わが国のエネルギーをめぐる情勢と課題
−省エネルギー型社会の実現に向けて−

3.今後の課題


以上の基本的な考えに基づいて、以下では、今後の取り組むべき課題につき、「当面の課題」「技術開発の積極的な推進」「国際的に取り組むべき課題」に分けて整理した。

[1]当面の課題

  1. 省エネルギーの推進
    1. 自主行動計画の着実な実施
    2. 産業界は、昨年、経団連の呼びかけに応えて37の業界が、地球温暖化問題への対応を柱とする自主的な行動計画を策定し、6月に「経団連環境自主行動計画」として発表した。この計画は、政府の「地球温暖化対策推進大綱」などにおいても省エネ対策の重要な柱として位置づけられている。既に、各業界・企業は2010年における産業部門全体の二酸化炭素排出量を1990年レベルに安定化することと製品の使用段階での省エネルギー強化を目標に、自主的な取り組みを行なっているところであり、その進捗と成果は毎年フォローし、必要に応じ計画の見直しを行なうこととしている。

      ただ、現行技術で可能な改善努力はほぼ一巡し、国際的に見ても高いエネルギーの利用効率を達成している産業界にとって、更なるエネルギー利用効率の向上は容易ではなく、目標達成のためには、一段の技術の掘り起こしや業際的な取り組みを行なう必要がある。国においても省エネ・リサイクル支援法の適用拡大等一層の支援が期待される。

    3. 社会・経済構造並びにライフスタイルの変革
    4. 地球温暖化問題に対応してエネルギー消費を削減するには、交通・運輸形態そのものをエネルギー効率の高い形態へシフトする、いわゆるモーダルシフトや交通渋滞の緩和、さらには資源・エネルギーの浪費につながる使い捨て型社会の見直しなどを通じて、社会そのものを省エネルギー型社会に変革することが必要である。その際、推進体制と目標、スケジュールを明確にし、加えて、不断の国民への啓発・PRや初等中等教育におけるエネルギー教育の充実等による意識改革を通して、着実に成果を上げることが必要である。

      産業部門としても省エネ型家電製品や高断熱住宅等エネルギー効率の高い製品やサービスの提供に努めるが、こうした製品・サービスの普及を促進するには、消費者・ユーザーが進んで省エネ型製品やサービスを選択・購入することが大切である。国には、消費者・ユーザーがそうした製品を選択しやすいよう情報提供等の環境整備を図るとともに産業界・国民のこうした取り組みを税制や資金面から積極的に支援することが期待される。

      なお、社会全体の省エネルギー化を進めるためには、中小の工場や公共のビル、商業用ビル等における取り組みも求められるが、これらについては、技術面あるいは資金面等から、自ら対策に取り組むことが困難なケースも多く、何らかの支援の仕組みが望まれる。米国等では、ESCO(Energy Service Company)と呼ばれる民間事業が確立し、成果をあげていると言われるので、わが国においてもこうした事業を育成していくことも必要である。

  2. エネルギーコストの低減
  3. エネルギーの低廉供給を実現するためには、競争原理も活用し、事業者の一層の創意工夫を促すとともに、国内外の安価なエネルギーの一層の利用促進等が必要である。加えて、海外に比較して割高な保安コストの削減を行なうなど、規制緩和による事業者の負担を軽減することが必要である。

    1. 電力市場の活性化
    2. 電力の制度改革については、1995年の電気事業法の改正により、独立発電事業者(IPP)の卸発電事業への参入規制の撤廃、託送制度や特定電気事業制度の整備などが進められ、市場の活性化に一定の成果を上げてきた。引き続き、本年6月の電気事業審議会基本政策部会中間報告において、大口需要家を対象に、需要家が購入先を選択できる小売の自由化を導入(部分自由化)する方向が示され、本年9月以降、具体的な制度について検討が開始されることになっている。

      競争の促進はエネルギーコスト低減に寄与するものと期待されるので、今後検討される電力市場の部分自由化の制度設計においては、地球温暖化問題をはじめとする環境問題への対応や公益的諸課題への配慮をしつつ、需要家の利益につながる有効な制度となるよう積極的な検討を期待したい。更に、将来の電力市場のあり方についても、今回の自由化の成果を見極めつつ、引き続き検討されることが期待される。

      また、自家発電の余力については、特定供給や自己託送制度等を通じて有効活用がなされているが、制度上の制約や経済的な理由から、未だ活用されていない潜在的余力が相当量あると考えられる。今後の自由化の動向等も踏まえつつ、特定供給や託送による自家発電余力の一層の活用が進むことが望まれる。

    3. 重油の輸入制限的高率関税の是正
    4. 1996年の特石法廃止に伴い石油製品の輸入が自由化されたことにより、制度的には海外の安価な製品を自由に調達できることになったが、重油(特にHS-C重油)に課せられている高率関税は、事実上の輸入障壁となっている。

      本年6月、石油審議会から石油業法の需給調整的規制の原則撤廃とともに輸入制限的な重油関税の是正の方向が示されたが、できるだけ早期に是正されることが期待される。

      なお、今後、石油諸税の軽減等についての検討が期待される。

    5. 保安に係る規制緩和
    6. 以前から、わが国の保安に対する規制は海外に比べて厳しすぎるとの指摘がなされてきた。法律による規制が、わが国産業界の保安レベルの向上に貢献したことは否めないが、例えば高引火点危険物に係る規制のように、管理技術等が向上した現在では、必ずしも費用対効果の面で効果的とは思われないものも見受けられる。しかも、そうした規制への対応に要するコストは、エネルギー単価を引き上げる要因になっているだけでなく、石油産業をはじめとするわが国産業の国際競争力を弱める要因にもなっている。既に、高圧ガス関連法規の見直し等、実施されたものも少なくないが、引き続きこれまでの保安実績や国際的な動向に照らし、規制の対象を環境・保安の維持に必要な最小限の範囲に適宜見直していくべきである。

  4. エネルギーの安定供給確保
  5. エネルギー資源を持たないわが国にとって、原子力や自主開発原油といった準国産エネルギーの確保や天然ガスの利用等、エネルギー源の多様化の意義は大きい。

    1. 原子力の推進
      1. エネルギーセキュリティのみならず地球温暖化対策の観点からも、準国産エネルギーであり、かつ発電に際し二酸化炭素を排出しない原子力は、対策の最も重要な柱であり、原子力を抜きにして直面するエネルギー問題の解決はあり得ない。
        ところが、原子力に対する国民の理解は、安全性の問題を中心に必ずしも十分に得られておらず、新たな立地は難航している。30年を越える運転実績を通して、わが国の原子力発電の安全レベルの高さは十分認識されているが、放射能への不安、廃棄物対策への懸念を感じている国民は少なくない。そうした国民の不安等に応え、立地を推進していくためには、事業者及び国が積極的にわが国のエネルギーをめぐる状況や原子力の課題に対する対応策等について国民並びに立地住民に十分説明し、国民的議論の中で理解を得ていくことが必要である。なお、原子力行政においては、原子力の推進と安全確保のための適切な規制を一元化し、透明性を高めていくことが求められる。

      2. なかでも、放射性廃棄物対策については、早急な対策が必要であるが、本年6月、「高レベル放射性廃棄物処分に向けての基本的な考え方について」が示され、最終処分に向けた取り組みの概要がかなり明確になった。特に、事業資金確保のための制度や実施主体の設立を急ぐとともに、深地層研究のための施設を早急に設置することが期待される。今後、国には、立法措置等の制度・体制の整備を行なうことや、立地活動を含めたサイト選定プロセスの中で適切な役割を果たすことが望まれるとともに、電気事業者も広報活動や処分地選定等について、実施主体と一体となって推し進めていくことが必要となる。

      3. 原子力発電については、これまでの実績並びに経済性の観点から引き続き軽水炉が主流になると考えられるが、運転サイクルの延長などによる設備稼働率の向上及び高経年化対策の推進が期待される。また、プルサーマルや高速増殖炉の開発を通したプルトニウムを軸とする核燃料サイクルの確立についても国民の理解を得つつ、着実に進めることが重要である。さらに、長期的には、立地の多様性や熱利用等用途の多様性を図る観点から高温ガス炉や超小型原子炉などの新しいコンセプトに基づく炉が提案されているが、経済性や安全性等、総合的な見地からその可能性を検討することが期待される。
        また、原子力を安全に利用していくには、設計、建設、運転・保守全般を通した高度な技術の裏付けが必要であるが、世界的に原子力発電所の建設が減少する中、そうした技術を持つ企業が少なくなっていくことが懸念される。技術の継承・温存といった観点から、早急に対応を検討することが必要である。

    2. 自主開発原油プロジェクトへの取り組み
    3. 原油価格が低水準で推移しかつエネルギー供給途絶への不安も薄らいでいる現在、総じて自主開発原油を期待する声は小さくなっている。しかしながら、既に述べたように、将来、アジア地域のエネルギー需給逼迫の影響がわが国にも波及することが懸念されるなか、自主開発原油は、依然として重要な意味を持っている。最近における、いわゆる石油公団問題と関連づけて、自主開発原油の意義そのものまで疑問視する声があるが、エネルギーセキュリティ並びにエネルギーのバーゲニングパワー確保という観点から、引き続き原油の自主開発に取り組むことは重要である。プロジェクトの選定、推進にあたっては、効率的運営と透明性の確保に努めることが必要である。

    4. 天然ガスパイプラインの可能性の検討
    5. 天然ガスは、比較的政治・経済的に安定した地域に広く賦存しているため、セキュリティ上の不安が比較的小さいといわれている。また、石炭、石油に比べ地球温暖化への影響が小さいため、環境制約が強まる中で、消費の拡大が見込まれている。近年、中近東、豪州、東南アジアやサハリンで相次いで有望天然ガス田の発見、開発が行なわれており、わが国への供給ソースの拡大の観点から注目されている。こうした天然ガスのわが国への供給手段は、これまでLNG(液化天然ガス)に限定されていたが、長期的にエネルギーの選択肢を増すという観点から、パイプラインの可能性を指摘する意見がある。一方、パイプラインの敷設には巨額の投資を必要とする上、年間数百万トンのまとまった需要が前提になることが指摘されている他、国内パイプライン敷設に係る立地問題等が指摘されている。今後、天然ガスの利用環境を整備するにあたっては、こうした問題も含めた総合的な検討が必要であるが、その際、本問題は、基本的に需給両者間の問題であるという点にも留意が必要である。

  6. 発電部門の地球温暖化対策
  7. 発電分野における地球温暖化対応の最大の課題は、原子力の推進を中心とする電源ベストミックスの構築である。

    1. 電源ベストミックスの構築に向けた継続的な取り組み
    2. 電気事業者は、石油危機以降、エネルギーセキュリティと経済性、さらには、大きな需要変動への柔軟な対応等にも配慮しつつ、電源構成の最適化に努めてきた。その結果、一定の成果があがっているとみられるが、今後は、経済性、エネルギーセキュリティに加えて地球温暖化問題に配慮した電源ベストミックス構築に向けて、一層積極的かつ自主的な取り組みが期待される。中でも、原子力発電の推進は、たびたび指摘してきたが、最重要課題である。また、資源量が豊富で優れた経済性を有する石炭の高度利用等、火力発電の発電効率の改善を通じた環境負荷の低減なども重要である。

    3. 新エネルギーの普及拡大
    4. 太陽光発電や風力発電といった新エネルギーは、発電の過程で二酸化炭素を発生しない環境調和型電源として、引き続き普及拡大を図っていくことが必要である。現在は、設置コストが高いことや発電量が日照条件や風速といった気象条件に左右されることから、利用対象は限定されたものに止まっているが、一層のコスト削減と民生用の蓄電技術の実用化等が進めば、安定電源として、一層の普及拡大が期待される。ただし、自然エネルギー発電は発電密度の低さから、今日想定されている技術では、原子力や火力発電に代わるものとは考えにくく、分散型の補完電源としての特性を生かして、普及拡大に取り組むことが重要である。

[2]技術開発の積極的な推進

現行技術を前提とした枠組みの中では、ますます厳しくなる環境制約の中で長期的にエネルギー問題を解決していくことは困難であり、今後の技術開発に対する期待は極めて大きい。技術開発は、経済社会の発展の原動力であり、環境保全と経済活力の維持を両立させ、更にそれを通してわが国が世界のエネルギー問題に貢献できる分野でもある。財政構造改革に取り組む中にあっても、国際協力による取り組みなど活用して、以下に例示したような研究開発を積極的に進めることが期待される。その際、基礎研究と実用化技術等、各段階に応じて国と民間の役割を明確にし、効率的に進めることが必要である。

中期的には

更に長期的には

等々が期待される。

[3]国際的に取り組むべき課題

  1. 共同実施、排出権取引等、国際的柔軟性措置への対応
  2. 地球温暖化対策として京都議定書に盛り込まれた共同実施等の国際的柔軟性措置は、途上国等との技術協力を通して、地球規模でみて最も効率よく省エネルギーを達成できる可能性を有した国際的な枠組みである。高度な省エネ技術を有しているわが国としては、単に温室効果ガス削減という目標にとどまらず、途上国経済への貢献という観点からも、こうした制度を積極的に活用することが期待される。途上国の参加問題など解決しなければならない問題もあるが、COP4以降に開始されることになっている具体的な制度検討に、わが国の意見が適切に反映されるよう、積極的に働きかけていく必要がある。

  3. エネルギーセキュリティの確保
  4. 国内にエネルギー資源を持たないわが国にとって、エネルギーセキュリティの確保は宿命的な課題である。国際的なエネルギー市場の発達や市場機能維持のための国際的な枠組みが整備される中、エネルギーセキュリティにおいても、そうした枠組みに即した効果的な取り組みが必要である。

    1. 石油備蓄の実効性確保
    2. わが国の石油備蓄は、国の直接管理下にある国家備蓄に加えて、基準日数の範囲内で企業の判断で弾力的に運用できる民間備蓄をほぼ同量保有しており、緊急時の国内需要の補完という観点からは、機動性の高い備蓄制度といえる。

      一方、IEA(国際エネルギー機関)からは、ランニングストックの一部である民間備蓄の取り崩しは、取り崩した量が外から見えにくく、国際市場へのアナウンス効果が小さいとして、国際協調的な備蓄取り崩しとなるよう、見直しを要請されている。これに対して、国家備蓄の優先的な取り崩しが考えられるが、国家備蓄については緊急時の機動的な配船等に問題があり、実効面での不備が指摘されている。今後、機動的な国内需要の補完と国際協調の両立という観点から、国と民間の役割等、備蓄のあり方を検討する必要がある。

    3. アジア地域のエネルギー需給安定化への取り組み
    4. アジア地域のエネルギー需要の急増は、世界的にも大きな不安材料である。エネルギー利用効率向上やエネルギー源の多様化等を通して、アジア地域のエネルギー需給の安定化を図る必要がある。わが国には、アジアの一員として、また、アジアの経済先進国として、省エネ技術の供与や原子力分野における技術協力を通した貢献が期待されている。

      他方、緊急時の対応という観点からは、石油備蓄を保有している国は、わが国と韓国のみであり、中長期的には国毎の備蓄制度の整備や域内の協力体制の整備等により、緊急時対応を一層強化することが必要である。わが国は、これまでの経験を活かし、APEC(アジア太平洋経済協力閣僚会議)等の場を通じて、エネルギーセキュリティの重要性について理解を得るとともに、域内の協調体制整備等に率先して取り組むことが必要である。

    5. 資源国との関係強化
    6. 資源産出国との関係を緊密に保つことは、引き続き重要な取り組みである。産油国・産ガス国の多くは、商工業の誘致やそのための人材育成等に強い関心を示しており、引き続き、単に石油・ガスの産出国消費国としての関係にとどまらず、経済、文化、人材など広範な分野での交流を進めることが重要である。

      また、石炭に関してもこれまで培ってきた技術を通じた交流等により、海外炭の安定確保に努めることが期待される。


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