生活空間情報基盤の構築に向けて
〜地理情報システムの高度利用のための提言〜

はじめに


  1. 蔓延する閉塞感を打開し、21世紀に向けて国民生活の質的向上や産業の国際競争力の確保、経済活性化を図るためには、情報通信ネットワークの高度利用を通じ、社会全般の効率性ならびに利便性を向上させることが不可欠である。情報化は、個人・組織による迅速な情報収集・共有を可能とし、個人の創造性の発揮、企業や行政における業務の効率化・迅速化をもたらすとともに、新しい事業機会、雇用機会の創出等の有力なツールだからである。
    こうした中で、電子地図を媒介として種々の情報をコンピュータ上で統合的に管理・処理する地理情報システム(GIS:Geographic Information System)の利用ニーズが高まっている。経済社会活動は国民生活のあらゆる空間において行われており、地理情報システムを利用して、行政・経済・環境など、様々な情報と電子地図とを融合させることにより、経済社会活動を視覚的に把握・分析し、総合的な判断を行うことが可能となる。

  2. とりわけ、企業や行政において地理情報システム利用の意義は大きい。行政においては、業務の効率化のみならず、住民サービスの向上、さらには防災対策や災害時等の緊急対応の面で効力を発揮する。生活者のニーズを的確に踏まえた商品・サービスの開発・提供に努めている企業においては、戦略的な経営判断、業務の効率化・迅速化が可能となるとともに、競争力の向上につながることが期待されている。また、地理情報システムの高度利用の推進により、電子地図に関連するデータベース産業やコンテント・ビジネス等の創出が促され、雇用機会も拡大することが見込まれる。

  3. 地理情報システムは、国民の安全の確保と生活の質的向上に不可欠のツールであり、地理情報システム利用の基礎となる地図、行政、経済、環境等のデータは、生活空間情報基盤とも言うべき不可欠の社会インフラである。

  4. 地図と各種情報を融合させる地理情報システムの効用は、現実の世界をより精密にサイバースペース上に構築することでさらに高まり、それが生活空間情報基盤の上に豊かな国民生活が実現している「空間情報社会」にもつながっていく。したがって、地理情報システム利用の基礎となる地図、台帳、統計等の空間データの整備と公開が喫緊の課題となっている。
    政府においても、95年9月に地理情報システム(GIS)関係省庁連絡会議が設置され、地理情報システムならびに国土空間データ基盤(地理情報システムを支える地図データ、位置参照情報、その上に掲載される地理情報システムに広範に利用される我が国土に係る統計情報等の表形式の空間データ等)の整備・普及に取り組んでいる。
    しかしながら、現状では、行政の保有する経済社会活動に関する情報は、国民が簡易かつ機動的に活用できる形で整備・公開されているとは言い難い。一方、国内では限られた土地を効率的に活用するため、既に建築物の高層化、地下の利用等が進み、三次元地図へのニーズが拡大しており、その対応が急務である。そもそも、土地の基本情報である地籍の整備は都市部を中心に著しく遅れており、早急に整備を進める必要がある。

  5. 今後、官民の役割分担を明確にした上で、行政において、地理に係る基礎的なデータを効率的に整備し、国民や企業が行政情報を無料または安価に入手し、個々のニーズに応じて地理情報システムを利用できる環境作りを行うとともに、住民サービスの向上のために、地理情報システムを積極的に活用していくことが求められる。こうした観点から、経団連では、地理情報システムの高度利用のための環境、即ち国民の「生活空間情報基盤」の整備のあり方について提言を取りまとめた。


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