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企業人政治フォーラム速報 No.54

1999年 3月31日発行

当面の政局と重要政策課題
/冬柴鐵三公明党幹事長
(3月16日政経懇談会)

[冬柴幹事長]

■公明党の基本理念と政策

公明党は結党35周年(昭和39年結党)を迎えたが、今まで常に大衆側にたち、大衆の喜び、悲しみ、怒りを吸収し、国政に活かすよう活動してきた。
公明党は、衆参65名、地方議員3,000名強、党員30万人を擁し、各都道府県本部を持つ、党としての完全な形を整えている。創価学会の信者で社会活動をしているなかで政治家になった者が大多数であり、法曹界や官僚からの出身者も多い。人間の生命を尊重し、福祉・環境問題に早くから取り組んでいる。自由主義の考え方の潮流ではあるが、セーフティネットの構築も重要だと考えている。

■政権参加への道筋

まず、公明党自身の足元を固め、政策を立案し、国民からの支持を得なければならない。今後、自民党、民主党の再編成の可能性もあり、その時こそ、公明党が出番を求められるだろう。

■地域振興券と少子化対策

地域振興券については、当初不評であったが、これはバラマキではなく大衆のための政策である。減税は、税金を払っていない人には効果がない。298万人の失業者や1,045万人の年金生活者の中には、低所得で税金を払っていない人も多く、地域振興券はこうした人たちの潜在需要の掘り起こしにつながると考えた。地域振興券は、総額7,698億円が支給され、その波及効果は1.8倍にのぼり、GDPを0.1%引き上げる効果がある(電通調査)と思われる。
少子化の進行は深刻で、現在の特殊出生率は1.39まで下がっている。公明党は、これを食い止めるため、1〜16歳までの第1子と第2子には月1万円、第3子以降は月2万円の新児童手当ての給付を提案している(新児童手当てを給付するかわりに、子供の扶養控除は廃止)。ドイツ、イギリス、フランスなどでも同様の制度を持っている。
また、子供の将来の教育費のために貯金をする若い親が多いことから、16歳以上の子供が国からお金を借りるための新奨学金制度の設置も提案している。育英奨学金は、成績要件があるが、それがいらない奨学金が2000年度から創られることになった(利率は3%、卒業時から利子がかかる。無利子融資の1万人枠も創設)。

■選挙制度の見直し

衆議院の小選挙区制は、かつて2度導入されたが失敗し、今回が3度目の導入である。しかし、公明党は、衆議院の定数を50削減し、450とするため、小選挙区と比例代表区を廃止し、中選挙区制(定員3の150選挙区)に改めるよう主張している。これは、公明党に有利なものという意見もあるが、3人区で勝ち抜くのは実際には難しく、党利党略で主張しているのではない。自民党の梶山(静六)さんや野中官房長官も賛成している。


今後の政局と当面の重要政治課題について
/平沼赳夫自民党衆議院議員
(3月26日政経懇談会)

[平沼議員]

■自社さ連立政権誕生の経緯

今後の政局について話す前に、これまでの経緯を申し上げたい。実は、自自連立政権も我々が自由党の実務者と1ヶ月以上にわたり、協議をして実現したものだ。
私は、自民党が野党に転落していたとき、党の全国組織委員長を務めていた。当時、全国の組織から、組織の責任者として呼び出しを受け、地方はがんばっているのに中央は何をしているんだ、と相当な非難をあびた。また、野党時代は、党本部にも閑古鳥がないており、大変な悲哀を味わった。
1994年4月、細川元総理が政権を投げ出したとき、亀井静香さんと私、そして、当時、社会党左派で村山元総理の右腕と言われた野坂さん(後の官房長官、建設大臣)や村山元首相、さらに、さきがけの武村さんと、安保条約から、国旗、君が代、憲法問題に至るまで、お互いの一致点を見出すため議論していた。
その後、羽田さんが総理になったが、社会党が閣外協力になり、6月には羽田さんも政権を投げ出す形になった。そして、我々が下敷きとしてやってきたことが功を奏し、村山さんを総理に担ぎ出すことに成功し、みながあっと驚いた自社さ連立政権が誕生した。こうして、自民党は再び政権への足がかりを得た。

■自自連立政権誕生の経緯

その後、村山さんは橋本さんに政権を譲り、私は衆議院の議院運営委員長のポストについた(96年11月)。最初に問題になったのは、97年度の予算であったが、これは何とか成立させ、次に問題になったのが、沖縄の特措法(駐留軍用地特別措置法)であった。これは、橋本政権の(97年)4月危機とも言われていたが、私は、議運の委員長として、何とかこれを乗り越えなければならないと考えていた。亀井静香建設大臣(当時)とも相談し、結局、私が自民党の若手35名を集め、当時新進党の小沢さんの一派35名と一緒になって「日本の安全保障と危機を守る会」という勉強会をつくり、自民党、新進党の両方から、何とか特措法を成立させるべくムードを盛り上げていった。これが非常に功を奏し、自民党、新進党の合意ができ、最終的には、民主党もこれに賛成した。
このときから、小沢さんたちと共通の基盤ができ、その関係は今までずっと続けてきた。
その後、橋本政権は、昨年の参院選の大敗を受け退陣することになり、小渕政権が誕生するが、我々は、総裁選にからむ三塚派(当時)の対応に不満を持ち、26名が三塚派を脱退し、純粋な政策提言集団をつくろうと党内に広く呼びかけ、「日本再生会議」を昨年8月に50名で結成した。これは、派閥横断組織で、週2回まじめな勉強を続けてきた。少子高齢化対策の議員立法がこれから提出されるが、これも日本再生会議がはじめに提唱したものだ。
こういう経緯を背景に、実は、参議院では数が足りない、衆議院も不安定だという状況の中で、自自連立政権を模索してほしいという話しがあり、我々は今まで培ってきた小沢さんらとの関係を表舞台に上げることにした。そして、実務者で、1ヶ月かけ協議し、閣僚数の削減や政府委員制度の廃止、副大臣制度の導入などを柱とする政策合意文書を作り上げた。中でも、小沢さんが一番こだわったのは閣僚数の削減であり、これは連立政権を国民にアピールする象徴的な意味合いがある、と主張していた。
こうして自自連立ができたことにより、参議院ではまだ過半数に届かないものの、公明党のスタンスも微妙に変化してきており、政治の安定という面でよりよい状況になってきている。

■自民党総裁選の行方と今後の保守の2極化

そこで、今後の政局についてだが、小渕総理は自自連立ができて、非常に自信を持ってきており、その政権基盤は強いと思う。9月の総裁選も再選の可能性が高い。
これからの大きな政局の流れについては、歴史の必然もあり、保守は2つに分極化していくと思う。その対立軸は憲法問題であり、さらに付け加えれば、安全保障問題である。1つは、市民リベラルといわれるグループで、市民を中心にすべてを考えるという考え方で、これは自民党の一部と民主党の考え方である。もう1つは、我々と自由党の小沢党首に代表される考え方で、市民が安泰に暮らすためには国家がしっかりしていなければならない、自分たちの安全は自分たちで守る、という考え方である。
自自連立をやったのも、1つには、政治の安定のためだが、もう1つには、このように、小沢さんには我々と共通の国家観があり、安全保障についても同じ考え方にたっているからである。21世紀の初頭には、保守はこのような2つのグループに分かれていくだろう。


わが国の政治資金の実態と今後のあり方
/佐々木毅東京大学教授、谷口同大助教授

昨年、政治資金に関する日本初の本格的な調査を実施した佐々木毅東大教授ならびに谷口将紀同大助教授から、調査結果の概要ならびに今後の政治資金のあり方について話を聞いた(2月22日)。

【佐々木教授】

■調査の概要と95年政治資金規正法改正

今回、一連の制度改正後の初の総選挙が行われた96年を対象に、わが国初の全国的調査を行った(調査対象は、小選挙区当選議員300名と小選挙区では落選したが比例区における重複立候補で当選した84名)。
かつて、日本の政治資金制度は透明度が低く、研究すること自体が不可能であったが、今回、このような研究ができたのは、わが国の発展の一つであり、情報公開の流れの中に位置づけられる。
95年の政治資金規正法改正の最大の目的は、政治資金の透明性の向上である。寄付の公開基準が従来の年間20万円から5万円までに引き下げられ、寄付の受け皿団体も政治家一人につき、資金管理団体一つに限定された。また、個々の政治家が集めていた金を、政党中心にシフトさせていくことが課題とされた。
このように制度面では抜本的な改革が行われたが、他方、政治資金収支報告書の量が膨大なものになり、多すぎて逆に研究できないというパラドクスが生じた。その理由としては、まず、報告書は手書きのもので、そのデータがコンピューター化されておらず、しかもコピーが認められていないということだ。また、収支報告書は、政党や中央の政治団体は自治省、地方の政治団体は各都道府県の選挙管理委員会に提出され、それぞれバラバラに公開されているということだ。今回は、とにかく人海戦術でこの調査を実施した。

【谷口助教授】

■調査結果からわかったこと

調査の結果、主に以下の次のようなことがわかった。

  1. 95年の政治資金規制制度の改革において、制度改革後は活動を停止すると考えられていた政治家個人の後援会、その他各種の政治団体が実質的には活動を続けていた。これらは、企業寄付を直接受け取ることはできなくなったが、個人寄付や政治資金パーティー、あるいは、政党支部等からの資金移転により収入を確保している。全体のうち、約6割の代議士の後援会は積極的に活動していた。

  2. 通常、マスコミに発表される政治家の収入ランキングは、政治団体間の資金移転をダブルカウントしているため、それを差し引いた実質収入ランキングとマスコミ発表のランキングでは、かなり違いがあった。

  3. 政党別の集金力(図1)では、自民党が他の政党に比べ優れている。また、収入の内訳を見ると、自民党と新進党(当時)は、選挙区支部からの収入が多いのに対し、民主党は結党間もないこともあって、個人中心の収入構造となっている。

    図1)政党別の収入構造

  4. 世襲代議士の集金力(図2)は、そうでない代議士に比べ、平均6千万円以上収入が上回っている。

    図2)世襲代議士の集金力

  5. 当選回数別の収入(図3)を見ると、当選回数が増えるに従い、収入も増加する。ただし、細かく見ると、当選4〜6回の議員は、当選7〜9回の議員より上回っている。これは、当選4〜6回は初入閣の時期であり、集金を強化するためと思われる。

    図3)当選回数別の収入額

  6. 比例代表区への重複立候補者の収入(図4)を見ると、小選挙区のみの単独候補者に比べて、約2千万円少ない。これは、重複立候補の場合、当選がある程度予想できるため、政治資金面でも油断が出ていることを示していると思われる。

    図4)重複立候補の影響

  7. 選挙区の面積と収入額との関係(図5)を見ると、選挙区が広いほど収入が多い。つまり、都市部よりも農村部の方が支出がかさむことがわかる。

    図5)選挙区面積と収入額

【佐々木教授】

■調査結果から明らかになったこと

第一に、数年前に政治資金規制制度の改革を議論していたときには、衆議院の選挙制度とセットで議論していたが、地方議員、地方政治についての議論が抜け落ちていた。今回の調査で、政治家は地方に根を張っており、地方政治を抜きにして政治を議論しても限界があることがわかった。
第二に、制度改革の問題としては、現行の政治資金規正法付則第9条の見直しが挙げられる。付則では、政治家個人の資金管理団体への企業寄付について、法施行(95.1.1)後5年を経過した段階において、「廃止する措置を講ずるものとする」と書いてある。これは、何もしなければ、現行のまま継続するという意味だが、これは、資金管理団体への企業寄付を禁止しても、政党支部に流れるだけという結果になることが今回の調査でより明らかになった。

■今後の課題

ここで、いくつかの問題提起をすると、第一に、政党助成金をこのまま続けるべきかという点が挙げられる。国民感情からして、少なくとも、政党助成金の使途は限定されてしかるべきではないか。政党のシンクタンクを作るなど、国民に説得力のある材料が示されないと、このままではこの制度はもたないと思う。
第二に、政治資金規正法の第22条の3には、国から補助金等を受けている団体は政治寄付ができないなど、一種の質的制限が導入されているが、最近の金融機関に対する公的資金の投入の問題を含めて、さまざまな分野で公的資金の導入が問題となっている。こうした中で、今後改めて、公と私の問題をどう扱っていくかが課題である。これは、政治と経済界との関わりの問題として、考えていく必要がある。
いずれにしろ、政治資金の問題は、いたちごっこの面がある。金のかからない政治を実現しようというのは結構だが、のんきな意見であるとも言える。ディスクロージャーなしに、金のかからない政治は実現できない。結局、ディスクロージャーとチェックのいたちごっこを続けていくより仕方がない。各国を見てもそうである。
もう一つやっかいな問題は、例えば、政治家の後援会活動にしてもそうだが、これをつきつめると、憲法に基づく政治活動の自由と規制との関係をどう考えるか、ということに行き着く。米国における政治資金規制の問題も、究極的には、この問題に帰着している。
そうした上で、最後に問題として出てくるのは、政治活動に金が必要なのは確かだとしても、果たして政治がその金を有効に使っているのか、という点である。これが国民の最大の関心事であり、政党助成金の問題も、これとの関係で議論されることになる。


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