第63回経団連定時総会における今井会長挨拶

今こそ、日本経済の構造改革の断行を

2001年5月25日(金)
於 経団連会館 14階


〔はじめに〕

  1. 本日は、会員の皆様には、大変ご多忙のなか、経団連の第63回定時総会に多数ご出席いただき、誠にありがとうございます。
    また、平素より、経団連の活動に対し、ひとかたならぬご支援、ご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。

  2. 私は、経団連の会長に就任して、今年で4年目を迎えることとなりました。
    この間、わが国経済は、98年にマイナス成長を記録いたしましたが、その後、景気回復を最優先したあらゆる政策の総動員と、企業の懸命な努力が効を奏し、昨年の前半には、緩やかな回復軌道に乗りました。
    しかし、秋以降の米国の景気後退等の影響もあり、経済の先行きは、再び予断を許さない状況となっております。

  3. わが国経済が、現在もなお、民需主導の自律的な回復軌道に乗らないのは、不良債権、過剰債務に象徴される、様々な構造問題の解決を先送りしてきたからに他なりません。
    企業、政府それぞれが、強い決意のもと、抜本的な構造改革を進めない限り、本格的な景気回復は期待できません。
    幸い、4月に発足した小泉新内閣は、「聖域なき構造改革」に取り組む姿勢を鮮明に打ち出し、国民からも高い支持を得ております。
    他方、構造改革には痛みを伴うことから、その実現に向け、様々な障害も予想されます。
    われわれ経済界は、対症療法的な政策は求めず、政府とともに、今こそ構造改革を断行し、新しい世紀にふさわしい、民主導の活力ある経済社会を構築していかねばなりません。

〔企業の構造改革〕

  1. 構造改革は、何よりも先ず企業自らが、主体的に取り組むべき課題です。
    自立、自助、自己責任の原則のもと、無駄な贅肉をおとし、基礎体力を強化するとともに、新たな成長基盤の確立が強く求められております。
    そのためには、先ず、先の緊急経済対策が指摘したように、2〜3年以内に「金融機関の不良債権問題と企業の過剰債務問題の一体的解決」をはかり、バランスシートを改善しなければなりません。
    この過程では、過剰な債務を抱え、なかなか再建のめどがたたない企業に対しては、早期に市場からの退出を促すという、強い覚悟が必要であります。
    併せて、雇用対策の機動的な実施も必要になってくると思われます。
    企業は、「選択と集中」の原則のもと、不採算部門を切り離し、高収益部門へ資源を集中するなど、組織の再編、合理化を進めていくことが不可欠であります。
    そのためには、効率的な企業経営や企業統治のあり方について、例えば株主代表訴訟制度の見直しを含め、商法、税制等の抜本的な改正が不可欠です。
    そこで、経団連では、産業競争力会議や産業新生会議などの場を通じて、会社法をはじめとする経済法制の整備を政府に働きかけて参りました。
    この結果、産業活力再生法が制定されたほか、純粋持ち株会社の設立や、企業組織の再編を円滑に行なうための企業法制と税制の整備が実現しました。
    われわれ経済界は、このような諸制度を存分に活用し、更なる体質強化に努めなくてはいけないと存じます。
    政府に対しましては、引き続き、商法の抜本改正や連結納税制度の導入など、残された制度改革の確実な実施を求めるとともに、証券投資税制の整備など、資本市場の活性化策を働きかけて参りたいと存じます。

  2. 企業は、こうした構造改革を進めていくと同時に、日本経済の将来の発展を担う、新事業、新産業を育成し、新たな成長基盤を確立していく必要があります。
    例えば、近年の米国の高成長の大きな要因は、IT革命の推進による生産性の飛躍的な向上や、インターネット関連のニュービジネスの誕生などでした。
    日本でも、最先端のIT国家を目指し、e-Japan戦略による情報通信の基盤整備が急速に進められています。
    この結果、従来型のインターネット・ビジネスに加え、情報家電や次世代型携帯電話を活用した、新しいビジネスが拡大していくことが期待されます。
    また、経済発展の原動力となる技術革新の推進も重要な課題です。
    バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、リサイクル・省資源等の環境関連テクノロジーなどの活用によって、食料、健康をはじめ、広範な分野のビジネスに、新たなフロンティアが生まれつつあります。
    技術開発に果敢に挑戦する企業を支えるため、政府の役割も大変重要であります。
    産学官の連携・協力による研究開発、政府の総合科学技術会議による戦略的・総合的な科学技術政策の実施などが、強く求められます。

〔政府の構造改革〕

  1. さて、わが国の景気が長期に亘り不振を続けている大きな要因の一つとして、消費の低迷があげられます。
    これは、国民が、将来の生活に対して抱いている、不安感の表れに他なりません。
    また働く個人と同様、企業にとりましても、将来の社会保障や地方税の負担増は大いに懸念されます。
    国、地方を合わせて666兆円、GDPの130%に達する債務残高を抱える財政の改善策と、持続可能な社会保障制度のあり方、そして将来の国民負担全体の姿を、政府は明確に、国民に提示しなくてはなりません。
    その上で一日も早く、財政構造改革に着手すべきであります。
    財政再建にあたっては、小泉総理も提唱されているように、先ず、来年度予算で国債の発行を30兆円以下に抑え、次に、国債発行を国債費の範囲内にとどめる、プライマリーバランスの達成をはかることを当面の目標にすべきであります。
    同時に、関連する諸制度の改革が急務です。
    その第1の課題は、社会保障制度の改革であります。
    わが国の老年人口の生産年齢人口に対する比率は、今後大幅に上昇すると見込まれます。
    こうした高齢化のなかで、例えば、高齢者向けの独立した新たな医療制度を構築し、負担能力のある人には受益に応じた拠出を求めていく必要があります。
    第2の課題は、地方財政の改革です。
    地方においても財政規律が働くように、国と地方の事務分担、税財源配分を見直し、地方自らの財政健全化努力を促していく必要があります。
    更に、地方分権化を推進するための受け皿として、3000以上ある市町村の合併の推進が不可欠です。
    第3の課題は、公共事業の徹底した見直しです。
    高コスト構造の是正に繋がる事業への重点化と、管理・運営を含めた事業の効率化が必要です。
    こうした財政面の改革を通じて、国民や企業が将来に不安を抱かず、安心して生活や経済活動を行なえるようにすることが、景気対策として最も必要だと思います。

  2. 民主導の活力ある経済社会を構築していくためには、このような財政構造改革に加え、政府が行政改革や規制改革を進めていくことが不可欠です。
    行政改革で特に重要なのは、巨額の財政投融資及び財政資金が投入されている特殊法人等を、事業の必要性や採算性、民業補完の徹底といった観点から、見直していくことです。民がやるべきことは民にまかす必要があります。
    また、郵政三事業は2年後に公社化されますが、郵便事業への民間参入の大幅な拡大を先ず実現するとともに、さらなる改革を進めていく必要があります。
    規制改革については、総合規制改革会議に対して、規制改革3か年計画の前倒し実施や、医療・福祉、教育、雇用など、制度改革を伴う分野を含めた、抜本的な見直しを働きかけたいと存じます。

〔国際的課題〕

  1. 次に、わが国が直面する国際的課題に触れたいと存じます。
    企業活動のグローバル化が急速に進むなか、多国間の貿易、投資の自由化やルールの整備が、従来にも増して重要となっています。
    そこで、本年11月に、カタールで開催される第4回のWTO閣僚会議の場で、包括的なアジェンダを含む新ラウンドの開始を合意できるよう、わが国が強力なイニシアティブを発揮する必要があります。
    他方、140カ国が参加するWTOでの自由化やルールの策定は、時間のかかる大変な作業であります。
    そこで、WTOを補完すべく、自由貿易協定を二国間や地域レベルで推進していくことも、わが国にとって重要な課題です。
    すでに、シンガポールとの間では、本年末までの締結を目指し、わが国として初めての交渉が進められております。
    これをまず成功させ、韓国、メキシコなどの国々との協定締結につなげていく必要があります。
    また、私は、4月にタイ、シンガポールを訪問いたしました。
    両国からは、官民をあげて、日本との経済関係の一層の緊密化への強い期待が表明されると同時に、ASEANの結束強化がアジアの安定につながるとの認識のもと、ASEAN自由貿易地域(AFTA)の実現に対する協力を求められました。
    こうした期待に応え、アジア諸国の、人材、裾野産業、IT分野等の産業基盤の強化に、官民が協力して支援し、地域の発展と連携の強化に貢献していくことは、わが国にとって極めて重要であると思われます。

  2. 地球温暖化問題につきましては、昨年ハーグで行われたCOP6で、京都議定書の詳細をめぐり参加国の合意を得ることができませんでした。
    その後、本年3月には、米国政府が京都議定書からの離脱を表明しております。
    経団連といたしましては、日本政府に対し、米国を含む枠組みの早期実現に努めるよう働きかけると同時に、自主行動計画に基づく温暖化対策を進めるなど、責任ある取り組みを続けて参りたいと考えております。

〔おわりに〕

  1. 最後になりますが、政治情勢について一言ふれたいと存じます。
    これまで述べたような、構造改革を着実に推進するためには、経済界の考え方を直接政治に伝え、その実現を働きかけていくことが、ますます重要となっております。
    そのためにも、われわれ経済界は、もっと政治に強い関心をもたなければなりません。
    こうしたことから、3年前に加納時男さんをわれわれの代表として政界に送り出しました。今回は、優れたエコノミストである伊藤忠出身の近藤たけしさんに、是非、国政の場に参画して頂きたいと考えております。
    是非、皆様のご理解とご支援をお願いいたしたいと存じます。

  2. 経団連は、民間活力を自由に発揮できる経済社会を実現するための、優れた政策提言能力と実行力を有する真の総合経済団体を目指して、来年5月に日経連と完全統合し、「日本経済団体連合会」として、新たなスタートを切ります。
    すでに、日経連とは社会保障などの一部の委員会では共同で意見を取りまとめるなど、できるところから一体化を進めています。
    新団体の設立を通じ、わが国が直面する広範な課題に、従来以上に、柔軟かつ大胆に取り組み、迅速かつ着実な解決をはかってまいる所存です。宜しくお願い申し上げます。ご静聴ありがとうございました。

以 上

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