企業人政治フォーラム速報 No.30

1998年 2月10日発行

PDFファイル版はこちら

企業人政治フォーラムシンンポジウム
〜地方から見た中央政治〜

フォーラムでは、発足以来、さまざまなテーマでシンポジウムなどを行ってきたが、主に中央の政治や行政に関する中央の立場からの討論が主であった。そこで、今回、新たな視点から中央の政治を議論するために、「地方は中央政治をどう見ているのか」、また、「どうあるべきだと考えているのか」について、地方政治に深く関わっている方々を招いて、去る1月23日、シンポジウムを開催した。

●パネリスト●
恒松制治 埼玉総合研究機構理事長(元島根県知事)
平松守彦 大分県知事
岩國哲人 衆議院議員(元出雲市長)
藪野祐三 九州大学法学部教授[コーディネーター]
    

藪野:
今日は、3つの点に絞って議論を進めたい。1点目は、まさに地方は中央の政治をどう見ているかということ。2点目は、地方分権の問題、3点目は、市民の政治離れの問題で、これをどう解決していくか、この3点を中心に論議を進めていきたい。

■地方は中央政治に無関心

恒松:
端的にいうと、地方は中央の政治に対して関心がない。一方で中央の行政には、自分の地域の補助金はいくらかという意味で関心がある。しかし、これは何も今に始まったことではなく、随分前からあったことだ。
私が1975年に島根県知事に当選した時、私は社会党推薦で対立候補は自民党候補だった。全く勝てるわけはない選挙だったが、実際は自民党支持者の多くが私を支持してくれた。言い換えれば、政党とはいったい何なのかということだ。政党は、思想統一とか、政策統一まで踏み込めるのか。私は、極端にいえば、政党の選択は選挙に勝てるかどうかだけで、政策とは無縁だとも思う。

■日本的特色を持った企業経営・産業政策を、
中央と地方は上下の関係ではない

平松:
2つ申し上げたい。1つは、今、何でもグローバルスタンダードと言われているが、日本でいうグローバルスタンダードとは米国型、アングロサクソン型のグローバルスタンダードだと思う。日本は、国際的なルールに適応させながらも、日本的特色のある企業経営、産業政策を行っていくべきだ。
もう1つ、地方と中央というと、どうも上下の関係として捉えられ、何でも東京の感覚で物事がいわれているが、もっと地方の実情をよくわかってもらいたい。国会議員も人口比例でやっているが、これでは地方の声がだんだん反映されなくなる。さらに、財源をすべて中央政府が握っていることが大きな問題で、私たちは、何をやるにも中央に行って、予算をもらわなければできない。このように、みんなが東京へ来るから、ますます東京一極集中が進む。

■ルールメーキングが重要

藪野:
日本で言われているグローバルスタンダードがアングロサクソン型のグローバルスタンダードだということは、私も常々感じていた。日本人はルールを守ることは小さい頃から教えるが、ルールメーキングは非常に弱い。ルールを作るということは今後、教育にも必要だし、企業戦略上も重要になっていくだろう。

■政治や行政はローカルに考え、グローバルに行動を

岩國:
私は、出雲市長を6年務め、今、国会にいるが、中央の地方に対する不信、地方の中央に対する不満、この構図は以前から変わっていない。最近、グローバリゼーションということが盛んに言われていて、経済の分野では、ニューヨーク、ロンドン、そして東京の金融ビッグバンというように、グローバルな発想がローカルなアクションにつながっている。しかし、政治や行政はその逆で、ローカルに考え、グローバルに行動しなければならない。
政党のあり方に関し、私は、地方政治において、果たして政党は必要なのかと感じている。政党とは選挙のための便宜的なものであって、政策で地方議会が運営されているわけではないのが実態だ。私は、国政政党は知事選や市長選などの地方の政治に関与すべきではないと考えている。
平松:
今、岩國さんは国政政党は地方政治に関与すべきでないと言われたが、私は、政党は地方のローカルパーティーでなくてはならないと思っている。今、地方に支部がない政党が多くあるが、そういう政党が国政選挙を戦うのは難しいし、地方の切実な声が中央に届かない。今の野党のように、ただ、中央だけで離合集散していて、その議論が我々にはわからないというのでは駄目だ。

藪野:
それでは、次に地方分権の議論に入っていただきたい。

■国民に一番近いところから行政を再配分すべき

恒松:
地方分権の問題については、以前からとにかく主権は国民にあるのだから、その国民に一番近いところが権限を持つべきで、都道府県などはいらないと主張してきた。今の組織でいえば、市町村が中心になるべきで、市町村でできないことを県がやり、それでもできないところを国がやるというように国民に一番近い所から行政を再配分することが必要だ。これは財源についても同じで、市町村が徴税権を持つべきだ。地方が自ら税金を取り、自ら使うというように意識の面から変えていかないといけない。

■連邦制、首相公選制を導入し、地方主権国家の実現を

平松:
今の地方分権の議論は、民間から見ると、中央と地方の官官分権ではないか、という感じがある。今の国家体制を変えずに、中央と地方で綱引きをやっているという実体では本当の分権はできない。地方分権の究極の姿は、その地域であがった税金で地域の行政をやるということだ。例えば、九州なら九州を1つの府として、その地域からあがった税金はその地域で使う、そうすれば、自分たちの税金をどう使うか、行政への関心も高まるはずだ。
これをやるためには、全国を7〜10くらいのブロックにわけてやることが考えられる。ただ、これは、日本では憲法問題になり、議員内閣制ではできない。米国のような連邦制にして、連邦法で連邦のやることを決め、それ以外は州に任せるというような州主権国家というか、地方主権国家にすべきである。また、首相が今のようにころころ代わっていては改革はできない。首相公選制を実現し、ある程度の任期を保証すべきだ。
藪野:
東京ではなかな地方分権というのがわかりにくいと思うが、問題は2つある。1つに、地方議会が活性化しないというのは、自分たちの財源がないからで、国からとってくるという感覚では赤字はどんどん拡大していく。もう1つは、地方分権とは生活革命である。男性はなかなか実感がないが、例えば、保育園と幼稚園の所管が違うというような縦割り行政の弊害がいかに大きいかは女性の方が身近に感じている。

■国、県、市町村という3層構造の見直しを

岩國:
地方分権には、国家構造をどう考えるかということが一番大事だ。1つには、やはり平松知事の言われるように、首相公選制を実現し、4年間の任期を保証してやることが必要だ。
もう1つ必要な国家構造の改革は、今の国、県、市町村という3層構造の見直しだ。この狭い日本に3層構造は必要ない。恒松先生も言われるように、県という組織はいらない。今の3,300の自治体を300くらいの基礎自治体にまとめ、この300の基礎自治体と中央政府の2層構造が一番いいと思う。

[フロアー発言]:
政治の問題で、最近の野党の離合集散が果たして創造の道を歩いているものなのかどうかお聞きしたい。それから、地方分権の問題で、地方が自らこれを勝ち取るエネルギーを出さなければならないと思うが、今は地方にそのような熱意が見られない。この点をどう思うか、お聞きしたい。
恒松:
地方分権で、地方に熱意が見られないというのは、今おっしゃたとおりだと思う。ただ、私は徐々に地方で問題を考え、地方で処理し、地方で改善していこうという傾向が見えてきたように感じている。地方分権には、今後、市民を政治・行政に巻き込んでいくことが必要で、そのためには、何故行政がそれをやるのかがわかるように情報公開することが重要になってくる。
平松:
地方分権は、国家体制の変革という意味で明治維新と同じ革命だ。地方分権を成り立たせる国家構造の変革というものを声を大にして、経済界も我々も言っていく必要がある。

■野党再編は創造の一歩、企業人の政治への発言を期待

岩國:
政党については、今までは破壊の時期で、これからが創造の時期だ。本当の創造は破壊がないところには生まれない。今日(1月23日)夕方から3党が一緒になって、民政党として、創造の一歩を踏み出す。そして、年内には、これも解散して、もう1回新たな再編に結び付けていきたいと考えている。自民党は数の上では多数をもっているが、多数政党というのはその数ゆえに、なかなか政策の転換ができない。与党が政策転換できないのなら、それを要求し、実現するのが野党の大切な役割だ。
それから、企業人の政治、行政に対する声が非常に小さいと感じている。日本のエリート層をなすサラリーマンの意識が変わらなければ、日本の政治改革も行政改革もできない。日本の政治にドラマを生み出す原動力は丸の内、大手町にあると思ってる。
藪野:
かつて、55年体制といったが、55年に自由党と民主党が一緒になってから、それが固まるまでには、選挙で3回、7年かかった。1度政権が崩れて次に固まるまでに7年くらいかかるというのが私共の考えだ。そういう意味で、この混乱は21世紀の初頭まで続くだろう。


企業人政治フォーラムのホームページへ