わが国経済は極めて厳しい状況にある。政府は金融システムの早期安定、税制改革、公共投資の推進などを一刻も早く実施することが必要である。
20〜30兆ともいわれるデフレギャップを埋めるためには、とりあえず真水で10兆円を上回る規模の追加的財政出動が必要である。11月には財政出動の骨格を示し、年内にも臨時国会を招集して補正予算を編成すべきである。中でも公共投資については、21世紀への架け橋となる社会資本の形成を進めながら、国民の雇用・所得に対する不安感の緩和につながるよう、下記のような方針のもとに緊急経済対策の具体化を図るべきである。
公共投資は、長期的に見てわが国が必要とする「21世紀への架け橋プロジェクト」に向けられるべきであり、従来の公共事業の概念にとらわれるべきではない。経済対策として補正予算に計上する事業においても、その対象を年度内で終了するものに限らず、次年度以降にまたがるプロジェクトや、単年度予算の制約により進捗が抑制されている有益なプロジェクトにも広げるべきである。
わが国の長期的な社会資本形成の観点から、各種計画が立案されているが、これらは財政構造改革の一環として、計画期間の延長が行なわれている。
本年8月12日に閣議了解された来年度予算編成の基本方針によれば、「財政構造改革の一環として既に措置された制度改正、計画の延長や今後のスケジュールが決まっている制度改正等」については、既定方針に従うこととなっている。これにより、高規格幹線道路、整備新幹線、原子力・核融合・宇宙開発等の大型プロジェクト、首都機能移転など21世紀に向けた経済効果の高いプロジェクトが依然として進行を抑制されている。これら計画の抑制方針を転換すべきである。
現在、地方財政は逼迫しており、地方自治体は、大胆な行革を通じた財政再建に取り組む必要がある。同時に国は、直轄事業を増やし、さらに補助事業となっているものについては、当面の措置として国費による補助率を思い切って引き上げ、円滑な公共事業の執行を可能にすべきである。
現下の経済情勢に鑑みれば、公共投資は、民間投資を誘発し、景気に即効性が期待される事業の優先的な推進が求められる。具体的には都市、物流、情報、福祉、環境、科学技術・エネルギー、新産業・新事業等の分野へ重点的に投資すべきである。民間が事業を推進しやすい環境づくりに向けた規制緩和、PFI手法の活用なども重要である。
来年度に向けて、切れ目のない予算の執行が図られるよう、予算の繰り越しを認めるべきである。
同時に、新たな補正予算の執行にあたっては、これまでの補正予算の執行状況を明確に示すとともに、日本経済の構造的な体質改善にどれだけつながったかを開示することが求められる。
各分野において重点的に投資を進めるべき事業として、以下のようなものが挙げられる。これら事業を早急に具体化、推進するとともに、併せて民間が新規事業を推進しやすい環境づくりに向けた規制緩和を進めることが求められる。
公共投資とともに、国民が切望する税制改革を一刻も早く実行することが求められる。とりわけ法人税の実効税率40%への引き下げの前倒し、所得税・住民税減税の上積みの早期実施は、内需拡大に資する税制改革の基本である。
これとともに、公共投資は即効性の高い税制改革の実行と組み合わせることにより、大きな効果を発揮する。一部には、既に住宅減税などへの期待感により当面の購入を控えるなど、経済対策の実行を見込んだ行動が見られており、対策の早急な実行が求められている。以下の税制改革については、臨時国会での実現を図り、補正予算と共に活用できるようにすべきである。
持家取得者の大宗を占める中堅所得者層の根強い住宅需要を支える現行住宅取得促進税制を、期間を限定した上で、思い切って拡充すべきである。具体的には減税対象期間を現行の「取得時から6年間」から例えば「10年間」に拡大し、住民税にも適用、対象を敷地部分にまで広げることが効果的である。
同時に、「買い控え」を防ぎ、景気対策としての効果を挙げるためには、現行住宅取得促進税制と並列する制度減税として実現への期待が高い「居住用財産のローン利子に関する所得控除制度」を、所得税の制度改革の中で一刻も早く導入する必要がある。
国民の住宅取得に対する負担感を重くしている不動産取得税は撤廃、不動産取得に係る登録免許税は手数料化、印紙税は低額一本化が必要である。
現下の証券市場の状況に鑑みれば、有価証券取引税・取引所税については、即時撤廃すべきである。また、長期保有株式に係る譲渡益課税の軽減、配当に係る二重課税の排除、ストックオプション税制の拡充、株式投資損失の他所得との通算の容認を図るべきである。
登録から一定年数を経過した自動車を買い換えた場合には、自動車取得税を免除すべきである。
パソコンの法定耐用年数の短縮(現行6年を3年程度へ)ならびに少額減価償却資産の損金算入限度額の拡大(現行の10万円から30万円程度へ)を行なうべきである。
以 上