企業人政治フォーラム速報 No.28

1998年 1月 9日発行

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政治資金シンポジウム
〜政治と金民主政治のコストを考える〜

一連の金権腐敗事件を契機に、政治改革が実現し、政治と金をめぐる問題は一歩前進したと言われている。しかし、依然として政治に多額の資金が必要な実態は変わっておらず、企業・団体献金や政党助成についても、そのあり方が問われている。
そこで、去る12月19日、政治資金のあり方について、その現実を踏まえながら、いかに理想に近づけていくかを議論するために、政治資金に関するシンポジウムを開催した。

◎パネリスト
与謝野馨  衆議院議員・自民党広報本部長
金指正雄  日本経済新聞論説顧問
清水幹夫  アジア調査会常務理事・元毎日新聞論説委員長新聞論説委員長
前田又兵衛 前田建設工業会長
岩井奉信  常磐大学教授(コーディネーター)
    
◎概要

■政治資金は「入」だけではなく、「出」の議論も必要も必要
岩井教授:
一連の政治改革は政治と金の問題がその原点とされ、政治資金規正法の改正や小選挙区制度の導入などが行われた。しかし、政治改革によって政治と金の問題が解決したかといえばそうではなく、1996年の政治資金収支報告書を見ても、政治資金は劇的に減ったわけではなく、むしろ、小選挙区制によって選挙が厳しくなり、かえって金がかかるようになったという指摘もある。
従来、政治資金というといわゆる「入」、即ち誰がどのくらい負担するかということが主に議論になったが、そもそも政治資金も需要があるから供給があるのであり、この政治資金の支出面である「出」の問題をまず議論していく必要がある。

■政治資金は日本の意思決定機関を維持するコスト、政治家にもそれ相応のインフラは必要
与謝野議員:
日本には、衆参両院と3,300以上の地方議会がある。政治資金は一つには、これらの意思決定機関である議会を維持するためのコストである。現在、議会の維持に約7,000億円がかかっている。このコストが500兆円のGNPを持つ日本の意思決定機関を維持するコストとして妥当かどうかを議論する必要がある。
次に、議会に参画する議員並びに政党の活動にもコストがかかる。政治家は紙と鉛筆があれば良いという人もいるが、会社の社長が車や秘書、個室などのインフラを持っており、それが会社の費用でまかなわれているのと同じように、政治家にもそれなりのインフラが必要である。
では、政治家にはどれくらいのインフラが必要かといえば、私の場合、有権者の意向などを把握するための情報収集活動に秘書が10人(有権者5万人に1人の割合で計8人、総括者や団体からの要望の受付者1人ずつ)、その他アルバイトや運転手もいれて、13人程度の陣容である。これに対し、国費で賄われるのは、秘書2人、政策秘書1人の計3人であり、残りの人件費は全て個人の負担になり、相当な額である。さらに、事務所経費や地元での会合費などをいれると月に700〜800万円はかかる。
一方、収入面では、政治資金規正法の改正により、年5万円以上の寄附は公開されることになったため、政治団体の収入は激減している。減少分はパーティーで補っているが、パーティーはホテルに払う分余計であり、本来の政治活動に使いたい。
さらに政治資金の問題についていえば、政治家は絶対に公私を混同してはいけない。それから、よく個人献金はキレイで、企業献金は癒着だといわれるが、実際は全く逆である。泉井事件を見ればわかるように、大企業などの出す献金は全く危なくないが、個人の出す金が一番危ない。もちろん、個人できちんとした金を出す人もいるが、日本は個人がどんどん政治資金を出すという風土ではないし、いまの税制では不可能である。それから、経団連が企業献金の斡旋を取りやめたが、本来、各企業・業界がバラバラに献金するよりも、何らかの中立的な機関が斡旋した方が、バランスのとれたクリーンな資金となる。現在のように、政治家個人がいろいろな手段で政治資金を捻出しなければならない状態は悲劇である。

■政治家を育て支援していくことは国民の責任
前田氏:
本日は一個人として意見を言いたい。
第1に、大原則として、政治資金は公的助成、企業献金、個人献金の3本柱で賄うべきであり、政治家を育て支援していくことは、国民一人ひとりの責任である。
第2に、本来の政治活動とは何なのか、この点が意外に考えられていない。政治家は国の将来を考えるとともに、地域のニーズにも応えなければならない。これらの活動の違いにより、かかるお金も違ってくる。
第3に、選挙制度について、完璧な制度は存在しない。一つ言えることは、重複立候補により選挙区で落選した人が比例区で当選するのはアンフェアである。また、すべての政治家は小選挙区の先例を受けるべきで、政党名で当選するのは駄目だ。比例区には、政党・政府である程度の地位に就いた人がまわるべきである。
第4に、個人献金について、例えば年末調整で自動的に税金が還付されるような仕組みを導入し、個人がもっと献金しやすい制度にしてほしい。その際、現金の受け渡しは禁止し、カードや振込にすべきである。
第5に、日本では行政委任型立法が圧倒的に多く、議員立法は全体の3%程度に過ぎない。米国では全くその逆である。政治家がある程度の政策を作るには、最低20人程度のスタッフが必要であり、そのためには、個人が無制限で資金を集められるようにすべきである。

■政党はもっと自助努力をすべき、公的助成の適正水準の議論も必要の適正水準の議論も必要
金指氏:
今の政治の現状を前提にすると、政治に金がかかることはある程度理解できる。しかし、一般国民の立場から見て、そこまで金をかける必要があるのかという声があるのもまた事実である。
小選挙区制の導入により、かえって金がかかるという声もあり、こうした状況を結構ですと見過ごすわけにわいかない。政治に金がかかりすぎることが政治不信の根本にある。然らば、政治資金がどのように賄われるべきかが問題だが、政党の収入の構成のうち、党費・会費・事業費といった政党が自ら稼ぐ部分が非常に減っている。反面、公的助成の割合が増えており、新進党では収入の8割を公的助成に頼っている。公的助成は必要ではあろうが、貰えるのが当然となると、政治家から独立の気概が薄れ、官庁との利害関係だけが前面に出てくる。公的助成の水準をどの程度にすべきかという議論が必要だ。また、公的資金は実際は税金であり、その使途についても厳しく監視していく必要がある。
今後、「政党」というものをどう考えるのか、政党文化をどう作っていくかが、日本政治を考える上で重要なポイントとなる。最近、ようやく「官から政へ」などと言って政治の領域を考えるようになったのは良い傾向である。「民」がリストラを余儀なくされる中、「政」も旧態依然のままという訳にはいかない。

■どこに金をかけるべきか、政治家と有権者が本格的に考えるべきが本格的に考えるべき
清水氏:
民主政治には時間とコストがかかり、これを誰かが負担しなければならない。公的助成にしろ、企業献金にしろ、最終的に負担するのは一人ひとりの国民である。これが「入」の問題である。
一方、「出」の問題としては、どこに金がかかるのか、どこにかけるべきか、政治家と有権者が本格的に考える必要がある。中央省庁再編の議論で、中央省庁が本来やるべき仕事が何なのかを議論する必要があるのと同じように、政治に単純に金がかかりすぎるという議論だけでなく、どこにかけるべきかをまず議論すべきであろう。
民意を知るための情報収集、立法調査・研究、有権者への宣伝などには十分コストをかけるべきであるが、現状では、このような本来の政治活動に使う部分が全体の7〜8%でしかない。残りは、人件費や事務所費用、あるいは冠婚葬祭費、後援会費用などに充てられている。一説によれば、一番金がかかるのは、次の選挙まで有権者をつなぎとめるための経費だというが、これは認められない。次の選挙のことを考えるのは「政治屋」であり、「政治家」とは国の将来を考えるべき存在である。

■政治改革によって政治資金は減ったのか?
岩井教授:
政治改革の前後で政治にかかる費用は変わったか。また、政党中心の政治は実現したか。

与謝野議員:
小選挙区制導入後も、通常必要な金は変化がない。ただ、連座制が強化されたことにより、選挙費用が減少した地域もある。政党中心の政治について、もともと中選挙区制の利点は、志を持った人が無所属でもどんどん立候補できることにあったが、小選挙区制では政党の認知がないと難しい。また、小選挙区制では、党の執行部に媚びないと出世できない。元々、執行部に反対意見を言えることが自民党の良き伝統であった。さらに、小選挙区制では、候補者は有権者に甘いことばかり言うようになり、例えば消費税の導入などのように、痛みを伴う政策は打ち出せなくなる。

前田会長:
政治改革の結果、政党に資金を出しやすくなったことは確かである。一方、政治家個人への献金は政治家1人1団体に制限されたため、パーティーが急増し、その対応に苦慮している。また、連座制の導入により、選挙の応援の仕方も良い方向に変わった。

[質疑応答]
フロアー発言:
公的助成が導入された中で、企業として政治資金を拠出する論理をどう構築していけば良いか。また、政治資金収支報告書は、自治省まで行って実物を見れば、使い道まで詳細に記載されているが、そうしたことが意外と知られていない。

与謝野議員:
日本では、税制の問題や手続きの煩雑さなどもあって、個人献金が育ちにくい。企業がなぜ政治資金を負担するのかについては、企業も社会的存在であり、国の意思決定プロセスにおいて、それを左右するというのではなく、プロセス自体を維持していくことが企業としても必要であり、また企業の責務でもある。

岩井教授:
本日は、与謝野議員の話から政治活動の必要経費のおおよそは理解できた。今後の問題として、民主主義のコストとして、適正な水準はどの位か、それをどのように手当てすべきか、議論を深める必要がある。

当面の政治情勢と通常国会の展望/
川崎二郎自民党国対筆頭副委員長

昨年12月25日の政経懇談会で川崎二郎自民党国会対策委員会筆頭副委員長は、今後の政治情勢と通常国会の展望について語った。

■現在の国対は正面からぶつかり合う時代
現在の国対は以前のように裏でやりあうのをやめ、正面でぶつかり合う時代になった。そうなると、最大の問題は国会の各委員会の人事である。予算委員会にしても、財政構造改革特別委員会にしても、派閥の順送り人事ではとてももたない。そのために、今回、予算委員会の筆頭理事には既に予算委員長を務めたこともある深谷隆議員にお願いした。また、財政構造改革の特別委員会でも白川勝彦議員に筆頭理事になってもらった。このように、現在は国対が裏で手を回すよりも、現場を強化する中で政策を進めていく時代になっている。
自民党も国対も変わりつつあり、今後、ある意味で党の運営も企業のようにシステム化されていく。例えば、比例代表区では専門能力を持つ人を出していくようになるだろう。

■金融システム安定化対策こそが経済対策
次期通常国会は、1月12日から6月10日まで開かれる予定だ。
最初に、補正予算があるが、2兆円の特別減税は誰でも賛成するので、これは通る。
次の金融システム安定化対策だが、預金保険法案の7兆円については、預金者保護を目的としているので問題はない。共産党を除く全党が賛成するだろう。残りの3兆円とも23兆円とも言われる部分については、野党はおろか、今の自民党の雰囲気では党内も簡単ではない。預金者保護に加えて、銀行の資金供給機能を守らねば、日本経済は立ち直らない。銀行や信金が突然潰れれば、中小企業がもたない。しかしながら、現在は、こうした理屈が党内でさえなかなか納得されない。
政府として経済対策を打ち出すにしても、預金者保護は経済対策とは言えないのであり、金融システム安定化策こそが経済対策である。国対として懸念するのは、これを何が何でもやるという雰囲気がないことである。これをやるには、相当のアナウンスが必要であり、世論となっていく必要がある。

■暫定予算はやむを得ない
通常国会では、この金融システム安定化対策を先にやらねばならないので、暫定予算はやむを得ない。4月に予算編成ができればよい。これまでは自民党が政策を打ち出す時は、12月までに決めれば、あとは粛々と事が運んだが、今は世論の後押しがないと成立しないという世の中に変わってきている。また、従来は大蔵省が考え方を出して政策を決めていったが、これも今は異なる。世論の動向に政治が敏感に反応しながら政策を行っていく時代になった。

■省庁再編法案の通常国会での処理は困難
その他に、日米安全保障の新ガイドラインやPKOの問題などもあるが、こうした問題に対して、社民、さきがけが本当にのってくるかどうか、そろそろ怪しくなってきた。
さらに、旧国鉄債務や国有林野改革なども課題としてあり、こうして見ると、省庁再編法案を通常国会のうちに通すのは困難で、秋の臨時国会にまわさざるを得ないのではないか。

■参院選では、なんとしても過半数を
参院選は通常国会と連動して1週間前倒しとなり、7月5日投票である。山積している課題を解決するためにはどうしても過半数ほしい。衆院は過半数を制しているのでなんとかなるが、参院ではとても対応できない。社さは参院選でのケースを考えながら対応してくる。そうしたことから、参院選後、直ちに国会を開いて懸案を処理する必要が出てくるだろう。

■橋本総理にはじっくり考える時間が必要
従来は大蔵省がしっかりしていて、5年間位の政策パッケージが考えてあったが、今は何もない。政治がリーダーシップをとるという意味で良いことかもしれないが、橋本総理がじっくり考えて日々の決断をしているようにはどうしても見えない。橋本総理は、省庁再編、財政構造改革、外交などに追いまくられ、走り続けているだけであり、またそうせざるをえない。総理が何をどういう順序でやるべきか、自分でゆっくり考える時間を作ってあげたい。経済界からも是非そうしたアドバイスをしてほしい。


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