[ 経団連 | 企業人政治フォーラム | 速報目次 ]

企業人政治フォーラム速報 No.96

2002年3月28日発行

企業人政治フォーラム臨時総会・講演会

企業人政治フォーラムの活動強化方針と会員拡充の施策を決定
―企業人政治フォーラム臨時総会・講演会開催―

 3月18日(月)、企業人政治フォーラム臨時総会を開催し、今後の活動強化方針を決定するとともに所要の規約改正、予算措置について可決、承認した。また、総会後、森本敏拓殖大学国際開発学部教授を招き、わが国の安全保障について講演していただいた。

【今後の活動強化方針】

本年5月の経団連と日経連との統合による日本経済団体連合会の発足を機に、これまで以上に政治との関係を強化し、政策提言の実現力を高めていくとの基本的な考え方に沿って、当フォーラムでは以下の3つの課題に重点的に取り組んでいくこととした。

  1. 全国各地の経済団体との連携を強化し、講演会・シンポジウムを各地で開催し、地方の会員の声を政治に反映させる。
  2. 会員企業の若手・中堅管理職を対象とした企画を充実させる。
  3. インターネット上に会員専用のサイトを開設し、会員との情報交流サービスを向上させる。

【主な規約改正点】

  1. 会員資格を新団体とこれに準ずる経済団体の会員企業・団体に拡大した。
  2. 個人会員及び、法人会員の登録対象を非管理職へ拡大した。
  3. 法人会員の登録者数を1口当り25名に拡大し、地方在住者の参加を促進することとした。
  4. 個人会費を役員5,000円、社員・職員2,000円に引下げ、会員勧誘に努めることとした。


森本敏教授講演要旨
「日本の安全保障を考える」

森本敏教授

【安全保障とは】

安全保障は近世ヨーロッパで発達してきた概念である。その主体は本来、国・国家であったが、今日では国だけではなく、国家群、国家の位置する地域や国際社会、また、国を構成するグループ、地域、あるいは個人の安全まで議論されるようになり主体が広がっている。従って、その対象も従来のような軍事脅威だけでなくテロや大量破壊兵器の拡散など各種の危険・リスクも安全保障の中に含めなければならない。
安全保障の機能には、敵からの攻撃を排除して本来の機能と目的を守る「対応」と、敵が手を出すことによって得る利益よりもはるかに甚大な被害を被ると思わせることによって攻撃を未然に防ぐ「抑止」の2つの機能が相まって、国家や身の安全を維持している。さらにそれよりももっと前段階に位置する機能が「予防・防止」であり、周辺諸国と良好な関係を維持する外交努力等がこれに当る。

【アフガン以降の米国の軍事展開】

昨年9月11日の同時多発テロ事件後、米国はこれから何年、あるいは何十年かかっても冷戦後の国際社会の中に存在するテロ根絶のために戦い抜くとの強い決意を明らかにしている。アフガニスタンでの作戦に概ね決着がついたら、次の目標を順序立てて攻撃するであろう。当面はフィリピン、イエメン、ソマリアに目標を定めるだろうがその先はわからない。「米国はイラクを攻撃するのか」との質問に対して、ブッシュ大統領は「あらゆるオプションを開けておく」と答えている。どのような方法でいつ実行するのかはわからないが、長期的、戦略的に作戦を遂行すると思われるので、次の大統領選挙までに確実に目標を達成し、共和党政権が再度大統領選挙に勝つことをレンジに入れているのではないか。日本として、米国の次のフェーズの作戦にどのように付き合うかがこれからの同盟関係と国際社会の秩序にとって大事な意味を持っている。時限立法のテロ対策特別措置法を中東湾岸地域の紛争に適用することの是非を含め、日本は難しい対応を迫られるだろう。

【北朝鮮情勢】

米国は北朝鮮に対してもオプションをオープンにしている。場合によっては何をするかわからない状態を常に作っておくことが米国の戦術であろう。他方、北朝鮮は米国の動きに神経をとがらせており、昨年の不審船事件も沖縄の米軍基地を対象とした情報収集活動の一環の動きと捉えられる。さらに、不審船の引き揚げ問題や日本人拉致疑惑問題等により日朝関係が難しくなってくる。最も深刻な問題は北朝鮮のミサイル問題である。日本本土が射程に完全に入っている多数のミサイルが配備されている。この問題は米朝交渉にのみ任せず、日本自ら北朝鮮と交渉するべきである。

【有事法制整備の課題】

1977年の来栖統合幕僚会議議長の超法規発言以来、有事法制整備の必要性が認識され、防衛庁の部内で研究されてきたが、最近まで国会で議論されたことはなかった。97年にガイドラインができ、それに基づき99年に周辺事態法ができた。これが周辺有事であり、外堀が埋まった。次に日本が武力攻撃を受けた時の法整備が必要で、これが有事法制である。
ここ10年、湾岸戦争で人質がとられたり、ペルー大使館公邸のゲリラ人質事件、火山の噴火、阪神大震災、そして去年のテロと色々な目に遭ったが、いずれも日本が武力攻撃を受けたのではない。有事と政府がいっているのは、日本が他国から武力攻撃を受け、自衛隊法第76条に基づいて日本が防衛出動し、それを排除する行為を行なう事である。一般の国民の内心は、テロや大規模災害の身の回りの危険にあり有事ではない。国民が本当に心配なことをまず処理せずに、日本が攻撃された時の法整備を考えることはなかなか難しい。
もう1つ大事な点は、憲法で認められた基本的人権、憲法第13条から29条に到る個々の権利の制限である。有事には私権を制限して、できるだけたくさんの国民の安全を維持することが必要となる。緊急事態に対して、首相あるいは大統領に権限を持たせて、私権を制限し国民を救う権利を憲法上認めていない国は先進諸国では日本だけである。したがって、有事法制の議論をつきつめると最終的には憲法の議論になるであろう。


[森本敏氏プロフィール]
もりもと・さとし 1941年生まれ。70年防衛大学理工学部卒業後、防衛庁入省。77年から外務省に移り安全保障政策や軍備管理を担当。92年から野村総研にて安全保障や国際政治問題を研究。安全保障政策の第一人者として知られる。現在は拓殖大学国際開発部教授、PHP研究所主任研究員を務める。

企業人政治フォーラムのホームページへ