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企業人政治フォーラム速報 No.90

2001年12月17日発行

丹羽雄哉 衆議院議員

当面の重要政策課題
(12月11日政経懇談会)

 12月11日の政経懇談会では、衆議院議員の丹羽雄哉自民党医療基本問題調査会長を招き、医療制度改革を中心とした「当面の重要政策課題」について話を聞いた。

【医療保険制度改革の背景】

 医療保険は、本来短期的な性格のもので5年や10年も持つ制度ではない。特に少子高齢化の進行の中で、医療費の膨張が避けられない構造となっており、わが国のみならず、諸外国でも共通の問題を抱え、四苦八苦している。日本の医療は診療報酬や薬価が護送船団方式に守られており、その中でパイを分け合うという色彩がある。今回の医療制度改革大綱を取りまとめるに当り、政府と党が対立したようにいわれているが、必ずしも真相を伝えていない。

【厚生労働省試案は今までの延長線上】

 9月25日にまとめられた、厚生労働省試案について改めて説明させていただく。

  1. 現在の若人の患者負担を2割から3割に変更する。
  2. 老人医療の対象を75歳まで引き上げ、70歳以上74歳以下の患者負担を上限付ではあるが、1割から2割へ引き上げると同時に、医療費の総枠管理制度を行なう。
  3. 平成15年度から、ボーナスからも保険料を徴収する総報酬制に移行する。
大きくこの3点がポイントである。
 この厚生省案は、今までの案をひきずって財源を埋めることであり、最初から厳しく疑問を投げかけてきた。特に患者負担を1割から2割に引き上げたのが5年前で、それには13年かかった。その間様々な議論があり、引き上げ時には医療改革に乗り出すと国民に約束をした。それが十分にできていない段階で2割から3割に引き上げることは安易な道であり、仮に3割から4割まで引き上げるとなると、もう保険としての意味がなくなってしまう。申し上げるまでもなく、保険はできるだけ数多く幅広く保険料を徴収し、何かあった時に負担はできるだけ軽くするものである。この負担が重くなることは、保険制度の性格上好ましくない。

【抜本的改正のためには】

 まず保険料を上げることを考えるべきである。保険料は政管健保でも変動しており、今のように景気が悪いとなかなか保険料が集まらないが、景気が良くなれば保険料収入は上がっていく。その前に、もっと違った形での医療改革による医療費抑制があってしかるべきである。というのは、ほとんどの医療サービスが対象となる保険制度は限界に来ている。公的保険の対象の範囲にはおのずと限界があり、それ以外は混合診療のような自己負担を認めないとやっていけないとかねがね考えていた。
 また、以前から主張していたことであるが、高齢者の医療費負担を相応にしていただく。つまり若年層の負担が少子高齢化の中で大変重くなってきている。年金にしても若年世代の方は、自分の納めた保険料が戻ってこないといわれている。医療においても老人保健拠出金で、若年世代の保険料が老人の医療費に消えているのが実態である。お年寄りは社会的弱者であるが、一律経済的弱者とも言い切れない。1,400兆円の金融資産の半分が60歳以上のものである。日本には貯金が多すぎ、それが流動化しないことが景気悪化の大きな要因である。今後お年寄りの方々も資産を残す考えを少し弱めていただき、自分で稼いだものは使い切るつもりで行かないと世の中が回っていかない。

【医療制度改革大綱のポイント】

 そこで、与党ワーキング・チームでは、以下の考え方を取りまとめ、最終的にそれが大綱に反映された。
 1点目として、70歳以上の高齢者の負担は原則一律1割とするが、ある程度の所得がある人は2割負担となる。ある程度の所得がどれくらいなのかは、第二幕での論点となる。
 2点目は給与所得者の3割負担の問題であるが、まず保険料で対処すべきであり、その前に医療費抑制を図るべきである。現に総報酬制が平成15年度から導入されるのならば、医療費負担を3割にしなくても十分対応できる。
 3点目は医療費の総枠管理制度の導入についてであるが、これは基本的な考え方が間違っているし、老人医療費だけを総枠管理にすると、老人医療の多い診療科だけがカットされることになる。官僚統制的な発想であり、皆保険制度の基本を損なう。統制経済的なものの拡大は容認できないとしてガイドラインになった。最終的には、経済成長と老人の増加率の枠内に収めるということを訓示規定として法律に明記し決着がつくのではないか。
 一番大きな問題は、高齢者の医療制度がずっと店晒しになっており、結論がでなかったということであるが、この大綱の中には方向性が示された。今後、高齢者の医療制度ができた場合は、75歳以上を対象とする。それまでは70歳以上を一気通貫にする。つまり74歳までは突き抜け方式とし、75歳以上は独立型で高齢者の医療制度を作り上げることが明白に方向付けされた。いつできるかは経済情勢や国民世論の支持によるが、これによって介護保険と同じような整合性を持つ高齢者の医療制度を持つことができる。一番大きく変わる点は、高齢者の医療制度の中で収支の帳尻を合わせることで若年層からの負担に歯止めをかけることができることである。

【これからが第二幕である】

 今までは第一幕で、いよいよ第二幕が始まる。最大の問題は来年度予算の設定である。14年度の医療費の国庫負担当然増が5,500億円である。そのうちシーリングで2,700億円が認められており、残りの2,800億円を消していって0になると予算編成の完成である。薬価差7.1%から流通経費の2%を残した5.1%を縮めることで700億円、制度改正、高齢者の1割完全定率等により、約1,000億円捻出できるが、あと1,100億円残っている。1つは先発品(パテントの切れた薬)をどこまで引き下げられるか、もう1つは診療報酬にどこまで切り込めるかで、専門的には深掘りといっている。最終的にはこの2つの綱引きになるであろう。

【医療改革は7合目】

 マスコミは医療改革について何かあると先送りというが、医療保険は常に改良することが必要である。そのためには1つの方向性を示して見直していかなければならない。今回の大綱により医療改革は7合目くらいまで来ている。これに高齢者の医療制度が創設されれば、初期の目的は達成される。それから必要に応じて手直しをしていけば良い。今後は、公的病院の役割や、高額医療のあり方、臓器移植の問題なども整理や見直しをしていく必要がある。


[丹羽雄哉衆議院議員プロフィール]
にわ・ゆうや 1944年茨城県生まれ。1979年の初当選後、医療・福祉を中心に歩み、宮澤内閣で厚生大臣を経験した。その後自民党政調会長代理などを務め、金融再生関連法案やガイドライン法案のとりまとめに尽力し、介護保険導入を控えた小渕第二次改造内閣で2度目の厚生大臣を務めた。

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