経済再生に向け規制緩和の推進と
透明な行政運営体制の確立を求める

I.基本的考え方


わが国経済は戦後最大の危機に直面し、われわれは今、21世紀において「魅力ある日本」を構築できるかどうかの岐路に立っている。世界がメガ・コンペティションの時代を迎え、創意工夫とチャレンジ精神の発揮が求められている中で、行政改革会議が指摘したとおり、この国は様々な国家規制や因習・慣行で覆われ、社会は著しく画一化・固定化されてしまっているといえよう。この閉塞的状況を打破するためには、経済社会の構造改革が不可欠であり、とりわけ規制の壁を取り払うことが重要である。
旧規制緩和推進三カ年計画の下で規制緩和についてかなりの進展が見られたことは評価できるが、今回、経団連が実施したアンケート調査で264の企業・団体からのべ1800件に及ぶ規制緩和要望が寄せられたことは、規制の壁がいかに厚いかを示すものに他ならない。規制を一つ一つ見直し撤廃・緩和することとともに、2001年1月1日からの新体制移行に向けて準備が進行中の中央省庁等の改革に合わせ、制度的に行政運営の透明化を図ることが必要である。
以下において、規制緩和推進の方策について、経済界の考えをあらためて述べたい。

  1. 規制緩和推進体制の強化
  2. かなりの規制緩和が行われたにもかかわらずなかなか効果が現れない原因を見ると、例えば、

    1. 認可制から事前届出制に改められたにもかかわらず、処理基準がそのままのため、実際の運用は認可制と同じというケース〔運送料金等〕、
    2. 複数の法律で規制されており、一部の法律による規制は緩和されたが、他の法律による規制が残されているため、規制緩和の効果が発揮できないケース〔保安四法、国土利用計画法の事後届出移行と公有地の拡大の推進に関する法律の事前届出等〕、
    3. 関係省庁が多く、調整に時間を要するケース〔行政の情報化関連等〕、
    4. 規制は緩和されたが、地方自治体の運用や税制等の関連制度が変わらないため成果を十分に活用できないケース〔機能更新型高度利用地区制度等への地方自治体の対応、純粋持株会社やストック・オプション制度に係わる税制等〕、
    5. 規制緩和の方針決定後、実現までに長期間を要したり、かえって厳しい審査を課すケース〔ガソリンスタンドのセルフ化、酒類小売業免許の人口基準、自主保安認定等〕、
    6. 実質的な規制権限が公益法人等に移され、いわゆる「民民規制」に移行するケース〔基準・認証等〕、
    等がある。みせかけだけの規制緩和に終らせないよう、規制緩和推進・監視体制の強化が必要である。
    また、海外から「なかなか変わらない日本」に対する苛立ちが伝わってくるが、規制緩和についてもスピードが極めて重要な要素となっている。
    規制緩和推進のため、政治の強力なリーダーシップが不可欠であるが、それに加えて、昨年12月の行政改革委員会の最終意見を踏まえ、現行の規制緩和委員会を法律に基づく規制緩和及び関連制度の見直しの企画立案・監視に当たる第三者機関に発展的に改組し、各省に対する資料請求権ならびに内閣に対する勧告権を付与するとともに、その下に、独自に規制行政の実態調査、規制緩和措置の事前事後の数量的評価などをなしうる相当規模の事務局を置くべきである。

  3. 透明な行政運営体制の確立
  4. 中央省庁等改革基本法においては、内閣機能の強化や行政の簡素・効率化などと並んで、規制のあり方について、事前の規制から民間の自由な意思に基づく活動を重視したものに転換すること等が定められている。正に、今求められているのは、個別の規制緩和に加えて、透明な行政運営体制の確立である。基本法を着実に具体化するとともに、それを補完する制度を整備することが望まれる。
    具体的には、第一に、行政機関が制定する政省令、告示、通達等のいわゆる行政立法を民主的なコントロールの下に置く必要がある。可能な分野からパブリック・コメント制度を導入し、ノウハウを積んだ上で速やかに行政立法手続法(仮称)を制定すべきである。
    第二に、行政指導の根拠とされることの多い省庁設置法については、所掌事務を的確かつ具体的に規定するとともに、権限規定を削除すべきである。
    第三に、行政手続法においては、行政指導について、「書面の交付を求められたときは、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない」とされているが、指導する側の優越的地位に鑑み、行政指導は原則として書面をもって行うよう改正すべきである。
    第四に、違法・不当な規制によって国民の権利や利益が侵された場合に簡易・迅速な不服申し立てが可能で、速やかに救済される体制を整備することが、違法・不当な規制の歯止めとなる。現行の行政不服審査制度は、制度が複雑で、救済の見込みが少ないなどの問題があり、国民にとって利用しやすいものとなるよう、行政事件訴訟法、行政不服審査法等を改正するとともに、行政審判庁構想についても検討を急ぐべきである。
    第五に、行政運営の透明化のためには行政情報の公開が重要であり、政府が国会に提出している行政情報公開法案を早急に成立させることを望む。

  5. 自立、自助、自己責任の確立と規制緩和の活用
  6. 規制緩和の主張に対して、規制を求めるのは業界であるとの批判がある。経済的規制を撤廃・緩和し、市場での公正な競争に任せていくことが世界の流れであり、規制に安住し事業の革新を怠ればいずれ市場から退場せざるをえなくなろう。経済界としても、総論賛成、各論反対の批判を浴びないよう、自立、自助、自己責任の原則に立って切磋琢磨していくことが求められる。
    また、規制撤廃・緩和を受けて、起業家精神を発揮し、新事業・新産業を積極的に展開することが、経済界の任務であり経済再生に貢献する道であると確信する。

  7. 優先して実現すべき項目
  8. 各分野における規制緩和の基本的な考え方と具体的な規制緩和要望は、第二部と第三部の通りであるが、経済効果や雇用創出効果等が特に大きいと考えられ、優先して実現すべき重要項目は以下の通りである。

    〔優先して実現すべき項目〕

    (注)……経済効果が大きいと思われる項目
    ……雇用創出に寄与すると思われる項目

    1. 雇用・労働分野
    2. [基本的考え方:産業構造の高度化を通じて経済活力を維持していくため、円滑な労働移動や就労形態の多様化を支える労働力需給調整システムを整備すべきである。]

    3. 年金分野
    4. [基本的考え方:公的年金制度の改革に合わせ、企業年金制度の抜本改革も一体で進めるべきである。]

    5. 医療・福祉分野
    6. [基本的考え方:保険財政の健全化と国民の多様なニーズに合わせた医療・福祉サービスの提供を実現するため、医療・福祉分野に本格的な競争原理を導入すべきである。]

    7. 教育分野
    8. [基本的考え方:グローバル化、高度情報化、少子・高齢化等の環境変化に対応した教育改革を進めるべきである。]

    9. 法務分野
    10. [基本的考え方:わが国企業の国際競争力の維持・強化に向けて、企業活力を引き出すための法制度の整備・構築が不可欠である。]

    11. 流通分野
    12. [基本的考え方:需給調整の観点から行われる参入規制は速やかに廃止すべきである。]

    13. 土地・住宅・公共工事分野
    14. [基本的考え方:国民の多様なライフスタイルを可能にする質の高い居住空間を形成するため、良質な住宅を整備し、適正な土地利用を推進するとともに、理想の都市づくりに向けて土地の流動化を促進すべきである。]

    15. 廃棄物を中心とする環境保全分野
    16. [基本的考え方:リサイクルの推進や事業者の環境保全への自主的取組みの支援のための規制緩和が必要である。]

    17. 危険物・防災・保安分野
    18. [基本的考え方:事故・災害の防止は、技術水準の向上等を背景に、企業の自主的努力によって初めて確保しうるものであり、技術水準の向上や企業の保安レベルの程度等に応じて適宜見直すべきである。]

    19. 情報・通信分野
    20. [基本的考え方:経済活力の維持・発展や雇用機会の確保等を図る上で、情報通信の役割は大きなものがあり、情報通信市場の活性化に向けて、情報通信の供給・需要両面の環境整備を進める必要がある。]

    21. 金融・証券・保険分野
    22. [基本的考え方:金融業界における競争の促進によって、金融の高度化に向けた利用者利便の向上と、金融業の競争力強化を実現すべきである。]

    23. 運輸分野
    24. [基本的考え方:日本経済の高コスト構造を是正する観点から、規制緩和によって物流の効率化を推進すべきである。]

    25. エネルギー分野
    26. [基本的考え方:エネルギーの安定確保、コストの一層の削減、地球温暖化問題への対応という3つの課題について、経済活力を維持しつつバランスの取れた解決を図るため、民間の自主的取り組みを促進すべきである]

    27. 貿易投資分野
    28. [基本的考え方:国際社会との調和を図りつつわが国経済の発展を図るため、貿易に係る水際の障害を出来る限り取り除くとともに、企業の視点に立って、諸手続きの見直しを行なうべきである。]

    29. 農業分野
    30. [基本的考え方:農業分野に自己責任原則を積極的に導入し、市場原理を活かすとともに、担い手となる専業農家や農業生産法人の活力を引き出す政策を促進すべきである。]

    31. その他分野
以  上

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