緊急経済対策の具体化に向けて

─21世紀への架け橋プロジェクトの推進─

1998年10月30日
(社)経済団体連合会

わが国経済は極めて厳しい状況にある。政府は金融システムの早期安定、税制改革、公共投資の推進などを一刻も早く実施することが必要である。
20〜30兆ともいわれるデフレギャップを埋めるためには、とりあえず真水で10兆円を上回る規模の追加的財政出動が必要である。11月には財政出動の骨格を示し、年内にも臨時国会を招集して補正予算を編成すべきである。中でも公共投資については、21世紀への架け橋となる社会資本の形成を進めながら、国民の雇用・所得に対する不安感の緩和につながるよう、下記のような方針のもとに緊急経済対策の具体化を図るべきである。

  1. 公共投資の基本方針
    1. 21世紀の日本にとって必要なプロジェクトへの重点的・効率的な投資
    2. 公共投資は、長期的に見てわが国が必要とする「21世紀への架け橋プロジェクト」に向けられるべきであり、従来の公共事業の概念にとらわれるべきではない。経済対策として補正予算に計上する事業においても、その対象を年度内で終了するものに限らず、次年度以降にまたがるプロジェクトや、単年度予算の制約により進捗が抑制されている有益なプロジェクトにも広げるべきである。

    3. 経済効果の高いプロジェクトに関わる長期計画の延長方針の転換
    4. わが国の長期的な社会資本形成の観点から、各種計画が立案されているが、これらは財政構造改革の一環として、計画期間の延長が行なわれている。
      本年8月12日に閣議了解された来年度予算編成の基本方針によれば、「財政構造改革の一環として既に措置された制度改正、計画の延長や今後のスケジュールが決まっている制度改正等」については、既定方針に従うこととなっている。これにより、高規格幹線道路、整備新幹線、原子力・核融合・宇宙開発等の大型プロジェクト、首都機能移転など21世紀に向けた経済効果の高いプロジェクトが依然として進行を抑制されている。これら計画の抑制方針を転換すべきである。

    5. 国、地方の予算配分の弾力化
    6. 現在、地方財政は逼迫しており、地方自治体は、大胆な行革を通じた財政再建に取り組む必要がある。同時に国は、直轄事業を増やし、さらに補助事業となっているものについては、当面の措置として国費による補助率を思い切って引き上げ、円滑な公共事業の執行を可能にすべきである。

    7. 民間投資を誘発し、景気に即効性が期待される事業の推進
    8. 現下の経済情勢に鑑みれば、公共投資は、民間投資を誘発し、景気に即効性が期待される事業の優先的な推進が求められる。具体的には都市、物流、情報、福祉、環境、科学技術・エネルギー、新産業・新事業等の分野へ重点的に投資すべきである。民間が事業を推進しやすい環境づくりに向けた規制緩和、PFI手法の活用なども重要である。

    9. 切れ目のない予算の執行、執行状況の開示
    10. 来年度に向けて、切れ目のない予算の執行が図られるよう、予算の繰り越しを認めるべきである。
      同時に、新たな補正予算の執行にあたっては、これまでの補正予算の執行状況を明確に示すとともに、日本経済の構造的な体質改善にどれだけつながったかを開示することが求められる。

  2. 分野別重点投資項目(例示)
  3. 各分野において重点的に投資を進めるべき事業として、以下のようなものが挙げられる。これら事業を早急に具体化、推進するとともに、併せて民間が新規事業を推進しやすい環境づくりに向けた規制緩和を進めることが求められる。

    1. 都市の再生、住環境の整備
      1. 域内・域間連携を円滑にする交通インフラの整備
        • 都市計画道路の整備(環状2号線<虎ノ門〜新橋>の早期整備等、環状線、放射線の幹線道路)
        • 常磐新線の整備促進
        • 営団地下鉄13号線(池袋〜渋谷)の建設促進
        • 整備新幹線3線4区間の早期完成
      2. 快適なまちづくりの推進
        • 民間施行の再開発事業の促進(国費補助率の改善等)
        • 民都機構の土地取得業務に必要な民間借入金に係る政府保証の枠の拡大(2.5兆円の上積み)
        • 民都機構の無利子融資制度の民間事業者への対象拡大
        • 高耐久集合住宅建設に対する補助金の創設
        • 電線の地中化等、共同溝整備の推進
        • 官舎、公営住宅の等価交換方式等による高層建て替え(商業施設・オフィスとの共同住宅化)
        • 都市部の地下駐車場整備
        • 機能更新型高度利用地区制度、高層住居誘導地区制度の活用等
        • 中心市街地活性化事業の推進
      3. 災害に強い都市づくり
        • 基盤的都市施設の耐震補強
        • スーパー堤防(荒川、江戸川、淀川等)・地下河川(環状7号線下白子川等)の整備
        • 防災拠点になる都市公園の整備

    2. 物流効率化に資するインフラ整備
      1. 円滑な物流を妨げるボトルネックの解消
        • 首都圏環状道路(圏央道、外環道、中央環状道)、東海環状自動車道、大阪湾環状道路の整備推進
        • 都内周辺道路においてボトルネックとなっている渋滞箇所の重点整備(谷原交差点の右折車線増加、東京外郭環状道路大泉ジャンクション等)
        • 事業化されている高規格幹線道路(第2東名高速、第2名神高速等)の早期整備、暫定2車線道路の4車線への拡幅(国道4号バイパス越谷〜古河間等)
        • 南方貨物線(名古屋)の早期整備
      2. 陸海空の各輸送モードの結節点にかかるインフラ整備
        • 大井埠頭まで東京貨物ターミナル駅から引込線を延長する等、鉄道貨物輸送によるコンテナ埠頭へのアクセス整備
        • 内貿コンテナ専用ターミナルの整備
        • 5大港を中心とした重要物流拠点と内陸部との連絡強化(車両の大型化に対応した既設橋梁の補強等を含む)
      3. 物流の情報化、標準化推進のためのインフラ整備
        • ETC(自動料金収受システム)の導入促進(必要車両機器の整備─補助制度の創設)
        • パレットの共同管理、回収システムの社会資本としての構築
      4. 国際物流・人流拠点の重点整備
        • 中部国際空港の早期整備、関西国際空港第2期事業の促進

    3. 高度情報通信社会づくりに向けた基盤整備
      1. 行政等の情報化
        • 歳入・歳出手続の電子化
        • 行政への申請・申告・報告・届出・回答等の電子化・ネットワーク化
        • 公共調達の電子化・ネットワーク化
        • ワンストップ・サービスの推進のためのネットワーク整備
        • 行政、国会、裁判所等の情報のオンライン公開
      2. 教育の情報化
        • 小中高等学校等におけるインターネット接続、教師の一人一台パソコンの配備、校内ネットワーク整備、ホームページ整備
      3. 医療・福祉の情報化
        • 病院、福祉施設等のネットワーク整備
        • 健康保険証のICカード化とネットワーク利用環境の整備
        • 在宅ケア支援ネットワークの整備
        • レセプトの電子化、ネットワーク化
      4. コンピュータ2000年問題への対応支援

    4. 少子高齢社会に対応した福祉関連基盤整備
    5. 循環型社会構築に向けた環境関連基盤整備
    6. 戦略的な産業技術政策の一環としてのメガサイエンスプロジェクトの推進
    7. 新産業・新事業開拓に向けた環境整備
    8. アジア経済危機支援に関する新構想(新宮澤構想)の具体化

  4. 効果的な税制改革の即時実行
  5. 公共投資とともに、国民が切望する税制改革を一刻も早く実行することが求められる。とりわけ法人税の実効税率40%への引き下げの前倒し、所得税・住民税減税の上積みの早期実施は、内需拡大に資する税制改革の基本である。
    これとともに、公共投資は即効性の高い税制改革の実行と組み合わせることにより、大きな効果を発揮する。一部には、既に住宅減税などへの期待感により当面の購入を控えるなど、経済対策の実行を見込んだ行動が見られており、対策の早急な実行が求められている。以下の税制改革については、臨時国会での実現を図り、補正予算と共に活用できるようにすべきである。

    1. 住宅取得促進税制の時限的拡充、居住用財産のローン利子に関する所得控除制度の導入
    2. 持家取得者の大宗を占める中堅所得者層の根強い住宅需要を支える現行住宅取得促進税制を、期間を限定した上で、思い切って拡充すべきである。具体的には減税対象期間を現行の「取得時から6年間」から例えば「10年間」に拡大し、住民税にも適用、対象を敷地部分にまで広げることが効果的である。
      同時に、「買い控え」を防ぎ、景気対策としての効果を挙げるためには、現行住宅取得促進税制と並列する制度減税として実現への期待が高い「居住用財産のローン利子に関する所得控除制度」を、所得税の制度改革の中で一刻も早く導入する必要がある。

    3. 不動産取得税の撤廃、登録免許税、印紙税の大幅軽減
    4. 国民の住宅取得に対する負担感を重くしている不動産取得税は撤廃、不動産取得に係る登録免許税は手数料化、印紙税は低額一本化が必要である。

    5. 証券関連税制の見直し
    6. 現下の証券市場の状況に鑑みれば、有価証券取引税・取引所税については、即時撤廃すべきである。また、長期保有株式に係る譲渡益課税の軽減、配当に係る二重課税の排除、ストックオプション税制の拡充、株式投資損失の他所得との通算の容認を図るべきである。

    7. 買い換えに対する自動車取得税の免除
    8. 登録から一定年数を経過した自動車を買い換えた場合には、自動車取得税を免除すべきである。

    9. 情報通信機器の減価償却制度の見直し
    10. パソコンの法定耐用年数の短縮(現行6年を3年程度へ)ならびに少額減価償却資産の損金算入限度額の拡大(現行の10万円から30万円程度へ)を行なうべきである。

以 上


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