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企業人政治フォーラム速報 No.74

PDFファイル版はこちら 2000年12月11日発行

アメリカの政治情勢・政治資金の現状について
─ 日米青年政治指導者交流プログラム・米国代表団との懇談会
(11月22日)

(財)日本国際交流センターと米国青年政治指導者会議との共催による日米青年政治指導者交流プログラムの一環として、アメリカより州議会議員、連邦議員スタッフなどからなる代表団が来日した機会をとらえ、当フォーラムでは、アメリカの大統領選挙や政治資金の現状等について話を聞くとともに、意見交換を行った。

◆ 大統領選挙

【経団連側】
日本では、アメリカの政治・経済に精通していると思われていた人でさえも、大統領選挙の仕組みが、今回報道されているように複雑なものであるとは知らなかった。アメリカの有権者も、大統領選挙の仕組みがこれほど複雑なものであることを知っていたのだろうか?
【訪日団側】
まず、いまだかつてこれほどの接戦になったことはなかった。だから、開票にあたって、これほど複雑な仕組みがあるとは知らなかった。

【経団連側】
フロリダ州での一件で、郡によって投票方法(投票用紙)が異なっているということが報道されていたが、実態はどうなのか?たとえば日本では、全国統一の投票用紙であるが。
【訪日団側】
その通りである。投票方法のバリエーションという点ではそれぞれの郡(county)においてそれほど差があるわけではないのだが、小さな点については、それぞれの郡が独自に決定することができるようになっている。
ただ、今後は、アメリカも全国統一フォームで実施してもらいたいものである。

【経団連側】
これまでに、何人もの日本の国会議員とお会いになっただろうが、個々の議員と話をしていて、政党間の主張の違いを理解することはできたか?
【訪日団側】
議員によっては、政党間の主張の違いについて具体的な説明をしてくれる場合もあったが、ほとんどの議員は、各政党間の主張にほとんど差はないと話していた。
今回の大統領選挙についても、両候補の政策にはさしたる差もなく、その小さな差を大きく見せようとするから、あのような「舌戦」が展開されたのだ。それもアメリカ流であると言えばそれまでなのであるが。

【経団連側】
日本は国政のレベルでは二院制を採用しているが、地方レベルでは一院制である。アメリカでは、連邦、州レベルでは二院制のようであるが、地方レベルではどうなっているのか?
【訪日団側】
州のレベルまでは、だいたい上下院の二院制を採用している。ネブラスカ州のみが一院制である。
州以下のレベル(市、郡等)ではほとんどが一院制で、また、はっきりとは党派別(共和党・民主党)に分かれていない。
議員についいても、州によって異なるが、議員職に専念している「フルタイム」型の議員と、議員職以外の職業を持っている「パートタイム」型の議員が混在している。

◆ ハード・マネーとソフト・マネー

【経団連側】
アメリカでは、企業は「連邦レベル(議会・大統領)」の「選挙資金」という2つの条件にあてはまる場合には政治寄付を行えない(ハード・マネー:※注1)が、それにあてはまらない選挙関連以外の州・地方レベルにおける政治資金については自由に寄付を行うことができるのか?
【訪日団側】
一般的にはそのように言えるが、州ごとにルールが異なっている。したがって寄付を行うにあたっては、それぞれのルール(※注3)に照らし合わせて検討する必要がある。
【訪日団側】
企業は政党の全国組織に対して寄付することも可能であるが、その場合には、政党サイドにおいて資金の使途が厳しく制限され、選挙運動に使うことはできない。(いわゆるソフト・マネー:※注2)したがって、有権者の教育プログラムや投票棄権防止運動等には支出可能だが、連邦選挙の結果に直接的な影響を及ぼすような形での使用は認められない。


※注1)
ハード・マネー:連邦レベルの選挙運動費用として調達・支出される資金で、連邦法によって規制される。(※図−1−(1))
※注2)
ソフト・マネー:連邦法の規制の枠外において調達・支出される政治資金で、本来は政党の日常活動費等、選挙には関係のない資金とされたが、実際はいわゆる「政治広告(issue ad)」等の形で選挙に影響を及ぼす資金となっている。(※図−1−(2))
※注3)
州・地方レベルの政治資金規制法:州・地方レベルの政治資金規制法は企業の献金には緩やかであり、多くの州では連邦レベルとは異なり、企業による直接献金も認められている。また、一般的に収支の公開制度も連邦レベルほど厳格ではない。
図−1:米国の政治資金制度の構図

◆ PAC ( Political Action Committee )

【経団連側】
アメリカでは企業が政党の全国組織に対して、選挙資金を寄付することはできないということだが、特定の政治団体を迂回させることによって、間接的に寄付をすることは可能なのか?
【訪日団側】
間接的な形であれ、企業から寄付された資金は、やはり政党サイドでは、直接、選挙のために支出することはできない。なお、「間接的」という意味では、PAC(※注4)を利用した方法がある。企業は、PACの設立・運営資金を負担して、特定の政党・候補者を支援することができるが、しかし、PACから政党・候補者に寄付される資金は、あくまでも個人献金を源泉とするものでなければならない。

【経団連側】
それでは、ある企業の経営者がPACに対して寄付をした後で、(企業が)当該経営者の所得に対して、寄付金額と同等の補填を実施することは問題ないのか?つまり、このケースでは、実際には企業が資金を出したにもかかわらず、個人名義で寄付がなされたように見せかけているわけであるが。
【訪日団側】
PACに対する寄付は、給与からの引き落としでも、個人名義の小切手を振り出しでも可能である。しかし、企業が個人の寄付に対して、後から(所得の)補填をするようなことをすれば、両者とも「監獄行き」ということになってしまう。

【経団連側】
政治資金の問題において、日米間の最も大きな相違は有権者の政治意識の違いにあると思う。日本では、個人が政党に対して寄付をするという習慣はほとんど根付いていない。アメリカでは、やはり政党・政治家に対する寄付は、企業ではなくて個人が中心なのか?
【訪日団側】
基本的には、個人ベースが中心である。(※図−2)
※図−2:候補者の資金ソース(1996年選挙、当選者)
【経団連側】
最近、アメリカでは、特に共和党がネットを通じて寄付金を集めているというような記事を目にしたのであるが、現状はどうか?
【訪日団側】
ネットを通じての活動もかなり活発に展開していることは事実であるが、今でも、最も大きな「収入源」は「個人対個人」の「対面形式」での活動である。


※注4)
PAC(Political Action Committee):政治行動委員会。企業、労働組合、業界団体、イデオロギー団体等が特定の政党・政治家を支援するために組織した政治資金の「再配分機関」。個人から幅広く寄付金を募り、支持する議員、候補者または政党へと献金する資金調達のための政治団体。法改正により、企業がPAC の設置と運営の経費や、寄付金を集める費用も負担することができるようになったため、いわゆる企業系のPACが急増することとなった。


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