企業人政治フォーラム速報 No.27

1997年12月17日発行

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当面の重要政策課題について/
野呂田芳成衆議院議員−政経懇談会

12月10日の政経懇談会で、野呂田芳成衆議院議員(自民党政務調査会筆頭副会長、税制調査会副会長、金融不正再発防止対策特別調査会会長)は、総会屋等への対策、行政改革、景気対策、税制改革などについて語った。

■総会屋等への対策
一連の金融不正、企業不祥事対策として、自民党で金融不正防止対策の調査会を作って検討を行ってきた。
そこでまとめた第1の点は、総会屋等が不当に得た利益を徹底的に追求し、没収し、追徴しようということだ。そのために、「組織犯罪対策法案」を取りまとめ、犯罪収益を用いて法人などの事業経営を支配しようとする者の処罰などを決めた(次期通常国会に提出予定)。第2点は、利益要求罪の新設だ。現在の商法では、利益の受供与が処罰の対象になるが、それでは遅すぎ、利益の要求の段階で罰することが大事だということでこの規定を設けた。また、経済犯罪に対しては、欧米とも日本よりかなり厳しい処罰がある。今臨時国会で、他の法律との均衡を失しない範囲で経済犯罪に対し厳しい罰則を科すよう商法等を改正した。また、利益要求は脅迫を伴なうものであり、この脅迫する側にメスを入れる必要があると考え、今後は麻薬特例法にある犯罪の推定規定や刑事免責制度の導入も検討していく。

■行政改革の断行には政権を失うくらいの覚悟が必要
衆院の行革特別委員会の理事をやっている関係で、今年、行革がかなり成功したといわれているイギリス、カナダ、ニュージーランドの3ヶ国を訪問して勉強してきた。そこでの共通点は、行革をやることは国民にとっては天の声かもしれないが、政党から見ると政権を失うことを意味している、ということである。行革の後、イギリスもニュージーランドも政権が交代しており、カナダでも与党自らが政権が代わるだろうと言っていた。痛みを伴わない行革などなく、英国では75万人いた公務員を3年で50万人まで減らした。このようなことをすれば政権を失うのも当然で、日本のように支持率を気にしながらでの行革などできるはずがない。政権を失う覚悟で、それでもなお国民のために断行するというのが行政改革であるとつくづく感じた。
また、3カ国を見て、4つの共通する行政改革の哲学を感じた。1つ目は行政サービスの向上、2つ目は行政のスリム化、効率化、3つ目は民営化の促進、4つ目は公務員の削減である。これに対し、日本の行革は、こうした前提となる哲学が議論されずに、いきなり省庁の数の削減をやっている。これは大変問題があると思う。ただ、まだ具体的な議論はされていないが、現在打ち出している各省庁の局の数の128から90くらいへの削減、1,200ある課の15%程度の削減、公務員定数の10年で10%削減などを実現すれば、英国などには及ばないものの、今よりは良くなるわけで、これからその実現に努力していかなくてはならない。
さらに、本省の改革も必要だが、地方の行政改革を進めることが一番大事だ。国家公務員115万人に対し、地方公務員は327万人いる。これでは多すぎるし、地方の予算の使い方にも大変問題がある。地方分権は確かに必要だが、今のまま地方分権を進めたら大変な混乱が起こるだろう。現在、地方自治体は3,200以上あるが、これらを地方分権の受け皿という意味でも1,000くらいに統合することが必要だ。

■景気対策
政府は、景気に関して、最近までゆるやかな回復といっていたが、今回2年ぶりに「回復」という言葉をとって、「足踏み状態」と言った。その要因は、第1にGDPの60%を占める個人消費の低迷だ。次に、住宅投資の減少(1996年の建設戸数163万戸に対し、今年は133万戸程度の見通しで、30万戸の減少は関連商品も含めると10兆円の減少、GDPを2%押し下げるのに相当する)があげられる。
自民党では、2度にわたり、景気対策をまとめたが、橋本総理は財政再建に背反する財政出動はしないという方針であり、手足を縛られて泳いでいるようなもので、当然、あまり効果の期待できるものはできなかった。そんな中で、1つは規制緩和、もう1つは土地の流動化をやることになった。
土地の流動化について、今まで政府がやってきたのは、容積率の緩和など供給サイドからの策だけだが、需要のないところにいくら供給策を行っても駄目で、今は需要を喚起することが重要だ。土地が流動しなくなるのは、過去の例からいって、土地の保有税と譲渡所得税の両方が高い時だ。今の土地税制は、バブルの時に、土地の流動を抑えて、土地の価格を下げようという時に行った政策で、それが今も続いているのが不幸だ。だから、我々は、地価税の廃止ないしは凍結と譲渡所得税の大幅な引き下げを主張している。この地価税と譲渡所得税については、ほぼ私共の意向通りになっていくと思っている。
さらに、不動産の流動化と企業の資金調達手段の多様化を図るため、特別目的会社(SPC)を作って不動産を証券化できるようにするよう法案を次期通常国会に提出する。
土地に関わる税制改革は、法律ができるのは来年の5、6月頃だと思うが、適用は1月1日に溯って行うことにしている。

■法人税は来年度5%以上の引き下げの実現を
法人税の引き下げ問題は、経団連が主張しているように、経過期間4年、実質減税を含めた実効税率5%以上の引き下げを来年度やろうということを主張している。また、その後、現在の実効税率49.98%を40%まで引き下げることを税制改正大綱に書くよう私たちは主張している。何とか法人税くらいは引き下げを実現したいと思っているが、党内の意見もかなり引き下げということで一致してきた。
また、有価証券取引税の廃止問題は、かなり希望がもてると思っている。これは、3,500億円程度だから、一気に廃止するよう主張しているが、財源問題から2年にわたって廃止しようという意見もある。

■公共事業罪悪論は間違い
最近、公共事業罪悪論があり、公共事業の効果がゼロみたいなことをいう人もいるが、これは間違いだ。大蔵省が世界計量モデルを使って試算したところによると、仮に1兆円を所得税減税と公共事業にそれぞれ投入した場合、3年後の増収は、所得税減税にまわした場合が2,600億円、公共事業にまわした場合は3,700億円ということだ。米国のクリントン大統領は、厳しい財政事情の中でも公共事業を増やしてきたのが景気を回復させる原動力になったと言っている。日本のように、頭から公共事業を否定するのは乱暴で、効率の高い公共事業をやることは意味がある。

■公的資金導入問題
金融システムの安定化をめぐって、公的資金の導入論が盛んだが、宮澤元総理、梶山前官房長官の提言、さらに21世紀政策研究所の田中直毅さんの提言と3つの有力な提言が出そろったのだから、これらの提案をもとに決まっていくと思う。問題は、預金者の保護に限定するか、潰れていないが苦しい銀行も救うのかということだ。米国でも同じ問題があり、古くは潰れそうな銀行の保護をやり、ブッシュ大統領時代には、預金者保護に限って、公的資金を投入した。ただし、米国では、公的資金の導入を大変厳しく考えており、預金貯蓄機構の管理職のうち、5,000人を逮捕し、2,000人以上が起訴され、1,800人以上が有罪となった。決して甘い話ではなく、日本でも公的資金の導入にあたっては、その当たりをどうするかという議論が大事になってくる。


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