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日本経済団体連合会総会における奥田会長就任挨拶

2002年5月28日(火)
於 経団連会館


このたび、経済団体連合会と日本経営者団体連盟が統合して、新たに日本経済団体連合会が発足し、会員の皆様方のご推挙により、初代会長として選任を受けました、奥田でございます。

私は、これまで両団体が築いてきた貴重な資産を活かしつつ、「活力と魅力あふれる日本」を目指して、個人や企業が充分に活力を発揮できるような環境整備に全力を傾注する所存でございます。その責任の重大さに、身の引き締まる思いがいたしますが、会員の皆様方のご支援、ご協力を得て、職務を全うしてまいりたいと存じます。

今井前経団連会長におかれましては、日本経済が未曾有の危機に瀕するなかで、4年間、優れた識見とリーダーシップにより、各種の制度改革の実現を政府にねばり強く訴えられ、その大きな流れをつくっていただきました。この間の多大なる貢献に対しまして、改めて敬意と謝意を表する次第でございます。

さて20世紀のわが国は、第二次大戦の前後を通じ、欧米へのキャッチアップを目指して、主に物質面での豊かさを追求してまいりました。それは国民の目標、価値観として共有され、その巨大なエネルギーが、高い経済成長と生活水準の向上を実現する原動力となりました。この間、経団連、日経連の両団体も自由主義経済の安定化に貢献して参りました。

しかし、いまやわが国は、明治維新や第二次大戦などに匹敵する、歴史上の大きな転換点を迎えております。欧米へのキャッチアップを達成する一方で、グローバル化や情報通信革命、少子化・高齢化の急速な進展、さらには地球環境問題の高まりといった大きな変化が、同時並行的に進展しております。

そうしたなかで、わが国は、もはや欧米を手本とすることなく、自ら国のあり方を模索し、また新たな発展の道を見出さなければならないという、新たなステージに入っているものと存じます。

このような時代におきましては、経済団体も新たなかたちで、より幅広く、力強い活動が求められております。具体的に申し上げれば、社会保障の問題などに端的に見られますように、経済や産業に関する課題と、人や社会に関する課題とを別々に考えることができなくなってまいりました。こうした考えに立ちまして、新団体の発足というはこびになった次第でございます。

私は、新しい経済・社会の発展の原動力として、物質面での豊かさに加え、精神面の豊かさを求めるエネルギーを位置づけてはいかがかと考えております。私は、物質的な豊かさと精神的な豊かさを単純に対立させて論じようというわけではありませんし、精神的な豊かさと申しましても、趣味の世界で心静かに過ごすというような、内向きで停滞的なものでもありません。

私が考える精神的な豊かさとは、いわば人々がそれぞれの多様な個性を活かし、自分らしく生きることを通じて得られる充実感ともいうべきものであります。もともと人間は多様な価値観を持つものであります。しかし、20世紀のわが国は、物質的な豊かさを追求する中で、画一化な生き方を志向しすぎてきたきらいがございます。

21世紀のわが国は、精神的な豊かさを追求することを通じまして、日本人をこれまでの画一的な生き方から解き放ち、さまざまなかたちで個の確立、自立を促す社会を築いていくことが求められるのではないかと思います。それが、ひいては、経済的な豊かさの中にあっても、それに堕することのない、確固たるアイデンティティを持った精神をはぐくむことにもなると考えるのであります。

当然、企業のあり方も、より多様なものにしていく必要がございます。個人や企業が、それぞれ多様な目標を持ち、その実現に向かって多様な活動を展開する、そのエネルギー、ダイナミズムこそが、新しい経済、社会を創造し、また新しい市場、技術、雇用を生み出していくものと存じます。そうした多様性のダイナミズムのなかには、当然、海外のすぐれた人材、技術、ノウハウの活用ということも含んでおります。

また、国際社会に目を転じましても、多様性というものがますます重要な意味を持って参ります。21世紀は、多様な価値観、多様な社会体制を持つ国家が共存し、人権の確立、貧困の克服、あるいは地球環境問題の解決といった共通の課題に、それぞれの立場で取り組んでいく国際社会の構築を目指していく時代である、と申し上げられるものと存じます。

そうした経済社会を目指す時、その土台として、国内においては国民の間に、また国際社会においては国家の間に、「共感と信頼」が満ち溢れている状況が必要となります。他者が自分と異なるものを求め、生きていることを理解し、尊重する心、そうした「共感と信頼」が国民の間に形成されていなければならない、ということでございます。

同様に、わが国が真に開かれた国として、国際社会のなかで生き、貢献していくためには、わが国自身が「共感と信頼」を寄せられる存在となることが重要でございます。

私は、この新しく生まれた日本経済団体連合会の会長として「多様な価値観が生むダイナミズムと創造」、そして、それを支える「共感と信頼」を基本的な理念として、行動してまいりたいと考えております。

いささか抽象的でございますが、私は、わが国にとっての21世紀は、多様な価値観を育み発展させる「こころの世紀」にしなければならないと考えております。そして、それを担うのは内外に開かれた、活力と魅力ある国を創りあげていこうという「志」であります。

日本経済団体連合会は、そうした「志」を高く掲げ、新しい役員一同、そして事務局一同が心を合わせ、力を合わせて、日本の経済、社会が直面する諸課題を果敢に乗り越えていかねばなりません。

我々は、政治の強力なリーダーシップにも期待しながら、新たな発展への道を自ら切り拓く先頭に立ちたいと願っております。

最後に、会員の皆様のなお一層のご指導、ご鞭撻をお願いいたしまして、ご挨拶とさせていただきます。

以 上

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