わが国のエネルギーをめぐる情勢と課題
−省エネルギー型社会の実現に向けて−

1.石油危機以降のエネルギーをめぐる情勢の変化


戦後の復興期から高度成長期にかけては、増大するエネルギー需要に対し如何に供給を確保するかが、エネルギー政策の重要な課題であったが、石油危機を契機に、エネルギーセキュリテイへの対応が最重要課題となり、省エネルギーや原子力をはじめとする石油代替エネルギーの開発が飛躍的に進んだ。
その後、1980年代後半以降には、石油の需給が緩和したことを受け、世界的にエネルギー市場は安定を回復、円高が進行するに連れてエネルギーコストの低減が一層重要な課題となった。
そして、現在、地球温暖化問題の登場により、エネルギー問題は新たな局面を迎えた。従来のエネルギー政策が、多くの局面を経ながらも、最終的には経済並びに国民生活を支えるために必要なエネルギーの確保と低廉なエネルギーの供給を目的としていたのに対し、地球温暖化問題によりエネルギー消費そのものが大きな制約を受けかねないという従来とは全く異質の課題を抱えることになった。

以上のように、常に重要な課題であるエネルギーの安定的確保並びに低廉なエネルギーの供給と、新たに加わった地球温暖化問題への対応について、最近の動向を概観すると以下の通りである。

  1. エネルギーセキュリティへの新たな不安要素
  2. わが国の最も重要な課題であるエネルギーの安定供給確保については、国内では、石油危機を教訓として、石油依存度の低減や石油備蓄の拡充等が進み、国際的にも、国際石油市場の発達や国際エネルギー機関(IEA)による国際的な緊急時対応の整備が進むなどエネルギー基盤の強化が図られた。

    こうした取り組みの結果、セキュリティへの不安は総じて薄らいできているが、基本的な問題として、わが国の一次エネルギーの輸入依存度は、現在でも、80%を超えており、依然としてエネルギー供給基盤の基本的な脆弱性は改善されていない。事実この数字は、先進各国と比較しても、際立って高い(アメリカ:21%、イギリス:-17%、ドイツ:58%、フランス:49%)。因みに、OECD加盟国平均の輸入依存度は25%である。

    さらに、新たな不安要素を指摘する声もある。ひとつは、石油需給の地域的ブロック化傾向が進む中での中東依存度の上昇である。最近、原油の取引きにおいて、アメリカが中南米諸国との関係を強めたり、ヨーロッパが北海油田の増産や、アフリカ、中央アジアからの輸入を増量するなど地域的なブロック化傾向が進んでいる。その結果、アジア地域は必然的に中東産油国への依存度を高めていくといった変化が起きている。わが国の中東依存度も、1973年の78%から、1987年には68%まで低下したものの、その後、再び上昇傾向にあり、最近では80%を超えるまでになっている。

    また、アジア地域のエネルギー需給動向が日本に与える影響も無視できない。急激な経済成長とともに大きく伸び続けたアジアのエネルギー需要も、金融危機に端を発した経済の混乱により、伸びが鈍化している。しかしながら、この地域の経済は、いずれ回復し、エネルギー需要の伸びも戻るとみられている。その結果、域内に有力な油田を持たないこの地域は、ますます中東への依存度を高めることになり、需給が逼迫する事態も考えられる。同地域では、わが国と韓国以外の国は、ほとんど石油備蓄を持っておらず、需給変動に対して脆弱である。同地域でエネルギー需給が逼迫した場合やいったん緩急があれば、わが国にもその影響が波及することを想定しておかなければならない。

    このように、エネルギーセキュリティ面でへの不安は必ずしも解消されたとは言えず、引き続き、エネルギーの安定供給確保に努めることはエネルギー政策上の基本的な課題である。

  3. エネルギーコスト引き下げ圧力の顕在化
  4. 経済・社会のグローバル化に伴い、国際競争力の強化が大きな課題となっている産業界にとって、1985年以降の急激な円高によるエネルギーの内外価格差拡大は大きな負担となった。産業界からのエネルギーコスト引き下げ要請の高まりを受け、エネルギー関連業界は、一層の経営合理化や円高差益還元によりコスト引き下げに務め、多くの公共料金が値上げされる中、電気、ガス料金に関しては、一貫して値下げが行われてきた。石油業界においても、1987年の規制緩和アクションプログラムを皮切りに着実に規制緩和が進展し、コスト削減に向けた取り組みが本格化した。しかし、グローバル・コンペティションが進展する中で、産業界には、一層の引き下げを求める声が強い。

    そうした声を背景に、1994年のガス事業法の改正、1995年の電気事業法の改正、1996年の特石法の廃止などの措置が講ぜられ、その後引き続いて、石油、ガス、電気、各審議会等において、エネルギーの効率的な供給体制について議論が重ねられている。

  5. 地球温暖化問題の登場
  6. わが国は、1990年に「地球温暖化防止行動計画」を策定し、2000年における二酸化炭素排出量を1990年レベルで安定化させることを目指したが、民生・運輸を中心にエネルギー消費が増加していることや産業部門におけるエネルギー効率が既に世界最高レベルに達していること等により、その達成は困難な状況にある。そのような中、昨年12月、京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において、2008年から2012年の期間に達成すべき法的拘束力を持った温室効果ガス削減目標が採択された。わが国の目標は温室効果ガスの総量(二酸化炭素換算)を1990年レベルに対し6%削減するというものである。温室効果ガスの90%以上はエネルギーの利用に伴って排出される二酸化炭素であり、地球温暖化問題は、基本的にエネルギー問題であると言える。政府は、本年6月に地球温暖化問題に取り組むにあたっての指針となる「地球温暖化対策推進大綱」を発表したが、二酸化炭素については、昨年11月に「国内対策に関する関係審議会合同会議」が取りまとめた報告書に従い、2010年時点の二酸化炭素排出量を、少なくとも1990年レベルに抑えることが必要であるとしている。

    二酸化炭素排出量は、既に、1990年以降1996年までの間に、9%程度増加しており、このままいけば、2010年の排出量は、1990年対比20%程度増加すると見込まれている(総合エネルギー調査会需給部会の自然体ケース)。言い替えれば、2010年に目標を達成するためには、自然体ケース対比で、20%近い排出削減が必要ということになるが、エネルギー利用効率の高さや予想される民生・運輸部門における需要の伸び等を勘案すると、目標の達成は容易ではない。わが国は、経済活力を維持し、国民のニーズにも応えつつ、いかにして二酸化炭素の排出量を削減するかという極めて困難な課題に直面している。


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