企業人政治フォーラム速報 No.5

1996年11月1日発行

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選挙改革より政治家の政策立案関与が可能な仕組みづくりが重要

─G.カーティス教授語る

24日、米国コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は、当フォーラムの政治・文化セミナーで『政治改革の課題』と題して講演した。教授は日米欧委員会の委員も務め、日本政治に関する論文で博士号を取得、東大や慶応大で教鞭をとった米国内有数の日本通。席上、今回の総選挙結果の分析のみならず、長期的かつ歴史・文化を踏まえたグローバルな視野から、日本の政治改革の課題について語った。

■日本の政治風土に合った選挙制度改革を■
小選挙区比例代表並立制という初めての選挙制度のもとで行われた今回の総選挙は、選挙制度改革に反対した政党(自民、共産)が勝利し、改革を推進した政党(新進など)が敗北するという皮肉な結果に終わった。
この点について教授は、「日本の選挙制度改革論者は、イギリスのような制度を導入すれば、イギリスのような政治ができると思い込んでいる。だが、選挙制度はメカニカルな物として捉えるべきではない。政治風土、政治文化が違えば、現われる効果は違ってくる。選挙制度改革=政治改革ではない」と述べた。
そのうえで、30年前の大分県での体験もふまえ、「日本の民主主義の強さは、政治家が直接に選挙民と会い、選挙民の支持を得なければ代議士になれない、という『草の根民主主義』にある。政党や政策で選ぶのではなく、政治家個人と選挙民とのつながりという日本の民主主義のよい点を活かしながら、選挙制度改革を考えていくべきである」との見解を示し、性急な選挙制度改革論には疑問を呈した。

■行政改革の前に政治家の改革が必要■
今、行政改革がブームになり、官僚や官庁の数を減らすことがしばしば話題になる。しかし、問題は、“大臣のたらい回し”の状況のなかで政治家が官僚をコントロールをできる体制になっていないことにあり、まず政治の側の改革が必要と指摘。「日本の政治家一人ひとりの権限や自主性は弱く、せっかく選挙民が政治家を選んでも、国会に行くと余程の事がないかぎり党の決定に従わざるを得ない」。「アメリカでは政治家は大勢のスタッフを雇って勉強し、政策決定に参加している。日本でも政治家が自主性をもって政策づくりに係わっていく体制を作ることが、今後の議会制民主主義の発展の上で重要である」と述べた。
教授は「副大臣制度の導入」も提案する。大臣一人ではなく、副大臣として複数の政治家が各省庁の中に入っていく。それにより政治家の勉強にもなり、政権政党と官僚のコミュニケーションも図られる。その結果、政治家同士が初めて国会の中で政策についてのディベートができるようになる、とした。

■選挙政治の市場化と政治資金問題■
教授は、近代政党政治が誕生した100年前と、現在の政党のあり方の違いから、企業、労働組合と政治資金、そして公営資金と政治資金の問題は新しい段階に入ったとの考えを述べた。
かつての近代政党、つまり政党を支持する者が党員となり、党が大衆を代表して政策を提案した時代は、党員から資金を集めればよかった。しかし、現在は中産階級社会であり、明確な支持基盤を持つ大衆政党はなくなっている。かつて田中角栄氏が「自民党は総合デパート」といったことはこの状況をよく表している。こうした状況を、教授は「選挙政治の市場化」と表現する。政党はデパートのように“政策という商品”を“有権者という消費者”に売る。消費者は魅力ある商品がなければ買わない。そのため“市場調査”も必要になる。その資金をどうするか。現在の政党と、大衆の関係を考えるならば、個人から集めることは難しく、また企業からの献金には透明性が要求されることを考えれば、公営資金を中心にすべきであろう、というのが教授の見解だ。
一方で、現在の日本の政党助成金制度は、政党ではなく、各地の支部長となっている候補者への助成になってしまっているとも指摘した。

■行政改革は官僚のパワー減から■
教授は、「行政改革と政治改革はひとつのパッケージ」として考えるべきだとした上で、官庁の整理統合・官僚の数の縮小ばかりを問題とする日本の政治家は、間違った方向に進んでおり、まず規制緩和により官僚のパワーを削減することが重要だと指摘した。
教授が具体的に挙げた日本の行政改革における注意点は、

  1. 法的な官僚パワーとインフォーマルな行政指導の横行を減らすこと、
  2. 天下り制度をやめて、本当に働きたい役人に力を発揮させること、
  3. 必要分野には役人を増やすこともやむ得ないこと、
などである。
最後に教授は、「日本の政治改革にはいろいろな課題がある。しかし、国会改革、政治家の自主性発揮、行革などの課題を解決していけば、日本の政治的な将来は明るく、アメリカのモデルにもなり得る。なぜなら、日本の抱える問題は先進諸国に共通した悩みであるからである」として論を結んだ。

椎名素夫参院議員、安保を語る

─日米関係の焦点は政治・軍事問題へ移行─

日米基軸を外交の基本方針とするわが国にとって、冷戦終結後の安定的な日米安全保障関係をどう構築していくかについて、広い視野に立った議論が必要となっている。
そこで23日、政経懇談会では、参院議員の椎名素夫氏から、わが国をめぐる安全保障の現状と課題について聞いた。

■安全保障論の変質─軍事バランスから歴史回顧へ─■
第2次世界大戦までは、パワー・ポリティクスの時代であった。各国の力関係を基準に同盟関係が組み換えられた。大戦後は米国、ソ連の2大国を軸に、同盟関係が自動的に構築された。
80年代に、私が自民党の政務調査会で日米防衛協力に係わっていたころは、安全保障=軍事バランスであり、北からの脅威に備えるために、日本の軍事的プレゼンスがいかにあるべきかを論じていればことは足り、この考え方は国際会議でも通用した。
冷戦終結により事態は変わった。最も激しい変化にさらされたのが日本である。これまでは同盟相手である米国を頼っていればよかった日本にも、主体的な役割を求められるようになる。
冷戦終結で、先行き不透明になると、各国はそれぞれ自国の歴史の中で都合のよかった時代の先例を主張しだした。ただし、日本やアジアは戻るべき時代を見つけられない。中国を除けば、いずれも国勢を伸ばした経験が不足しており、針路をどのように決定してよいのか判断しかねている。結局のところ、アジア全体のバランスをコントロールするのは米国しかなく、これを軸にアジア内の調整を行うことが大事である。
なお、中国を旧東側陣営の行き残りとして片づけるには、その存在はあまりにも大きい。だからといって、「今後の日米安保の存在意義は中国の脅威である」と明言するのも危険である。中国の取扱いの難しさが、日米安保の議論をより複雑にしている。

■政治・軍事中心に動く今後の日米関係■
貿易摩擦など経済問題が、日米間で大きな問題となる心配はほとんどなくなった。今後は、安保問題をはじめとした政治・軍事問題が日米関係の中心に据えられるだろう。
国連重視、多国間関係重視という考え方もあるが、これらは日米安保を補完するもので、とって代わるものとは考えられない。
この点で気掛かりなのは、現在、問題となっている日米協力ガイドラインの見直しの中で、憲法解釈に触れる、集団的自衛権の行使にかかわる部分が後回しにされていることだ。憲法9条の解釈の問題になると、たちどころに問題が進まなくなるが、外交において安保や自衛権といった要素は重要なのである。
今回の選挙ではほとんどの政党が安保のことを明確には提案していない。安保では票はとれないからだ。安保について、はっきりした認識を持てないグループは、再教育するか、選挙で消えてもらうしかあるまい。

■連立であいまいな妥協をするな■
自民党は選挙で負けた政党と、安保などであいまいな妥協をして連立を組むべきではない。少数でも、まず単独政権でやるべきことをやり、不信任案を可決されれば、改めて解散・総選挙を行い、勝った政党がまた単独政権を組織すればよい。政局が落ちつくまでには、あと2回程度は選挙をやらなくてはならないのではないか。
そうでなければ、1年間政治休戦してやるべき法案を通し、98年夏に予定されている参議院選挙の半年前に休戦を解消し、選挙に臨めばよい。経済人に内閣に入って改革を進めてもらうという考え方もある。

堂本暁子参院議員、新しい社会を先取りしたNPO法の制定を訴える

29日、政経懇談会では、新党さきがけの議員団座長に就任した堂本暁子参院議員を招き、新たな政権の枠組みづくりに向けての政局の動向や、市民活動促進法案(NPO=Non Profit Organization 法案)の意義や、紆余曲折した関係省庁や連立与党での議論について聞いた。

■市民社会の成熟が必要■
堂本氏は、政治改革・行政改革を標榜して結党した新党さきがけが総選挙で議席数を減らしたことについて、「タレントなどでなく、行政改革をやりたい議員を選ぶようになってもらいたい」と市民社会の成熟を訴え、そのためにもNPO法を成立させ、欧米等のように市民活動を活性化させる必要があると語った。
NPO法案の検討経緯については、オウム真理教事件の影響や、役所の干渉といった逆風を受けながら、様々な市民セクターの人達と相談しながら、一つ一つ問題を解決していったと説明した。

■NPOの幅広い活動の余地を確保■
例えば、法制局は、この法律で定める法人を従来の民法に基づく非営利法人と区別するため、その団体があげる収益が、一般に期待できる収益よりも少ないという「低廉性」を確保する必要があると主張。これに対して各団体は、「一定の収益を認められないと、専門家を雇ったり、新たな事業に着手できず、NPOの活動範囲が狭くなる」と一斉に反対したため、与党合意案では、NPOの法人格付与の条件として「低廉性」は不要とされた。そして「市民活動」の定義を、「市民に開かれた自由な社会貢献活動であって、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とする」とすることで与党合意はできあがった。
この与党合意案がまとまったのは、解散も間近に迫った9月のことであった。その背景として堂本氏は「民主党が旗揚げし、NPO法の制定に積極的に取り組むことを表明したため、これまでNPOの活動拡大に消極的だった自民党も譲歩せざるを得なくなった」と指摘した。
堂本氏は、総選挙後の自民、社民、さきがけ間の政策協議では、NPO法案の内容が与党合意から後退するようであれば、連立協議には臨まないと述べた。


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