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第1回STSフォーラム(科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム)における奥田会長講演

2004年11月14日(日)
於:国立京都国際会館

日本語版(スピーチは英語

ご紹介有難うございます。
STSフォーラムの開会にあたり、日本の産業界を代表いたしまして、ご挨拶を申し上げます。

現代社会は、人類の叡智によって開拓された、科学技術の蓄積の上に展開されております。
科学技術の発展は、人々に、素晴らしい豊かさや快適さといった「光」をもたらした一方で、環境問題や、安全に関わる問題、人間の尊厳自体に係る倫理的な問題など、地球規模で対応が必要な、多くの課題、「影」も提起しております。
これらの、科学技術の「光と影」は、我々、産業界の活動にも大きな影響を与えるものであります。
我々人類が地球上で繁栄を続けていくためには、科学者、政治家、企業経営者など、様々な立場にある関係者が一堂に会して、問題の解決に向けた議論を続けていかねばなりません。
本フォーラムは、まさに、そのような議論の場であり、本日、世界中からお越しの皆様と共にこの場に参加できることを、大変嬉しく思っております。

本日は、科学技術の「光と影」の一つの典型である、環境・エネルギー問題について、少々、お話してみたいと思います。
日本経団連では、昨年1月に、あるべき日本の姿を描いた「活力と魅力溢れる日本をめざして」と題するビジョンを発表いたしました。
そして、このビジョンの中心的な考え方の1つと致しまして、消費者、政府、企業が、ともに「環境」を重視した活動を進めることで、新しい日本の成長モデルを構築することができるのではないかと提唱致しました。
20世紀は、大量生産、大量消費、大量廃棄の時代でありました。
それは、反面で、地球環境の破壊やエネルギー資源の枯渇、廃棄物の増大などに直結しております。
この、負の循環を絶ち、新しい社会システムを構築の実現を支えていく鍵は、やはり、科学技術にあると考えております。
ご承知のとおり、日本は、小さな国土で、かつ、エネルギー資源をほとんど持ちません。にも関わらず、わが国は、記録的な経済成長を続けて参りました。
この成長は、省エネルギーや省資源、公害防止技術などの世界最高レベルの技術によるものであります。
例えば、わが国の、GDP当たりの一次エネルギー消費量やGDP当たりのCO排出量は、世界最高水準にあります。
これらを踏まえ、私は、わが国がこれまでに経験し、蓄積してきたノウハウや技術を、積極的に世界に発信することで、新しい循環型社会の構築に向けた、貢献を果たしていくべきではないかと考えております。
例えば、企業は、省エネルギーや環境保全に関する新技術やビジネスモデルを世界市場に積極的に投入し、公正な国際競争を行うことで、より環境に適合し、社会のニーズに合致した製品開発を推進する必要があります。
同時に、世界中の消費者の環境への意識の高まりは、各国政府や企業の環境への取り組みを、一層、後押しすることに繋がることでしょう。
さらに、政府レベルでは、新たな技術革新が加速するよう、大規模な基礎研究への国際協力の推進や、地球温暖化対策への国際的な協力関係を強化していくことが必要です。
まさに、ここ京都国際会館は、1997年に地球温暖化防止に向けた京都議定書が採択された場所です。
引き続き、我々は、地球環境問題に関して、国際的な連携を強めていかねばなりません。

さて、活力があり、持続可能な社会の構築のための活動の基本は、法律や規制によらない、各人、各企業の自主的な行動にあります。
経団連では1997年から、「経団連環境自主行動計画」を設定しており、この計画には、わが国のほとんど全ての業種が参加しています。
そして、業種毎に、地球温暖化対策、廃棄物削減対策に関する、自らの目標を設定しております。
昨年のフォローアップでは、1990年と比較して、我が国産業界全体で、COの排出量は1.9%減、廃棄物の処分量は80.5%減を達成したところであります。

私は、エネルギーや環境への対応を、産業や社会にとっての足枷と捉えるのではなく、むしろ、成長のためのチャンスと捉えるべきであると考えております。
わが国には、環境・エネルギー面における、これまでの蓄積と、技術革新の種が数多く存在しております。
巨大システムから、電球一つにいたるまで、環境との融合がキーワードとなっています。
水素社会の構築や燃料電池実用化に向けた技術開発、原子力の活用、太陽光発電、分散型電源、ハイブリッド・システム、10年前に比べ消費電力が10分の1の家電製品などが、現実のものとなっております。
わが国には、エネルギー資源はありませんが、エネルギーや環境面でのノウハウや技術革新という、無形の資産を生み出す力があり、その活用によって、世界に貢献していくことが可能と信じております。
将来における世界のエネルギー安定供給、環境保全、経済の発展の観点から、我が国が、積極的なイニシャティブを発揮していくことは、エネルギー資源を他国に依存する、わが国としての責務ではないかと考えております。

最後になりますが、人類は、今後とも科学技術が生み出す「光」を享受し、その力は、人類の未来を切り拓くことでしょう。しかし、そのためには、科学技術がもたらす「影」の部分を、同時に克服する取組みを強化していかねばなりません。
もし、人類が「光」だけを追い求めるならば、いつしか、アテネのイカロスのように、注意を怠り、はばたくことだけに夢中となり、やがて、翼がもげ、海の底に沈みかねません。

本フォーラムの成功と同時に、皆様が、ここ、京都の秋を満喫していただくことを祈念いたしまして、私の挨拶を終わらせていただきます。
有難うございました。

以上

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