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企業人政治フォーラム速報 No.66

PDFファイル版はこちら 2000年 1月26日発行

金融システムの再構築に向けて
/村井 仁 金融再生総括政務次官
(12月14日政経懇談会)

昨年末には、金融システムをめぐってペイオフ解禁が議論の焦点の一つとなった。1999年12月14日に開催された政経懇談会では、金融再生総括政務次官の村井仁衆議院議員を招き、金融システムの再構築に向けた課題や金融行政のあり方等について話を聞いた。

【政務次官の役割】

国会の活性化を狙いとして政務次官の役割強化等の新制度が導入されたが、どこの省庁でも大臣と政務次官、そして官僚(政府参考人)との間で、どのように国会答弁を分担するのかという点が一番問題になっているようだ。一方で、閣僚・政務次官が官僚の立場では言えないようなことを言って、議論がかなり自由闊達になりつつあるという意味で良い面もある。しかしながら、過渡期であるから仕方がないのであろうが、他方で官僚には負担をかけている制度ではないかと思う。従来であるならば、どこの省庁でも行政ラインの官僚が日常業務の延長線上で国会答弁を行っていたが、今度からはいちいち原稿を起草し、その上政務次官にしっかりと説明して納得してもらわなくてはならない。ただ、今臨時国会で始まったばかりの制度であり、効果が出てくるにはまだまだ時間もかかることであろうし、現時点で評価を下すのは早いと思う。

【金融界の現状】

現在の金融機関の状況としては、いわゆる主要行においては適正な資産査定を行い、抜本的な償却引当に取組んでもらった結果、今年の3月末の決算で10兆円を超える不良債権の処理を行い、過去の不良債権処理は基本的に終了したと認識している。今後、ペイオフ解禁までには全ての不良債権処理問題に目途をつけて、揺らぐことのない金融システムを構築していきたいと考えている。
そのような状況の中で、3行統合構想、さくら・住友合併構想、その他さまざまな金融再編の動きが出ている。これら一連の動向は、世界規模での金融業界をめぐる流れに沿った、大変結構な動きであると注目している。
また、異業種からの金融業界への参入の問題が出ている。イトーヨーカ堂、ソニーなどがそれぞれ銀行という形態に興味を示しているようだが、現時点では構想そのものが必ずしも明確ではないようだ。いずれにせよ、親会社の経営リスクが預金を受け入れる銀行に波及するようなケースは非常に危険である。したがって、異業種からの銀行業参入については、このような点を十分に審査、チェックする必要があると思う。

【ペイオフ凍結解除にあたっての問題】

ペイオフ解禁後の預金保険制度や金融機関の破綻処理制度のあり方が大きな課題となっている。現在までのコンセンサスとしては、「できるだけ小さな預金保険制度を目指して、回復の見込みのない金融機関は処理する」、「破綻処理にあたっては、できる限りコストの小さい方法を選択し、混乱を最小限にする」ということである。ペイオフによる保険金の支払いという事態はできるだけ回避して、日本版のP&Aや、破綻金融機関の営業譲渡の迅速化、営業の一部譲渡などによって対応していくというのが基本的な方向であろう。

■ 決済性預金の扱い

本来、預金保険制度は少額預金者の保護という目的からはじまった制度である。しかし、これとは別に、決済性預金の扱いが大きな問題となっている。決済性預金については、最悪の場合にはペイオフの実施に伴うシステミック・リスクの発生という事態を想定しなくてはならない。一方で、決済性の預金を別途に取り扱うとしても、貯蓄性の預金と決済性の預金とをどのように区別するのかという問題については、技術的にも非常に難しいと感じている。さらには、地方自治体の公金や国庫金の扱いをどうするのかという難しい問題もある。これらの決済性預金をめぐる問題については、「小さな預金保険制度」というプリンシプルとは若干背馳している問題でもあり、非常に対応が難しい。

■ 信用組合の扱い

新聞等で報道されている通り、自民党内の一部から信用組合についてはペイオフ解禁を延期してはどうかという議論が出ている。これに対しては、特定の業態についてのみペイオフ解禁を延期することが技術的に可能であるかという問題がある。また、ペイオフ解禁の延期によってその業態に対する不安を表面化させることにつながりかねず、かえって社会的な混乱を招く恐れがあるかもしれない。
現在、信用組合の対する権限は都道府県に有り、金融監督庁は直接的な責任を負っていない。全国に300弱の信用組合があるが、来年4月からは、これらの信用組合に対する権限が国に全面的に移管されて、金融監督庁が信用組合の検査、監督も全てやるということになる。信用組合については、できることならば、合併等の方法で体力を強化することが重要ではないだろうか。現在、金融監督庁としても都道府県と協力して、信用組合の実態を詳しく把握するべく、検査を進めているところである。
ただ、信用組合等の地域密着型の金融機関は膨大な顧客情報を持っており、こういった情報に基づいて堅実な経営を行っているところも多く、小さいから危ないという認識が広がることは芳しくない。

【生保のセーフティネットの整備について】

生保業界では、日産生命、東邦生命と2つの生保が破綻した。日産生命については約2250億円を業界で拠出し、あおば生命を立ち上げた。日産生命の破綻後に、約4000億円の規模の生保の保護機構というものが設立されたわけであるが、東邦生命の破綻によって3000億円とも、3500億円ともいわれる損失が発生すると見られており、今後、業界からの資金拠出だけで対応していくには限界がある。業界内においても、企業によって体力の強弱があるだろうし、体力がある生保の立場からすると、自社の保険契約者に対して支払うべき配当の一部が、他社の保険契約者の保護のために使われているわけで、経営者側においても、いろいろと難しい問題を抱え込むことになりかねない。何らかの公的資金を拠出するような場合には、生保については、銀行のように、「決済機能があるから」という理由では対応できない。このように、業界に対してさらに負担を求めるには問題がある。法律にも、生命保険の契約者に重大な影響が及び、社会的な不安を起こす恐れがある時には、国がしかるべき対応をすると規定されている経緯もあって、何らかの公的資金を拠出する必要があるのではないかという議論がなされている。現段階では、もしそういう措置が必要になった場合には、業界がさらに1000億円程度を負担することを前提に、さらに4000億円を限度に国が負担するという構想が浮上してきているが、まだどのような決着になるのかはわからない。また、生保については簡保との競合という問題もある。簡保には「国」という後ろ盾があることも考えると、生保の契約者保護に対しては、何らかの対応が必要であるというのが私共の認識である。
なお、生命保険会社では相互会社の形態を取っているところが多いが、業界側においても株式会社への転換を検討しているようであり、そのために必要な関連法制の整備を急がなくてはならない。

【今後の金融行政のあり方について】

今後、中央省庁再編によって、大蔵省に残されている金融制度の企画立案部門が金融監督庁に編入されて、「内閣府」の外局として「金融庁」という役所が出来上がることになっている。金融庁に関連して国務大臣である「金融担当大臣」がおかれるが、この金融担当大臣には形式的に何らの処分権限もなく、内閣総理大臣に権限がある。行政組織の議論としては、金融庁長官を国務大臣とする方がすっきりとするのであるが、そうすると、「1府12省庁」という原則と背馳してしまうことになるため、このような形となっている。今後、例えば、何らかの公的資金の拠出が必要になった場合に、金融庁長官、金融担当大臣、あるいは内閣総理大臣のうちで、誰が金融行政を代表して他省庁との調整にあたるのか等、金融行政をつかさどる上で、各行政機関どうしの関係が円滑に運ぶよう努力していかなければならない。


村井 仁 金融再生総括政務次官プロフィール
むらい・じん
1937年長野県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、通産省入省。1986年に衆議院議員初当選以来、当選4回。大蔵政務次官、衆院大蔵委員長の実績を評価され、10月の小渕第二次改造内閣発足とともに、初代の金融再生総括政務次官に就任。

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