企業人政治フォーラム速報 No.32

1998年 3月 9日発行

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政治に企業人の声を!/加納時男
〜経済界から政界への挑戦〜

今年7月予定の参議院議員選挙に前経団連地球環境部会長の加納時男(前東京電力副社長)さんが自民党の全国比例区から出馬することになった。エネルギー・環境などの分野を中心に活躍されてきた加納さんの功績は大きい。今回は、経済界を代表しての出馬表明ということもできる。そこで、去る2月12日、当フォーラムでは、加納さんの講演会を開催し、加納さんが目指す政治ビジョンについて聞いた。

■Someone should ではいけないと思い、出馬を決意馬を決意
政治と経済がお互いに要求と非難の応酬をしているだけだとしたら不幸なことだ。私は、以前から、経済人が政治の場に距離をおいて発言するだけでなく、積極的に参加していくことが必要だと考えていた。
今回、ご指導いただいた諸先輩方からの薦めもあり、出馬を決意した。現在のこの日本の混迷の中で、政治への信頼を取り戻すため、また、経済界の声を政治に反映させるために、someone should ではなく、自ら全力で取り組んでみたい。

■政治に夢を
今、日本は政治に対しても、経済に対しても、社会そのものに対しても、夢がしぼみ、信頼感を喪失してしまっている。ここで、何としても、日本人が誇りを持った、夢を持った民族であることを再確認し、その基盤を構築し、それを世界に対して発信していかなければならない。今の日本には、理想を追い求める心、それを叶えようとする夢が必要だ。そうした夢を描き、実現していくのが政治だ。

■政治には、短期の情勢変化に応じた果敢な決断、実行と長期のビジョンが必要
今の金融不安、景気の停滞などに対する政治の対応を見てもわかるように、政治は目先のことを追っているように見えるが、短期的な情勢変化に応じた果敢な決断と実行ができていない。ましてや、中長期的なビジョンや理念を提示することも不十分だ。
中長期的な展望を常に頭におきながら、短期的な情勢変化に応じ、果敢に決断し、実行するのが企業人の真骨頂だ。こうした経営精神を政治に取り入れていきたい。

■環境問題の解決には中長期の対策が重要
例えば、昨年のCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)における政治の対応も中長期の展望が欠けていた。COP3は、これに約2年間携わった者として、確かな手応えを感じたとともに、残念な思いもした。
手応えがあったのは、経団連において、世界で初めての自主的行動計画を経済界が作り上げ、それを国連の場で発信できたことだ。逆に、残念だったのは、短期的な単なる数字合わせでなく、中長期を見据えた政策が大事だと訴え続けてきたが、なかなか理解してもらえなかったことだ。例えば、企業の設備更新にあわせた最新の省エネ技術の導入や省エネ住宅の建設などにインセンティブを与える中長期的な政策が重要だ。私は、その時、政治家をけしからんというだけでは駄目で、こうしたことを理解できる人材を政治の世界に送り込むこと、言い換えれば企業人自らが政治に参加していくことが必要だと痛感した。

■国益と経済界の利益を一致させてきた経団連の精神を政治に反映させたい
官僚は自分の省益を増やすことばかりを考えているが、この省益を排し、国益を推進するのが政治だ。その意味でも、国益と経済界の利益を一致させてきた経団連の精神を政治にも反映していきたい。
政治を変える、金融システムを安定化させ、景気を振興させる、法人税をまっさきに下げる、異常な累進構造の所得税もフラット化させる、こうしたことによって、みんなが元気になり、個人消費は増え、企業活動は活発化する。そうすれば、結果として、法人税率は下がっても、法人税収は増える。これは、レーガン税制でやったことであり、政治の世界に入ったあかつきには是非これを実現したい。

■孫の世代に残そう、美しい地球・元気で公平な社会な社会
私は、「孫の世代に美しい地球を」、「元気の出る社会」、「公平な社会」の実現を目標に全力を尽くしたい。
特に、バブル崩壊後の日本には、自信喪失の悲観論が台頭しているが、今必要なのは「逆転の発想」だ。かつて、日本は、石油危機を体験したからこそ、世界最高の省エネルギー技術を開発した。また、つらい公害問題があったからこそ、世界最高の公害防止技術を持つにいたった。

■経済界の仲間の分身としてがんばりたい
私は、自分のために出馬を決意したのではない。経済界で一緒にやってきたみんなの分身として、働きたいと思っている。
今回、私は選挙も未経験で、出馬表明から半年しかない短期間の選挙と大変な逆境にあるが、未経験だからこそ、みんなが心配もし、一緒にやってくれる。短期間だからこそ、集中してキャンペーンもできる。「逆転の発想」でがんばって、なんとか大きくジャンプして、金メダルを取りたいと思っている。

加納時男さんを激励する!!

川勝堅二経団連企業人政治フォーラム会長(三和銀行相談役)
●加納さんの立候補決意を心から歓迎する
経済と政治は車の両輪の関係だ。そういう意味で、経済界の代表としての加納さんの決意表明を心から両手をあげて歓迎したい。

齋藤裕経団連評議員会議長(新日本製鐵会長)
●加納さんを経済界をあげて応援したい
かねてより、経済界、企業人が政治に参画してもらいたいと強く思っていた。特に、加納さんのように直接政治に参画してもらうことが最も必要なことだ。今回の加納さんを突破口にどんどん企業人が政界に出てほしい。その意味で、加納さんを経済界をあげて応援したい。

内田公三経団連事務総長
●加納さんは21世紀の日本を託すにふさわしい人しい人
加納さんは、「国際性」、「政策通」、「人間としての魅力」、さらに「謙虚さ」をあわせ持っており、まさに21世紀の日本を託すにふさわしい政治家になられると確信している。


小杉隆自民党政調会長代理
/経済対策と教育改革について−政経懇談会

去る2月25日の政経懇談会で、小杉隆自民党政務調査会会長代理(前文部大臣)と、経済対策や教育改革などについて懇談した。

[小杉議員]
■経済対策の経緯
昨年9月に政調会長代理をやることになったが、当時はまだ、政府は景気に関して緩やかな回復基調にあるという見解であった。しかし、選挙区や経済界の方々の話しを聞くと、実態はそれほど甘いものではないということで、私も同感であった。そこで、政府に任せていては駄目だということで、自民党内に臨時経済対策協議会を設置し、全党あげて取組む体制を作った。10月に第1次、11月に第2次、12月に第3次と相次いで経済対策を発表し、また今回(2月20日)、第4次の対策を発表した。
今もそうだが、当時、私たちが困ったのは、財政構造改革路線というものがあり、従来型の財政を出動し、公共投資や減税をやるということができなかったことだ。そういう制約の中でできる限りのことをやろうということで、規制緩和や土地流動化対策、中小企業対策、税制改革等を打ち出した。特に、新基軸として、優良田園住宅構想やPFI(Private Finance Initiative)という民間資金を活用した公共事業の推進なども盛り込んだ。

■第4次経済対策
第4次経済対策は、7つの柱からなっている。
1つめは、金融システム安定化の一策として、土地再評価法を、議員立法で目指す。それから、先般成立した金融安定化2法に基づく資本注入を早期に実施し、銀行の自己資本比率の向上に努める。
2つめは、証券市場の活性化対策で、これも議員立法で資本準備金を財源とする自社株取得を可能にするための商法改正を行う。既に与党3党で準備に入っている。それから、ベンチャー企業育成のための環境整備や個人年金型投資信託制度の創設、いわゆる米国の401Kプラン(確定拠出型企業年金)の検討、個人株主優遇策の検討、個人証券投資勘定制度の創設などを行う。
3つめは、優良田園住宅の建設促進で、現在、世帯数を上回る住宅戸数が既に確保されているが、これからは数よりも質の高い住宅、ゆとりある住宅をもっと供給しようということだ。これは、かなり景気にもプラスに働く。
4つめがPFI、民間資金を活用した社会資本整備で、これは英国で財政難に陥った90年代に取り入れられた手法だ。今、具体的な検討を進めており、党内にPFI推進調査会を設けて、積極的に進めていきたいと考えている。
5つめが土地流動化策だ。景気回復のためには、塩漬けになっている土地をどう動かすかが大事だ。低廉譲渡の問題や土地の有効利用などの検討や民間都市開発推進機構の一層の活用、さらに、今国会に提案が決まっている不動産の証券化などを行う。
6つめは、アジアの通貨・金融対策で、輸銀を活用した3,000億円の融資、貿易保険の弾力的運用、そして、共通通貨システム創設の検討を提言している。
最後の7つめは規制緩和だ。これまでだいぶやってきたが、まだ進んでいないものを重点的に抜き出した。

■第5次経済対策も視野に
このような対策を発表し、実行してきたことによって、ようやく株価や円も一時よりは改善されてきた。
しかし、先頃、G7に同行したが、日本は内需拡大を図れという要請が欧米諸国から強くあった。日本としては、98年度の予算を早く成立させることが重要だと説明してきたが、これからも日本の財政出動を含む景気対策、内需拡大策がいろいろ求められるだろう。経済対策が果たして第4次まででいいのかという声が党内にもある。現在、山崎政調会長とも相談して、第5次の経済対策を念頭において、準備を進めていくことにしている。

■教育改革
第2次橋本政権が発足し、私が文部大臣になったときに、「いわゆる5大改革の前提に教育改革があるのではないか。人が変わらなければ改革も進まない」と橋本総理に進言し、教育改革を5大改革に加え、6大改革にしてもらった。
それから、教育改革プログラムを急遽作ったが、これは私なりにまとめると、2つの視点と3つの手法ということになる。2つの視点とは、「豊かな人間性の育成」、「新しい時代に対応できる人材養成」ということであり、それを実現するための手法として、「オープン」、「フレキシビリティー」、「実行第一」ということをあげている。
「豊かな人間性の育成」とは、戦後、日本は、偏差値、入試に重点を置いた教育に偏りすぎたことを反省し、もう1度、日本人としての誇りとか、弱いものに対する思いやりの心、生きとし生けるものを大切にする心、社会的マナーや正義感など、勉強以前に人間として必要な資質を身につけさせようということだ。
「新しい時代に対応できる人材養成」というときの「新しい時代」とは、国際化、高齢化、情報化、そして大競争時代ということで、この4つの潮流を乗り越えていくための教育を目指そうということだ。具体的には、小学校からの英語教育の実施や教員免許取得における介護体験の義務づけ、学校へのパソコンの設置、さらには、大学入学年齢の制限緩和といったことを行っていく。
「オープン」、「フレキシビリティー」、「実行第一」という3つの手法は、具体的には、文部大臣の諮問機関すべての情報公開や学校現場と社会の相互交流の促進、人格形成の面からの公立における中高一貫教育の実施などを行っていく。また、特に「百の提言よりも一つの実行」が大事であるということから、過去の提言の中の積み残し分なども含めて実行第一で進めていく。
このような発想で教育改革を進めているが、最近の少年のナイフ事件などに代表されるように、子供にとって憂慮すべき事態は年々増大している。今、学校教育のみならず、家庭教育、社会教育の必要性を強く感じている。

[質疑応答]
経団連側発言:
景気について、第1次から第4次まで対策を出しているが、一辺にどんといかないものか。

小杉議員:
私も思い切って出したいが、財政出動を前提としないという制約があったために、こういう形にならざるを得なかった。ただ、中長期的にみると、従来型の手法を繰り返していれば、将来的な国民負担率は70%にもなってしまう。こういう状況も念頭におきながらやらなければならない。しかし、今までの対策で十分かということも疑問があり、財政出動もやむを得ないという認識に達している。


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