企業人政治フォーラム速報 No.41

1998年 7月22日発行

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金融再生トータルプランについて
/臼井日出男自民党金融再生トータルプラン推進特別調査会会長代理
(7月8日政経懇談会)

[臼井議員]

■景気低迷の理由
政府が財政出動し、さらに16兆円の経済対策を策定しても、景気に一向に明るさが出てこない原因は、1つには、民間の最終需要がなかなか盛り上がらないことと、もう1つには、銀行が抱える不良債権が経済の回復を妨げているからだ。そのため、低迷している民間需要をしっかりと回復させることが一番大事で、私は、弱っている患部に直接注射する(減税する)ことが重要だという考えだが、自民党の中では、こういった考え方は主流ではなかった。そこで、銀行に塩漬けになっている土地・債権の流動化を図り、貸し渋りを改善し、ひいては景気の回復に役立てようということになった。
先に土地・債権流動化トータルプランを発表し、今般、金融再生トータルプランを発表したが、この2つをあわせて、初めて、広い意味で金融機関も含めた再生の仕組みが出来上がったと言える。

■土地・債権流動化トータルプラン
土地・債権流動化のために、債権債務関係の迅速・円滑な処理から、虫食い地の集約化と再開発の促進、土地の有効需要創造の公的なバックアップといった入口から出口までの仕組みを作った。
債権債務関係の迅速・円滑な処理に関しては、臨時不動産関係権利調整委員会の創設や共同債権買取機構の拡充、サービサー制度の創設、競売手続の迅速化・円滑化などをやっていくことにした。さらに、これらを進める前提として、日本の不動産評価のやり方が米国などに比べて遅れていることから、適正評価基準(デューデリジェンス)の確立を目指すことにした。
土地の有効需要の創出としては、住宅都市整備公団の積極的活用や民間都市開発推進機構のプロモート機能の活用などを打ち出している。

■金融再生トータルプラン−ブリッジバンク−
不良債権の実質処理のためには、担保不動産の流動化とともに、金融機関の再編・合理化が放置できない状況にきている。そのような環境を見ながら、金融再生トータルプランを作った。
ビッグバンの進行に伴い、グッドバンクとバッドバンクの峻別が進んでいくが、日本の場合、米国や英国と違い、バッドバンクを破産させるのではなく、グットバンクと合併させるという日本流のやり方で進めていく必要があろう。北海道拓殖銀行の場合を見れば明らかなように、メインバンクが破綻すると、大変不幸な状況で潰れざるを得ない企業が非常に多い。私たちは、このような善意かつ健全な借り手を潰すようなことは絶対にしてはいけないと考えている。
そこで、グッドバンクにバッドバンクを合併してもらわなければならないが、グッドバンクに合併してもらうためには、バッドバンクの不良債権を別に処理し、レベルアップさせなくてはならない。そこの仕組みが今回作ったブリッジバンクである。
金融機関が破綻した場合、直ちに、その金融機関は金融監督庁長官が選任する金融管理人の管理下におかれ、そこで、善意かつ健全な借り手に対する融資を続けるとともに、第3(破綻懸念)、第4分類(破綻)の不良債権を切り離し、整理回収銀行に移して、別途、整理回収を行なっていく。そして、民間金融機関との合併ができなければ、破綻金融機関の必要な金融機能を継承する公的ブリッジバンクを設立し、そこで、引き続き、善意かつ健全な借り手が困らないように融資をしていく。公的ブリッジバンクは、現在ある預金保険機構が設立する平成金融再生機構(仮称)の子会社として設立され、ここで、第2分類(要注意)も含めた不良債権の整理をしながら、破綻銀行のレベルを上げていき、民間金融機関との合併先を探すよう努力していく。このような手順で銀行の再編を進めていくのが、ブリッジバンクの仕組みである。
今回の日本版ブリッジバンクは、米国のいわゆるブリッジバンクとは内容が極めて異質なものになっている。米国のブリッジバンクは、システム的に権限が強いが、日本は株主総会の権限を尊重し、そう簡単にペイオフできないということがあるので、そういう中で、米国のブリッジバンクの内容をいかに取り入れていくかということで、このような複雑な形になった。この不良債権処理の問題は、臨時国会で、積極的に成立を図っていく。
本日(7月8日)、調整インフレの話が新聞に出ていたが、何はともあれ、デフレスパイラルは絶対に止めなければならない。私は、日本人は土地・不動産が少し上がりぎみでないと元気が出ないのではないかと思っている。もうそろそろ、政策的に土地・不動産価格の下落を食い止めていくことが必要だ。

[質疑応答]

経団連側意見:
今回のブリッジバンクをはじめとする処理は、絶対に必要なことだが、悪質な債務者の債務免除が行なわれて、平成の徳政令だと国民から批判されるようなことは避けなければならない。

臼井議員:
悪質な借り手は排除しなければならないのは当然だが、「善意かつ健全な借り手」の定義は難しい。例えば、元本の返済を猶予すれば、利息はきちんと返していけるような企業など、多少広めに救済していく配慮は必要だと考えている。

経団連側意見:
ブリッジバンクは1つの考え方だと思うが、米国でもこれを大銀行には適用していない。いわゆる上位銀行の場合には、合併等によって再編を進めていくのが基本とは思うが、うまく進むかどうか。
また、不良債権の第2分類は各銀行により判断が異なる。ここをもう少し細かく、例えば5段階くらいに分解する必要があるのではないか。

臼井議員:
確かに、日本の場合、破綻前に金融機関に自主的に申し出てもらうのは難しい。今後、日銀の考査や金融監督庁の検査が実施されるが、場合によっては、公的立場から、合併等の再編を働きかけていくことも必要かもしれない。
第2分類についても、確かにもう少し、良いものと悪いものを分ける必要がある。

経団連側意見:
米国では、何千もの銀行が潰れたと言われているが、これはいずれも数百億円から数千億円レベルの銀行で、日本の北海道拓殖銀行のような大銀行が潰れた例は、昭和恐慌のときを除いて、世界中にもない。また、英国では、ビッグバンにより、英国の銀行がほとんど外国の銀行に取って代わられたと言われているが、英国は、マーチャントバンクと普通の銀行に分かれており、マーチャントバンクは国際業務が主で、英国内での仕事はほとんどしていない。外国銀行に取って代わられたのは、このマーチャントバンクで、英国内で仕事をしている普通銀行は1行も潰れていない。このへんの違いを承知しておいてもらいたい。
土地の値段については、東京、大阪の中心地ではピークの4分の1になり、まだ下がっている。これも世界的に例を見ないことで、金融機関が困っている大原因だ。次に危ない銀行はどこだというように、名前が出るようになると日本の銀行に対する国際的な信用がなくなり、ロンドンやニューヨークで、日本の銀行はお金を調達できなくなる。そのため、このトータルプランは、是非、迅速果敢にやっていただきたい。

臼井議員:
土地の下落を止める必要があるのもその通りだ。最近、米国の会社がかなり日本の土地をまとめて銀行から買い始めている。彼らは、非常に厳しい土地の評価をするが、米国企業ができて、日本の企業ができないことはないと思う。土地も、これ以上大きく下がることはないのではないか。土地が下げ止まったということを示すような動きを日本国内の企業がしてもいい時期に来ている。公的資金を出すことには賛否いろいろあるが、出すと宣言しているのだから、これらも有効に使って、土地の下げ止まりを図っていきたい。


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