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企業人政治フォーラム速報 No.75

PDFファイル版はこちら 2000年12月14日発行

崖っぷち日本 起死回生の処方箋
─ 企業人政治フォーラム 加納時男参議院議員講演会
(11月22日)

当フォーラムでは、去る11月22日に加納時男参議院議員を招き、講演会を開催した。

【最近の政局をどう見るか】

私は、企業人出身であり、企業人政治フォーラムの会合に招かれたというより「戻ってきた」という気持ちで嬉しく思う。自民党内は「政策」に強い議員と「政局」に強い議員が連合した政党である。私はどちらかと言えば政策を専門にしているが、やはりはじめに、最近の政局の一連の動きについて、党内から見た感想を申し上げたい。
今回、野党が提出した内閣不信任案に自民党の一部の人たちが乗って森政権を不信任に追い込もうという動きは、結果的に不発に終わった。与党の中核勢力が野党に加担して不信任案可決を狙うというのは、政界の筋論としては許せないのと考えるのが当然であり、やるなら党を離れてということになる。しかし、もう一つの観点からすれば、自民党、政党政治、そして今の日本がまさしく崖っぷちにあり、その中でとりわけ自民党の旧態依然とした体質が問われていると言うことも出来る。

【問われる自民党の体質】

私は、党内では無派閥であり、自分では「加納派」と称して言いにくいことも率直に物申しているが、自民党の旧態依然とした体質をあえて言葉で表現すると、「古い、ダサい、知性がない」ということになると思う。
「古い」というのは、利益誘導やポストをちらつかせて言うことを聞かせたり、仕事をまわす代わりに票をよこしてくれというもので、これは「都市的な感覚」を持った人たちには全く受け入れられない。私は、日本が海外から尊敬されるような国になるために、「国民全体」に対しての利益誘導なら積極的にやるべきだと考える。しかし、特定の個人、組織、業界への利益誘導はするべきでない。自民党の「古さ」は、組織のあり方にも表れており、上から下に「指令」して、「締め付け」を入れるというやり方は今では反発を受けるだけである。私は、企業の現場にいた時代から、「末端」、「浸透」といった言葉を使うべきでないと思い、「第一線」に「理解」を求め「自主的」に行動してもらうことを心掛けてきたが、これからは政治においても、理念や政策を「訴えて」、「共感、共働」を得られるような運動が求められる。
「ダサい」というのは、例えば、テレビに出るときに暗い表情をする政治家が多いが、今時の映像時代には、言葉の役割はせいぜい2割、8割は表情である。もっと明るい表情をしてテレビに出る必要がある。

【党の意思決定にアカウンタビリティを】

古い、ダサい、知性がないという訳だが、では自民党はもう駄目かというと、私は決してそうは思わない。逆に、悪い点がわかれば、そこを解決していけば良いのである。古いと言われるなら、古くなくすれば良い。
例えば、密室で物事を決めるのはやめるべきである。その点、今回、参議院の比例代表選挙に非拘束名簿方式が導入されたことは非常に良かったと思う。有権者が政党を選ぶという比例代表制は良い制度であるが、これまでは、候補者名簿の順番をどう決めるかが問題であった。自民党では、従来から、党本部が客観的な基準に基づいて順位を決めてきたが、いくつかの基準を総合的に勘案せざるをえないために、「密室的」だと疑いを持つ人がどうしても出てくる。これが非拘束式になれば、国民が直接投票で順位を決めることになるので、誰がどう見ても一番客観的で透明性がある。
全体として、党の意思決定プロセスを目に見えるようにし、アカウンタビリティを高めていくことが重要である。

【人材配置は適材適所で】

人材の配置も、当選回数などにとらわれず適材適所で行なうべきである。いまのところ、衆議院は当選回数で序列が決まる面が大きい。一方、参議院は、議員の出身が、医者や弁護士、省庁の次官や大学総長、知事などハイレベルの人たちが多いこともあり、1回生でも重要な仕事を任せてもらえる。当選回数を問わず適材適所でやれば、国民も自民党は変わったと感じると思う。

【都市化した人に支持される政党に】

先の総選挙において、自民党は都市部で大きく敗退したが、これを地域的な問題としてとらえるべきではない。「都市化した人」に受け入れられなかったと認識すべきであり、いまや日本全体が「都市化」している以上、深刻な問題として捉える必要がある。単に都市部に金をばらまくだけでは、「都市化した人」の支持を得ることは出来ない。むしろ、経済にしても財政にしても、日本の良いところ、悪いところを率直に説明し、日本の活力をどう回復していくか、国民全体の問題として一緒に考え、負担していこうと訴えることこそが、都市対策の第一であると思う。
いずれにしろ、悪いところがわかればその解決策は必ずあるのであり、必ず党は再生できると思う。自民党内には優れた人材がたくさんいる。「古い、ダサい、知性がない」という欠点を改めて、「新しい、格好いい、知性的な」政党にしていかなければならない。

【企業人は政治にもっと参加を】

政治の世界に入って驚いたが、今の政界には、政治家の二世、三世、議員秘書、地方議員、公務員など、職業政治家的な人たちがあまりにも多いと感じられる。医者や弁護士など違う分野の人もいないことはないが、全体として選挙地盤の世襲化が進んでいる。とくに、当選回数が重視されるとなると、若いうちから議員にならねばならず、官僚でも課長クラスで転身、さもなければ、二世か三世ということになってしまう。政治以外のある分野を究めてから政治家になることが大変に難しい。
企業人の立場としては、あまりにも政治と経済との距離が開いてしまっていることを痛感している。企業人が政治にもっと参加してほしい。投票、意見表明など様々な手段があるが、いちばんありがたいのは人材の参加である。一般論としては、政治家と経済界は適切な距離を置くべきだが、今はあまりにも距離が空きすぎており、経済のことをよく理解した人が、もうすこし政治の世界に参加してほしい。

【国会議員としての活動】

政治家になってみてわかったが、意外と言っては何だが、国会にはやることがたくさんある。私は、参議院でも、重要な仕事をさせていただいている。また、国会での発言が非常に「効く」ということもわかった。例えば、中小企業対策として、中小企業融資保証の増額や開銀融資の対象拡大を国会で発言したところ、直ちに実現した。党でも、毎日早朝から、税調、政調などの部会を開催して各分野の政策を勉強している。単に、役所が政策を作り、自民党が言うことを聞いている訳ではない。政策の基本方針は、党の承認なしには決まらないし、党がイニシアチブを発揮して政策が動きだすことも多い。党の政策マンがどんどん発言していけば、自民党も変わったと見られるようになるだろう。
最近の私個人の政治活動としては、まず、外形標準課税問題については、経団連の考えと同じである。その他では、自動車、相続税、環境関係の税制について議論している。また、訪問販売法改正に携わった。さらに、党のエネルギー総合政策小委員会は、衆参議員70名以上が参加する党内最大の委員会であるが、私はその事務局長を務めている。4月にスタートし、半年で19回会合を開催、中間報告を2回行なった。近々3回目の取りまとめを行なう。


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