[ 経団連 | 企業人政治フォーラム | 速報目次 ]

企業人政治フォーラム速報 No.73

PDFファイル版はこちら 2000年12月 4日発行

この国の政治をこれからどうすればよいのか
─ 渡部恒三 衆議院副議長
(11月17日政経懇談会)

11月17日の政経懇談会では渡部恒三衆議院副議長を招き、「この国の政治をこれからどうすればよいのか」というテーマで、当面の政局や、今後の政治のあり方等について話を聞いた。

【政局について】

当初は、政局が今のような状況になるとは思ってもみなかったので、本日は景気や、財政、福祉等の問題についてじっくり話をしたいと思っていた。しかし、政局が急に予想もしなかったような事態になってきたので、政局についてまったく触れないというわけにもいかない。
私としては、いずれこのような動きが出てくるものと思ってはいたが、ただ、それは来年の参議院選挙が終わってからのことであろうと考えていた。恐らく、自民党は来年の参議院選挙で惨敗するであろう。当然、森総理は責任をとって辞任することになるだろうから、私はその時点での政界再編を予想していた。しかし、今回、加藤氏の発言が大きく取り上げられ、結果として今年中に、それも12月に入る前に政局がこのような事態になってしまった。
正直言って、不信任案が可決されるのか、あるいは否決されるのかは、まさに神様以外にはわからないことである。本日も、私としてははっきりしたことを申し上げたいのであるが、本当のところ、私にもまったくわからない状況である。私も32年にわたる国会議員生活の中で、3日後のことがわからないというのは初めてのことである。しかし、これは加藤氏にしても、野中氏にしても同じことであると思う。ただ、日本の政治は大変混迷した状態になってしまった。これが現状である。

【今後の日本の課題〜景気・財政再建〜】

このような中で、これからの日本の政治は、景気をはじめ、さまざまな問題を解決していかなくてはならない。景気についても、全体としては、上向きつつあることは間違いないと思うが、消費はまったく伸びてこない。日本経済においては、公共事業のシェアは非常に小さくなってしまっており、企業の設備投資と、個人消費が大きなウェートを占めている。ところが、その個人消費が低迷している。これは財政再建にも大いに関連してくる問題でもある。それでは、いったいどうして個人消費が伸びないのか。それは、国民が将来に対して大きな不安を抱いているからである。東京オリンピックから列島改造計画の頃までは、みんなが将来に対して希望を持っていた。当時は今よりも生活は貧しかった。しかし、みんながこの国の将来に対して不安を持つようなことはなかった。今は、不景気だと言っても、大部分の国民は豊かな生活を送っている。しかし、豊かな生活は送っているけれども、多くの国民が将来に対する不安を抱いている。政治も信用できない。しかも、この国の将来も不安である。そうなってくると、頼れるものはおカネしかないということになる。だから、貯金はどんどん増えるけれども、消費はほとんど伸びていないのだ。
政府の見解では、景気が回復した時点で財政再建に取り組めば、財政の問題は解決できるとしている。政府は、来年度は2%の経済成長を予測している。私も、来年度の見通しについては、政府と近い考え方である。しかし、仮に2%の経済成長を達成したとしても、税収は3兆円程度の増加にしかならない。現状では、毎年、(税収が)40兆円不足している状態であるから、3兆円程度の増収では、財政再建の役には立たない。
財政がこのように厳しい状態の中で、本当は、今こそ政治がしっかりしなくてはならない。場合によっては、自民党と民主党の連立政権でもかまわないと思う。思い切って、国民に対しても、言いにくいことを言う必要がある。私は、常々、鳩山由紀夫氏に対して苦言を呈しているが、二度ほど、その鳩山氏を誉めたことがある。そのうちの一回が、総選挙の最中に、所得税の課税最低限の引き下げを主張した時である。
一方で、残念ながら、自民党が責任政党として、日本の将来に対して責任を持つことを放棄してしまっている。自民党が考えているのは、いかにして政権を失わないようにするかということだけである。今の政治情勢の中で、自民党が政権を維持するためには公明党の存在が重要なのはわからなくもないが、今から思い出しても、戦後政治の中で、地域振興券ほどの税金の無駄使いはなかったと思う。この地域振興券については、財政に対して責任を負っている大蔵省からも表立った反対はなかった。この時、私は、つくづく、日本は政治もダメになったが、行政もダメになったものだと失望した。
私は、今回の自民党内の内輪喧嘩は、必ずしも悪いものだとは思っていない。むしろ、政界再編を通じて、政治家が党利党略を離れて、真剣にこの国の将来を考えるきっかけになるのならば、今回の騒ぎなどは小さな出来事になるだろう。従来のように、景気対策と言っては税金をバラまくのではなく、「国には600兆円の債務があるが、国民には1300兆円の貯蓄があるのだから、みなさんの貯金を国のために役立ててください」と言うことができるような、「強い政治」をつくっていかなくてはならない。

【今後の日本の課題〜社会保障〜】

もう一つ重要な問題としては、社会保障の問題が挙げられるだろう。社会保障の問題になると、私は、昭和天皇のお言葉を思い出す。16年前に、私が厚生大臣を務めていた時に、昭和天皇に対して、年金法の改正について説明申し上げたことがあった。その際、私は、「現状では、6人の若い人たちが働いて1人のお年寄りを支えていますが、21世紀には、3人の若い人たちで1人のお年寄りを支えることになります。このままいけば、年金制度を維持するためには、年金の支給額を半額にするか、若い人たちの掛け金を倍額にするしかありませんが、いずれも不可能な話です」といったようなことを説明した。これに対して昭和天皇は、「そのような時期が到来した時、国民は今の生活を維持することはできますか」と質問された。当時、国会においては、厚生大臣である私に質問が集中していたが、野党からの質問などは何も頭には残っていない。しかし、この昭和天皇の短いお言葉は、いまだに私の頭から離れない。今後、日本が直面する最大の問題は、少子高齢化の時代に、従来の豊かな生活を国民に保障できるかどうかという、この一点にかかっていると思う。

【今後の日本の課題〜国際競争力〜】

最近は、朝から晩までITばかりが話題になっているが、先日、北欧のフィンランドで携帯電話メーカーのノキアを視察した時に、少々ショックを受けた。私は、21世紀はITの時代と言われている中で、1年の半分以上が雪に閉ざされている北欧のフィンランドの企業が、いかにして世界で最も競争力があると言われている携帯電話を作り出すことに成功したのか、という点に非常に興味を持った。そこで、社長をはじめ、ノキアの幹部にこの10年間の成長の秘密を聞いてみた。私は、日本でも大流行の経営コンサルタントが言うようなことを言うのだろうと予想していた。ところが、彼らは成長の秘密は、「一に一生懸命、二に一生懸命、三に一生懸命やってきた。ただそれだけである」と答えたのだ。これは、まさに、戦後、日本の経済界や中小企業経営者のみなさん、さらには労働者までもが、朝鮮戦争特需からベトナム戦争特需にかけての発展の時期に抱いてきた気持ちである。これこそが現在の日本経済の原点である。しかし、近年、日本ではこのような気持ちが忘れ去られてしまった。
私は、国際競争力といえば、日本かアメリカであると思っていたが、現在、日本の国際競争力は世界で14番目だそうである。言うまでもなく、国土が狭く、資源・エネルギーにも恵まれていない日本が生きていく道はただ一つである。それは世界中に喜ばれる、安くて、便利な、新しい時代のニーズに対応した商品をつくり出して、世界中に売ることである。それ以外に方法はない。その日本が国際競争力を失うといういうことは、すなわち国がつぶれてしまうことを意味する。したがって、国際競争力の問題については、半ば経団連のみなさんの問題でもあるが、しっかりと取り組んでいく必要があると思う。


[渡部恒三 衆議院副議長 プロフィール]
わたなべ・こうぞう 1932年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。福島県議を2期務めた後、1969年衆議院議員初当選。当選11回。厚生・自治・通産の各大臣を務めた。1993年には新生党を結成し、翌年の新進党結成後は、総務会長、副党首等を歴任。1996年衆議院副議長に就任。(2000年7月に再任。)

企業人政治フォーラムのホームページへ