企業人政治フォーラム速報 No.36

1998年 5月26日発行

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経済活性化と議員立法
/保岡興治衆議院議員、樋口廣太郎経団連副会長
(4月28日第2回関西会合)

去る4月28日、大阪にて、保岡興治衆議院議員(自民党政務調査会総括副会長)と樋口経団連副会長を来賓に招き、「経済活性化と議員立法」をテーマに、講演会を開催した。

  1. 樋口副会長講演
    「経済界が当面する重要課題について」
  2. 最近、行政のあり方を検討する審議会が大変増えた。かつては、行政があらかじめ考えた線で検討がなされていたが、今はだいぶそれが変わってきた。今後は、行政が枠組みを作るのではなく、政治が主導でいろいろなことを考え、議員立法もどんどんやってもらい、われわれも審議会でいろいろ答申していく、というやり方にギアチェンジしていくのだと思う。
    先日、ASEM(アジア欧州首脳会議)に行ってきたが、世の中は本当に変わってきた。しかもその変化は相当なスピードだということを痛感した。また、ASEMでもアジアの経済危機に関して、日本の貢献が少ないという批判があったが、日本は最大の支援をすると言っているのであり、その辺をマスコミも含め、もっと海外に発信していかなければならない。
    日本の経済指標をみると、個人所得にしろ、外貨準備にしろ、対外債務にしろ、悪いところはない。ここはやはり企業がしっかりしなければならない。
    企業の株主代表訴訟などの問題で、商法等の基本法を直すのには、かつては10年はかかると思っていたが、議員立法で短期間に対応してもらえるようになった。これは大変画期的であり、そのトップランナーが保岡先生だ。

  3. 保岡興治衆議院議員講演
    「経済活性化と議員立法の役割について」
  4. ●金融安定化のスキームは政治の責任で決断
    昨年の秋以降、大型の金融破綻、アジアの金融危機などが重なり、一気に景気が真っ暗になった。そこで、自民党では、金融安定化対策本部(宮澤喜一本部長)を発足させ、私はその事務局長をやることになった。そして、ご存知のように、13兆円の金融機関の資本充実のための仕組みと17兆円の破綻金融機関の預金者保護のための仕組み、合計30兆円の金融安定化のためのスキームを作りあげた。
    実は、このスキームを作る過程で、大蔵省は、健全な銀行にも資本を注入して、日本発の金融恐慌だけは絶対に起こさないようにすべきだという意見と、銀行の支援は預金者保護だけにすべきで、銀行への資本注入は反対だという意見に分かれ、議論がまとまらなかった。
    そうしたこともあり、ここで戦略、戦術を打ち立てるのはやはり政治しかないとうことで、政治の責任で30兆円の金融安定化のスキームを決断した。結局、2兆円を資本注入することになり、これをスーパー護送船団と批判する人もいるが、われわれはビッグバンを控えての、危機管理法制あるいは有事法制という位置付けでやる以外ないとの決断をした。

    ●制度減税の将来展望は早くはっきりさせるべき
    財政構造改革法の改正が問題になっているが、こういう異常な経済危機下においては、事柄の性質上、その法の条文を超えた判断が必要であった(改正の必要があれば、後からすればいい)。この国民全体が求める経済危機の治療費は袋に包んでとっておいて、後に税の直間比率の見直しの時に、特別に処理できるようにしておけばよかったと思う。
    そういった意味で、恒久減税、例えば法人税も40%に引き下げるのであれば、思い切って39.9%にするような工夫をし、また所得税の累進税率の見直しのように、働く人、日本を建て直す人たちに元気を与えるようなことは、できるだけ前倒しでやるべきだ。
    先(4月24日)に発表した総合経済対策は、非常に思い切ったものだと思うが、経団連の構造改革に関する提言(4月21日、「豊かな国民生活と経済活性化のための構造改革の提言」)にもあるように、制度減税についてはできるだけ早く将来の展望をはっきりさせるべきだ。

    ●不良債権処理トータルプラン
    今回、経済対策として、大きな位置付けをしてもらったのは、「不良債権処理のトータルプラン」である。これは、金融安定化処理のスキームの次なる課題として取組むことになり、3月末に土地債権流動化特別調査会を設け、3週間の間に延べ28回の会合を持って、トータルプランを作りあげた。
    これは、金融機関から不良債権を切り離すことが絶対に必要だという認識のもと、共同債権買取機構の拡充やデューデリジェンスという適正評価手続による売買環境の整備、SPC(特定目的会社)等を活用した担保不動産の証券化、輻輳した債権債務関係を整序する仕組みの整備などを打ち出している。そして、権利関係の整理が終わったものは、民間都市開発推進機構にて、具体的な都市作り、町作りのプロジェクトを推進することにしている。
    この不良債権処理トータルプランも、政治主導でまとめあげた。これは、各省相互や外部との調整が必要であり、今の縦割り行政ではなかなか進まない。それを今回は議員が各省や外部との調整をどんどん進め、その結果得られた方針の具体化まで議員がつめて、成案を得た。

    ●議員立法が時代を動かすポイントになった
    私は、一昨年の住専問題の処理の時に、民事執行法の一部改正を議員立法で、法制審議会抜きでやった。また、昨年は、経済界からも要望があったストックオプション制度の導入を議員立法でやった。これについては、225人の商法学者が大反対の声明を出したが、その後、主だった人たちと懇談し、問題があったらすぐに直すという話し合いをするとともに、今後は、企業法制については、基本法であっても議員立法で直すことが有り得るということで、連携してやっていこうという提案をし、良い関係が築けたと思う。また、その後、法制審議会もどんどんやっていこうという姿勢になった。
    さらに、今年は、資本準備金を取り崩して、自社株消却ができるよう商法改正を議員立法で短期間で行った。これは経団連の幹部と宮澤元総理が今年の初めに会って懇談したときに、アイデアをもらって、われわれに指示があってやったものだ。
    経団連をはじめとする皆様とがんばった議員立法が大きな時代を動かすポイントになったのではないかと思う。

    ●株主代表訴訟、コーポレートガバナンス、定期借家制度の問題も議員立法を準備
    現在、課題として残っている株主代表訴訟とコーポレートガバナンスの問題も、議員立法を準備しており、既に与党協議ができる段階にきている。
    コーポレートガバナンスに関する監査役機能の強化については、社外監査役の数を半数以上とするか、過半数以上とするかが争点の1つになっているが、私は個人的には、半数以上でいいと思う。また、監査役に対しては、経営判断の適正判断までは権限を広げるべきではなく、法制遵守の適正監査にとどめておいた方がいい。
    株主代表訴訟の見直しは、原告適格を行為時株主に限るとか、会社の被告取締役への訴訟参加を認めるとか、株主からの提訴請求後の熟慮期間を30日から60日に延長するとか、取締役の責任の減免を定款や株主総会の決議でできるようにするといったような具体案をまとめようとしている。
    また、私は、定期借家の問題にも取組んでいる。これは、戦時統制立法であり、今は、借家は経済評価ができないし、投資の対象にならない。持ち家等右肩上がりで資産価値が上がっていく時の意識を、土地や建物の利用価値はどうかということを基準に考えていくように、今後は意識を転換していかなくてはならない。約束の時が来たら必ず返してもらえる定期借家は、良質でファミリー向けの借家供給を可能にする。
    これらは、今国会には議員立法で法案を提出し、継続審議の上、臨時国会では成立を図りたい。

    ●時代の変化を受けとめ、議員の政治的判断を示すべき
    今は議員立法を謙虚にやる時ではない。積極的かつ真剣に、急速に変化する時代を受けとめる議員の政治的判断を示すときだ。
    商法改正にしても、定期借家にしても、経済の現場から生まれてくる知恵・工夫が、実行可能な政策として政治の場で作られ、国づくりに貢献していくことになる。今まで、日本は政治も含めて、官僚に頼っていた。それは目標があり、みんなが結束して取り組んでいくには効率がよかったが、今は欧米モデルという目標がなくなってしまった。
    縦割りでその分野分野で責任を負っている官僚に、日本の未来の目標や理念を考えろといっても無理だ。国づくりの理想をどうたてるか、目標をどうたてるか、その実現のために政策の柱をどうたてて、総合的に戦略性を持たせるか、こういうことは政治がやらなければならない。


日本版PFIについて
/木村義雄自民党政務調査会副会長
(5月7日政経懇談会)

[木村議員]

●PFI推進の経緯
民間事業者主導による社会資本整備、いわゆるPFI(Private Finance Initiative)については、景気対策の一環として、97年11月の自民党緊急国民経済対策に山崎政調会長の発議で初めて盛り込まれた。そもそもの発端は、財政構造改革法により公共事業が7%カットされることが決まり、それでは公共事業への依存度が高い地方への影響が大きすぎるということで、この7%のギャップをを何とか民間の資金とノウハウと知恵を活用して埋められないかということからスタートしたものだ。
当時、具体的には、中部国際空港建設の話があり、地元は非常に熱心に進めたがっていたが、国や自治体は財源問題があり、なかなか踏み出せないでいた。これに何とか突破口を開くために活用したのがPFIの手法だ。
中部国際空港の場合は、特別立法を作って対処したが、せっかくであれば1つの法案をつくればPFIの導入がどんどんできるようなものをつくろうということで、PFI推進法案の制定に向けて、今年2月にPFI推進調査会を党内につくり、私がその事務局長を仰せつかった。

●PFIの考え方と期待される効果
PFIは、従来、政府や自治体等が対応してきた公共施設等の整備を、企画立案の段階から、官民の役割分担の下に、民間の資金や能力・ノウハウを活用することによって、より効率的に行おうというものである。
その期待される効果としては、1つ目には、財政負担の軽減で、民間事業者が事業費の一部または全部を負担するため、政府や自治体の財政負担が軽減される。これは小さな政府実現の1つの道筋につながると思う。2つ目には、効率的な社会資本整備の実現で、公共事業において、官と民を競争させることにより、公共事業の整備コストの縮減を図る。3つ目は、特に重要なことだと思うが、民間の創意工夫の活用ということであり、これは、民間にとっては事業機会の拡大であり、新たなマーケットの誕生だ。

●PFIの対象分野
PFIの対象分野は、1.公共施設(道路、鉄道、港湾、空港等)、2.公用施設(庁舎、宿舎等)、3.公益的施設(公営住宅、廃棄物処理施設、駐車場、地下街等)、4.その他(情報通信施設、リサイクル施設、観光施設等)、5.1〜4に準ずる施設で政令で定めるもの、としてあり、非常に広げてある。
そもそもこのPFIと以前からある第3セクターとは何が違うのかということが問題になるが、一番違うのはこの対象分野だ。第3セクターは、もともと民間の分野、公共事業の周辺に官が乗り出していって、官民共同で資金を出し合ってやろうということだったが、PFIは公共施設、公共事業そのものに民間が出ていくということである。また、観光施設も対象としているが、これは何とか国が手助けをしようと思っても、今までは手だてがなかった分野を、何とかPFIを活用して梃入れしようということだ。これは、公共事業に民が出ていくようにするということと、矛盾しているようだが、ある意味で、民の弱い部分に官が手助けできるような仕組みを取り入れようということだ。

●PFIの公的支援
PFI推進法案に盛り込んだ公的支援は、財政・金融面として、1.国の債務負担制限の、5年から30年への延長、2.国有財産の無償使用、3.政府出資、4.政府・地方公共団体による債務保証、5.開銀等による無利子貸付け、などである。
1.の国の債務負担行為は、従来、5年までという制限があったのを民間からの強い要望もあり、一気に30年までに延長した。具体的に言うと、例えば、ある役所が庁舎を民間に建てさせて、それをリースする場合、今までは5年しか借りることができなかったのを30年まで借りられるようにするということだ。2.の国有財産の無償使用は主に土地で、3.の政府出資については、ここまでやるかどうか議論があるが、政府出資ができる道を開く一方で、政府出資をした場合は、例えば、職員はみなし公務員で賄賂等を受け取れば処罰されたり、また、役員の選任も認可を必要とするなど、非常に厳しい規定を盛り込んでいる。ただし、これでは厳しすぎるという意見もあり、3分の1条項を入れている。すなわち、政府の出資が3分の1を超える場合には、みなし公務員の規定や役員の選任の認可制の規定を適用することにした。
それから、このPFI法案の特色として、おもしろい規定を入れている。それは、担保不動産に供された土地をPFIの利用に供した場合は、10年間の繰延償却ができるようにしたことだ。例えば、バブルの時に100億円で買った土地が現在20億円の価値しかないような場合、それを今売ると80億円の赤字となる。この赤字は企業会計上、その年で処理しなければならない。しかし、そうすると企業によっては、債務超過に陥ることもあり、売りたくても売れないということがある。それをPFIに供した場合は、80億円の赤字を10年間に分けて、8億円ずつ処理することを認めるというものだ。要するに、これは不良債権対策であり、この条文をいれることに大蔵省や法務省は反対したが、PFIの1つのインセンティブにということで、法案に盛り込んだ。
その他、事業環境面の公的支援として、土地収用法の適用を可能にする道筋をつけるとともに、官民協力体制の充実ということも入れている。

●PFI事業の流れ
PFI事業の流れとしては、まず、総理大臣が基本方針の決定を行う。また、民間資金等活用事業推進委員会(PFI推進委員会)を内閣におき、この基本方針を策定するときには、このPFI推進委員会で議決をする。
次に、基本方針に基づき、建設大臣並びに都道府県知事が実施方針を策定し、それに基づき、事業の選定、事業者の公募、選定が行なわれる。ここで大きな問題は、民間に効率的に安く公共事業をやってもらうためには、従来、官がどれだけのコストで公共事業を行ってきたかをデイスクロージャーしなけらばならないということだ。ここは官の一番嫌がるところだが、公表義務を法案に盛り込んだし、PFI推進委員会も監督・監視することになっている。このデイスクロージャーにより、今後、公共事業も相当様変わりしていくのではないかと言われている。
それから、事業の選定に当たっては、民間からもその創意工夫により、事業を提案できる仕組みを取り入れている。

●第3セクターとの違い
既に、いくつか問題点として指摘されている点について説明する。まずはやはり、第3セクターとの違いは何かということだ。1つは、対象が第3セクターは実際の公共事業ではなく、公共事業の周辺であったが、PFIは公共事業そのものであるということだ。さらに、もう1つ重要なことは、第3セクターにおいては、官民の責任の分担が明確でなかったが、PFIでは事前に契約や協定でリスクの分担をすることにしている。基本的には、地震等天災によるものは官が負担し、設計や施工ミスなど、本来の事業に関わるものは民が分担する。
また、プロジェクトの規模が大きくなると、入札コストが非常にかかってきて、中小企業が参入できなくなるのではないかという懸念もあるが、ある程度入札会社を絞った段階では、入札の費用負担をする等の仕組みを取り入れていきたいと思う。

●今後の予定
現在、このPFI推進法案は、与党協議を行っており、今月中には国会に法案を提出する予定になっている。ただ、通常国会の今後の法案処理の日程は大変厳しく、これから提出する法案は秋の臨時国会での処理になる可能性が高い。この法案は非常に画期的な内容で、全く新しい手法をいろいろと取り入れており、何とか早い成立を期したい。これができれば、民間にとっても新たな事業展開ができるのではないかと期待している。

[質疑応答]

経団連側発言:
一番の問題は、誰が事業の責任を負うのかという点だ。公共事業は、通常、民間が市場原理でできないようなものを官がやっていたわけで、この領域に民が入っていくとなると、土地の無償利用や低利融資などの官の何らかの支援があって初めてできることになる。その場合には、事業の責任の主体はやはり民ということになるのか。

木村議員:
PFIの一種でBOT(Build-Operate-Transfer)というものがあり、これは建設して、運営は民間がやるが、最終的には官が買い上げる(官が責任を負う)という手法だ。
ただ、PFIは基本的に民に責任を負ってもらう仕組みである。例えば、道路を作ったが想定された交通量がなかったというような事業の採算想定に伴うリスクも民に負ってもらうことになる。

経団連側発言:
民がやるとなるとどうしても営利性を求めなければならないが、インフラ関連に税金をかけるとなると20年、30年で償却するのは容易ではない。この辺の税制はどうなるのか。

木村議員:
この法案が成立した段階で、税制上の措置を講ずるということにしてあるが、内容としては、今の公共事業と最大限同じ措置が受けられることにしている。

経団連側発言:
英国の場合、採算調査というか、バリュー・フォー・マネーということに力を入れているが、日本の場合はどう考えているのか。また、PFIは、新しいものだけではなく、既にあるものを更新する場合などに適用した方が採算やコストの見通しをたてやすいと思うが、そういう考えはあるか。

木村議員:
英国の場合、原則としてすべてをPFIでできるか検討し、どうしてもできないものは純粋な公共事業だとしている。しかし、日本の場合は、公共事業の予算の制限がある中で、その隙間を埋めていこうということなので、まだバリュー・フォー・マネーといった厳しいところまではいっていない。しかし、今後は、税から金融という流れの中で、採算やコストという意識は今までの官にはなかった発想なので、金融の審査能力などに大きく期待している。
また、設備の更新や老朽化対応にも、もちろんPFIを適用していきたい。


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