける「重要部分」
  14. 「原案」は、6ページ〈第1-4-(2)〉において、事前届出を要する営業の重要部分および営業上の固定資産の重要部分の譲受けにおける「重要部分」は、譲受会社にとっての重要部分ではなく譲渡会社にとっての重要部分を意味し、当該譲渡部分が一つの経営単位として機能しうるような形態を備え、譲渡会社の営業の実態から見て客観的に価値を有していると認められる場合に限られるとしている。しかし、現行合併ガイドラインでは、譲渡会社の年間総売上高に占める譲渡対象部分に係る年間総売上高の割合が5%未満である場合で、譲渡対象部分にかかる年間売上高が1億円以下の場合は、届出義務が課されておらず、いわゆる裾切り要件が設けられている。改正独禁法第16条第2項および改正独禁法施行令第16条において、届出について設けられている裾切り要件(営業の全部譲受については総資産が10億円以下、営業の重要部分又は営業上の固定資産の全部又は重要部分の譲受については売上高が10億円以下)を勘案し、裾切り要件を設けるべきである。
    なお、営業上の固定資産の譲渡について、「一つの経営単位として機能しうる」場合は想定しにくいのではないかと考えられる。

  15. 合併・営業等譲受けの審査に係る報告等の請求
  16. 改正独禁法第15条第5項および第16条第5項において、公取委の審査期間について、請求に基づき公取委が報告等を受理した日から90日以内とされたことから、公取委による報告等の請求の具体的運用は、合併・営業譲渡等を進めるにあたり、重要な意味を持つ。そこで、報告等の具体的な範囲、報告等が必要な理由、報告等の受理後結論を出すまでの期間等を文書により明確に示した上で、報告等の請求を行うべきである。また、この報告等の請求に不服な場合の手続を、整備すべきである。
    なお、原案では、当事会社グループ(企業結合関係が形成・維持・強化された会社)について、一定の取引分野において競争を実質的に制限することとなるかどうか、判断することとされているが、合併・営業譲受けの審査に係る報告に際し、当事会社グループのすべての会社について調査することが困難な場合もあり、公取委には、実情を踏まえた対応を求めたい。

  17. 具体的な企業結合の例の提示
  18. 「原案」は、具体的な企業結合の例を提示しているが、競争への影響を考慮した要素の全体が示されておらず、そのためかえってわかりにくくなっている面がある。具体的な例を挙げるのであれば、競争への影響を考慮した要素とその判断の背景にある運用基準も併せて示すべきである。

  19. 寡占的市場の定義
  20. 「原案」は、14ページ〈第3-2-(2)-ア〉において、「いわゆる寡占的な市場」を「上位3社累積シェアが70%を超える場合等」と定義しているが、「等」の内容について明確化すべきである。また、当事会社以外の競争会社の数等の数値基準も盛り込むべきである。

  21. 市場の状況
  22. 「原案」が、「競争を実質的に制限すること」の具体的判断要素である「市場の状況」の中で、外国事業者の国内市場への参入の蓋然性〈第3-2-(2)-イ〉や輸入〈第3-2-(2)-ウ〉を挙げていることは評価できる。しかし、国際的な競争が行われている分野においては、国内市場を中心に企業結合の審査を行うことは不適切であり、国際市場の状況を踏まえて評価すべきである。
    なお、「原案」は、19ページ〈第4〉において、事前相談の内容および回答について、事業者の秘密に関する部分を除き、支障のない限り、その概要を公表するとしているが、事業者の秘密に関する部分かどうかの判断が恣意的になされないよう、公表にあたっては、当事会社の同意を要するものとすべきである。
    また、公正取引委員会への各種届出書・報告書の書式は、企業にとって、ガイドラインと同様の影響を及ぼす。各種届出書・報告書の書式変更にあたっては、必要に応じ意見聴取を行うことについて、今後、検討すべきである。

以 上

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