企業人政治フォーラム速報 No.23

1997年10月17日発行

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政局講演会/
福岡政行白鴎大学教授

10月9日の政局講演会で白鴎大学の福岡政行教授は今後の政局の展望について語った。以下はその概要である。

■橋本政権の行方
現在の政治の状況は混沌としており、9月を境に橋本政権は右肩下がりになった。橋本さんは、8月までは完全無風、2期4年どころか、21世紀まで総理をやるのではないかと言われていたが、あの9月11日の佐藤孝行入閣問題を境に完全に変わってしまい、今は大変深刻そうな顔をしている。
私は、佐藤問題以降、橋本政権の短命説を唱え続けているが、この低落傾向は止まらないと思う。橋本内閣の支持率を下げる要素は4つある。
1つ目は、佐藤問題に続く中村喜四郎判決、泉井スキャンダル問題で、これらをワイドショーが取り上げ始めると主婦が動き、橋本内閣の支持率は10月末には40%を切ってくる可能性がある。
2つ目は、橋本さんの個人的な性格の問題だ。橋本さんは政策については下手な官僚より余程詳しいが、ディテールの橋本と言われるように、“木を見て森を見ず”どころか、“木も見ず葉っぱしか見ていない”との評価を聞く。これでは、日本のトップリーダーとしての資質が疑われる。
3つ目は、行革、特に郵政3事業の問題で、自民党の中は国営堅持という方針が大筋見えてきたことだ。この問題で小泉厚相は恐らく辞表を胸にしているだろう。内閣改造後、既に2人の大臣が辞めており、数ヶ月の間に3人も大臣が辞めたら内閣はガタガタになる。11月政変説の大きな根拠はこれだと思う。
最後の4つ目は、この景気の一段下げである。今の消費の冷え込み、中小企業や小売りなどの状況は惨澹たるものだ。
日本の政治は、連立政権になった時には夢があったが、細川、羽田、村山と続くうちにその夢はしぼんだ。そこで、もう1度、財政再建や経済の安定を願って自民党に政権を託したが、消費税の引き上げ、年金問題、医療保険の引き上げ等が続き、ここへ来てさらに、景気が悪くなっている。こういった不安は女性の方が敏感だから、このままいけば橋本内閣の支持率は年末にかけて30%を切るかもしれない。
このような状況で、橋本政権は年内はもつかもしれないが、来年の予算の成立と引きかえに総辞職といった「桜政変」になる可能性がある。

■宮城県知事選挙は政界再編の引き金か?
10月26日には、宮城県知事選が行われるが、これは宮城ショックとなって、政界再編成の引き金となる可能性がある。
この選挙には、浅野現知事に対して、市川一朗という元建設官僚が参議院議員を辞職して出馬する。この市川さんの後ろには、三塚博さんと小沢一郎さんがつく。浅野さんは無所属だが、民主党が応援しており、橋本大二郎さん(高知県知事)も応援している。新聞ではゼネコン(市川氏)対情報開示(浅野氏)の闘いという言い方をしているが、複数の世論調査によれば、ダブルスコアで浅野さんがリードしている。
もしここで小沢さんが全面支援する市川さんが敗れれば、旧公明党系は小沢さんとは完全に距離を置くだろう。さらに、これで終わればいいが、その後、市川さんの辞任に伴う参議院の補欠選挙、また、連座制の適用による公民権停止の最高裁判決が予想される菊池福治郎さん(宮城6区)の衆議院補欠選挙が予想され、これら3つの選挙で非自民系の候補が勝てば、野党の中からリベラル民主系の新しい勢力が出来上がる可能性が出てくる。

■永田町の密約説
今回の内閣改造にからんで、小渕−加藤密約説ということが囁かれた。万一、橋本さんに何かあったとき、ポスト橋本は小渕、それを加藤さんはじめいわゆるYKKが支える。恐らく、そういう図式が描かれているというのは間違った見方ではないだろう。これには、小渕さんの後見役である竹下さんと、加藤さんの後見役である野中広務幹事長代理が大きな役割を果たした。この動きを見ると、キングメーカーは竹下さんというふうに党内の状況は決まりつつある。

■新進党の行方
小沢一郎さんの求心力は、ほぼ消えていると思うが、小沢さんが新進党を離党して、保保派と新しい政党を興す可能性はないとは言えない。その際に小沢さんと一緒に出て行くのは、新聞では50人と言われているが、私の分析では、よくて40人程度、悪ければ25人くらいで、相当深刻な状況だと思う。そうなった場合、新進党がどのように分かれていくかというと、鹿野道彦さんの周辺10数人と旧民社党系の17人は先述のリベラル民主グループに合流し、旧公明党系の40数人は独自の政党になるのではないか。

■民主党の行方
民主党は、菅さんの1人代表制となり、ある程度党の姿が見えてきて、支持率は上がってくるのではないか。そして、先述のような形でリベラル民主勢力の結集ということにつながってくれば、民主党は面白い存在になってくる。
橋本大二郎さんは宮城県知事選で浅沼知事の応援をしているが、鳩山由紀夫さんと橋本大二郎さんは学習院の同級生であり、また、橋本大二郎さんは菅さんを高く評価している。将来的に、この橋本大二郎さんの存在は国政を語る上で重要なポイントになってくるだろう。
民主党の中では、菅さんと鳩山由紀夫さんの関係は基本的には続くだろう。むしろ、横路孝弘さんを含めた旧社会党、旧民社党の自治労系グループと民主党の中でいつまで一緒にやっていけるかが問題だ。
これらの動きから、保守自民系とリベラル民主系との政界再編という芽が少し生まれてきている。

■ポスト橋本
ポスト橋本は誰かということをよく聞かれるが、密約があるから小渕さんだろうと言ったら、「橋(端)も駄目だが、渕(淵)も駄目だ。政治は正道(真中)を行くべきだ」とある人から言われた。かつて金丸さんは「平時の羽田か小渕、乱世の小沢、大乱世の梶山」と言ったが、確かに羽田さんや小渕さんは非常に良い人柄だが、現在の時代の周波数にあっているかというと疑問符がつく。
しかし、総理が代わって、財政再建を進めながら、景気浮揚のための梃入れ、財政出動と言ってくれれば、雰囲気はずいぶん変わるだろう。そういうことがあるので、小渕さんが大本命、梶山さんが大穴で1%くらい可能性があるかもしれない。ただ、もっとずれて本当に行革や郵政3事業が前面に出れば、小泉純一郎さんという線もあるかもしれない。ただ、その場合は小泉さんが自民党を出て、菅直人さんたちと組むケースだと思う。そこまではいかないと思うが、小泉さんには過去の確率論はまったく当てはまらない。

■来年の7月12日はダブル選挙
来年の7月12日はダブル選挙になるだろう。投票時間が2時間延長される予定だが、これでダブル選挙なら、恐らく60数%まで投票率が上がるだろう。
そうなると、来年の選挙は少し流れが変わる。ここ2〜3年、日本は政治的真空状態だった。ところが、この9月11日の佐藤孝行問題はいかにも国民にわかりやすく、政治に人が戻り始めた。脱政治からもう1度政治で何かを変えようと少し雰囲気が変わってきたようだ。今、一番話しをしてみんなが肯くのは、自民党が政権に戻るのが早すぎた、ということだ。これらを考えると、ダブル選挙で自民党は勝つかもしれないが、衆議院では負ける可能性もある。


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