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企業人政治フォーラム速報 No.59

PDFファイル版はこちら 1999年 7月21日発行

第4回定時総会・講演会(来賓:小沢一郎自由党党首)を開催

去る7月6日、当フォーラムの1999年度総会・講演会が約300名の会員の出席を得て開催された。

【定時総会】

定時総会では、1998年度の事業報告・収支決算、1999年度の事業計画・収支予算、ならびに川勝堅二会長の退任に伴い、新会長に古川昌彦/経団連副会長(三菱化学相談役)、会長代行に前田又兵衞/前田建設工業会長を選任する、役員交代の件等が諮られ、承認された。なお、今回新たに選任された役員は以下の通り。

<会長>
古川昌彦 経団連副会長・三菱化学相談役
<会長代行>
前田又兵衞 前田建設工業会長
<代表幹事>
中原眞 東京三菱銀行専務取締役

[川勝会長]

当フォーラムが発足してから、ちょうど3年が経過いたしました。このフォーラムの目的は、企業人の声を政治の場に反映させ、政治のリーダーシップ発揮を促すことであります。そのために、企業人と政治家とのコミュニケーションを深めるための活動を、様々な形で積極的に展開してまいりました。
そうした立場から、この3年間のわが国の政治を振り返ってみますと、幸いにして、重要な意思決定は政治が決めるという、政治主導の傾向が、確実に強まっているものと思います。中央省庁の再編や規制緩和などの構造改革が着実に進行しつつあり、また、昨年来、経済再生に向けた諸施策も、大規模かつ迅速に展開されております。これらはいずれも政治の強い決断によって実現に結びついたものであります。
そうした中で、当フォーラムの活動も、政治主導の流れを加速するものとして、いくばくかの寄与をして参ったものと、自負いたしております。
しかしながら、本格的な景気回復、そして、経済社会全般にわたる構造改革と、政治が取り組まねばならない課題は山積しております。むしろこれからが、政治の力量が真に問われる正念場ではないかと思います。
そうした意味で、当フォーラムとしても、活動をより一層充実、強化し、政治のリーダーシップ発揮を促していかねばならないと考えております。
ご案内の通り、私は、本総会をもちまして、当フォーラムの会長を退任することとなりました。
3年にわたり、フォーラムの活動を成功裡に進めることが出来ましたのも、会員の皆様のご支援、ご協力があってのこととでございます。改めて、厚くお礼申し上げる次第であります。
新会長には、経団連副会長の古川昌彦さん、会長代行には、前田建設工業会長の前田又兵衞さんに、それぞれご就任いただくことになっております。会員の皆様におかれましては、当フォーラムの活動に対し、これまで以上のご支援、ご協力をお願い申し上げます。

[古川新会長]

この度、川勝会長の後任として、企業人政治フォーラムの会長を務めることになりました。会長代行に就任された前田さんとともに、会員の皆様のご協力を得まして、フォーラムの活動を進めて参りたいと考えておりますので、よろしくお願い申し上げます。
さて、わが国経済は、近年、厳しい状態が続いており、企業も、事業の再構築に全力を上げているわけであります。一方、欧米でも、私が所属しております化学業界をはじめ、あらゆる業界において、各企業は猛烈なスピードで合従連衡を繰返し、グローバルな競争を展開しております。そして、アメリカにしましても、ヨーロッパにしましても、政治が、企業の競争力強化を、強力にバックアップしているように見受けられるのであります。
そうしたことを考えますと、わが国においても、地球レベルの競争に打ち勝っていくためには、政治と経済界とが、良い意味で密接に連携して、競争力強化に取組んでいくことが不可欠であると思われます。
その意味で、企業人政治フォーラムは、企業人の意見を政治にダイレクトに伝えるものとして、大変重要な意義と役割を担っているものと認識いたしております。川勝会長のこれまでの努力に改めて敬意を表すとともに、これを引き継いで、フォーラムの活動をさらに発展、充実させて参りたいと考えております。会員の皆様におかれましては、引続き、ご支援、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

[前田会長代行]

この度、企業人政治フォーラムの会長代行を務めることとなりました。会員の皆様のご協力を得まして、古川会長ともに、「個人」、「企業」、そして「政治」の関係を密接にするという当フォーラムの設立趣旨を具体化するために、フォーラム活動に積極的に取組んで参りますので、よろしくお願い申し上げます。


【小沢一郎 自由党党首講演会】

講演会では、小沢一郎自由党党首が、現在の日本の政治・社会の問題点を指摘し、その解決に向けて、今後の政治のあり方を提示した。

■日本社会の問題点

最近、青少年による凶悪事件が多発しており、また、オウム真理教の問題なども含めて、日本人の従来の倫理観からすると考えられないような事件が日常茶飯事のように起きている。これらの事件の背景にあるのは、事件の当事者個々の問題といったものより、むしろ日本人自身、日本社会自体が抱えている問題ではないかと思う。
このような状況の下、我々は、戦後の半世紀、あるいは、さらに戦前の半世紀を振り返り、なぜこのような事態にいたったかについて、深刻に、そして真剣に考えていかなければならない時期に差し掛かっている。
第二次世界大戦にいたる過程において、政治家や官僚といった当時の日本社会のリーダー達は、リーダーシップの欠落を、天皇の権威を高め、さらには神格化するという手段で補わざるを得なかった。その硬直した社会の行き着いた先が「敗戦」であった。
敗戦によって、「お上」から与えられた戦前の硬直的な価値観がまったく否定されてしまった。その後、戦後民主主義社会の中で、価値観が多様化したとよく言われるが、私は、それは決して「価値観の多様化」といったものではなくて、むしろ「価値観の喪失」であると考えている。戦後の、価値観の喪失という状態の中で、「自分自身で人生の問題を判断できない」、「人間として守るべき道徳、倫理、常識を持ち得ない」というところが、今日の日本人の最大の問題点であると思う。

■戦後政治の問題点

戦後政治は、戦後の日本の価値観を構築するという問題を避けて、ひたすら「豊かさ」を追求し続けてきたところに問題がある。
自民党の政治的な拠りどころとされているものに、俗に「吉田ドクトリン」と呼ばれているものがある。ごく簡単に要約すると、「いろいろな厄介なことには手を出さずに、ただひたすら経済の復興に励むことが、戦前の失敗を繰り返すこともなく、一番良いことである」ということになると思うが、今なお、自民党の多くの人達が、これを戦後の保守の原則と考えているようである。しかし、私からすると、吉田首相が占領下でとった政策は、ドクトリン、つまり原理・原則といったようなものではなく、敗戦により荒廃した日本の国土を考えた場合における「政策の選択肢」であったと思われる。実際に吉田首相は回想録等で、「このような選択をせざる得なかったが、これは間違いであった」といった趣旨のことを、自身で記述している。
このように、国家を形成するうえで必要な価値観を持たずに、そしてそれを議論しようとせずに今日にまで至らしめたということが、日本の戦後政治の最大の罪であるのではないだろうか。

■今日の政治の問題点

最近の法案の成立過程において、本質的な問題を真正面から取り上げずに、その時々での法案の必要性を強調しながら、なし崩し的に、何とはなしに一定の方向付けをしていこうとする傾向がある。これは、日本人の得意とする手法であるが、私は、これが、かつてこの国の政治を誤らせた最大の原因であると考えている。

<教育問題>

たとえば、私個人としては、日の丸・君が代の法律に反対というわけではない。国家を形成する以上、国旗・国歌があって当然である。しかし、本来、国旗・国歌といったものは、何も法律で強制されなくても、国民の心の中で、黙っていても認識されるべきものである。このような国民的な合意が欠落しているために、国旗・国歌をめぐる様々な事件が教育現場で起こってきたとするのならば、法律で国旗・国歌をを制定し、強制する前に、まず教育の現場において、「日本人というものはどうあるべきなのか」ということを考える必要があるのではないだろうか。
自由党では、基本政策に「日本人のあり方」という項目を掲げて、教育基本法の改正、および「徳育」を重視した教育の実現を訴えている。こういった主張に対しては、「保守反動」といった批判が根強く、まともに正面から取り上げられることがなかった。
政治家というものは、選挙される身であるため、票には結びつかない問題を正面から取り上げることはなかったが、最近、このような抵抗感もなくなりつつあり、何とはなしに国旗・国歌に関する法律を持ち出してきたのである。しかし、法律で国旗・国歌を制定する前に、基本となる学校教育を含め、家庭教育をはじめとする、広くモラルや常識を培うような教育等について、真剣に考え、検討するべきではないだろうか。

<防衛問題>

ガイドラインの問題では、当初の政府案は、戦争をしている米軍に対して、日本が「外」に出て行って、物資の輸送を行うというものであった。これは、まさに日本が戦争の兵站を担当するということである。戦争において最も重要なものは、いうまでもなく兵站線であり、したがって、最も狙われやすいのも、この兵站線なのである。政府は、このような点を説明することなくガイドライン法案を制定しようとしたのである。
従来、防衛問題においては、憲法第9条の問題は最大のタブーであった。しかし、今回のガイドライン法案のような重要な問題を検討するにあたって、従来の憲法解釈との矛盾等を正面から説明せずに、「アメリカがとやかく言うからしょうがない」といったことを言って、うやむやにしようとしたわけである。だから、当初、我々は政府案に対して反対したのである。
また、ガイドラインについては、その根底にあるはずの「有事」の際の法制がまったくできていないところに問題がある。ガイドラインといえば、戦争状態を想定するが、有事というのは、何も戦争だけではなく、自然災害等のように、いろいろな危機管理を必要とする事態がある。しかし、「有事の際にどうするのか」ということが、憲法や、日本の政治や行政には欠落していたのである。そして、今なお、その根本に焦点をあてて議論をせずに、あまり重要でないことを理由にしながら、何とはなしにやっていくという方法が取られているのだ。

<年金問題>

年金の問題では、厚生省が年金財政の事情から、保険料を引き上げて、給付額を引き下げようとしているが、社会の高齢化に伴い、このような方法では年金制度が成り立たなくなりつつある。また、世代間の負担の公平性に関する問題もある。
したがって、我々は、根本的な議論をし、年金制度のあり方を見直すべきだと主張している。具体的には、介護保険、老人医療、基礎年金の3事業を消費税で賄うべきだと考えている。これら3事業の財源を賄うために、消費税率を10%にすれば、当面「お釣り」がくるという状態であり、さまざまな問題も解決することができるわけである。
しかし、この問題についても、その核心は消費税の問題である。結局、誰も消費税のことを言い出せないために、全てが行き詰っているという状態なのだ。

■政治家に求められているもの、政治のあり方

「小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり」という言葉があるが、リーダーには、大善、つまり大きな「善」を為すためには、仮に非情と言われようと、それをやり抜く精神・姿勢が求められているのではないだろうか。
現在、日本の政治情勢は、国内問題のみならず、日米、日中関係をはじめ、対外的にも非常に難しい事態を迎えている。このような状況の中で、次の世紀を、我々にとって良い世紀とするには、我々政治家の責任は重いが、やはり、国民一人ひとりに、問題の根本に、正面から目を向けて取組んでいく姿勢が求められているのではないかと思う。
政局に関連していうならば、現状、自自公といったような、連立に関する話題がにぎやかであるが、単に数をあわせるというだけであれば、本当の意味での政治とはいえない。当面、数をあわせれば、小渕政権は安泰であるかもしれないが、日本という国は安泰ではないのだ。基本政策なしに、数あわせに終始するならば、政策決定は不可能である。だからこそ、私は馬鹿の一つ覚えのように、「政策だ、理念だ」と言っている。
社会が放っておいてもうまくいっている時には、政治家には用はないわけであるが、今、こういう大変な時代であるからこそ、「日本をどのような国にするのか」というような、将来を見通した理念を持ち、それに基づいた具体的な政策を国民に提示し、実行していくことが重要であるのではなかろうか。


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