FCCJ(日本外国特派員協会)における豊田会長講演

1994年6月16日


本日、権威ある日本外国特派員協会(FCCJ)のお招きをいただき、講演する機会を与えていただいたことは、まことに名誉なことであります。深く感謝申し上げます。

私は常々、経団連の考え方や活動を、内外に正しく伝え、広く各層に理解していただく必要があると思っております。この点から、対外広報の対象としてのFCCJの重要性は、大変大きなものがあると承知しております。

今、世界は、ポスト冷戦後の新しい秩序の形成に向けて、まさに変革の時代にあると言えます。冷戦構造の終焉は、国際的な政治構造の変化をもたらしたばかりではありません。各国間の経済関係にも様々な影響を与え、世界経済もまた、社会主義国の市場経済化、EU統合やNAFTAをはじめとする地域主義の進展など、その構造を大きく変えつつあります。

日米の関係もその例外ではなく、政治的、経済的に新たなパートナーシップをいかに構築するかが大きな課題となっております。国内においても、55年体制が崩壊し、新しい政治秩序の形成に向けて、政界の再編成が進んできております。経済の面でも、国際化の進展やバブルの崩壊により、その見直しを迫られております。さらに、社会生活においても、国民の価値観が多様化し、従来の効率を重視する考え方から真に豊かな生活の実現が求められるようになってきております。こうした変化の波は、従来の政治、経済、社会システムの基本的変革を迫るものであり、時代の要請とも言えるものであります。

そこで経団連としては、こうした時代の要請に対応して、21世紀に豊かで活力のある経済社会を創造するために、「大胆な構想を描き、それを着実に実行すること」を活動の基本姿勢として取り組んでいきたいと考えております。そのため、私としては、「変革」「創造」「信頼」という3つの言葉、すなわち、大胆な構想で時代を変えていく「変革」、「変革」により21世紀の豊かな社会を作り上げていく「創造」、そして「変革」と「創造」を着実に実行するために、国内外で築いていくべき「信頼」を心に刻んで、経団連会長の職責を全うして行きたいと考えております。

次に経団連が取り組むべき重要課題と対応の方向について、私の考え方を述べさせていただきます。

第1は、政治改革、行政改革、経済改革の三大改革を推進することであり、こうした改革を進める上で大きな鍵となるものが規制緩和であります。

政・官・業のもたれあいと海外からも非難される不透明な行政指導や慣行は、規制に基づく政治や行政の民間に対する過剰な介入によって形づくられた面があります。従って、規制を緩和することは、とりもなおさず政治や行政の改革につながるものであります。

また、市場開放や内外価格差の是正の観点から、特定の産業を保護することにつながっている諸規制を見直すことにより、経済改革が促され、経済の活性化と国民生活の向上が図れると考えております。

既に、政治改革四法が成立し、行革審答申や経済改革研究会報告などにおいて、改革の方向と具体的施策が示されており、これを着実に実行していくことが必要であります。

規制緩和は、経済の低迷が長引くなかで、経済界にとっても痛みを伴う問題であり、個別の問題については異論がないわけではありません。また、少数与党内閣の下で、諸改革をやり遂げられるかどうか懸念する声もあります。

しかしながら、わが国が21世紀において活力ある経済社会を維持し、あわせて、海外からの信頼を獲得していくためには、改革を中途で放棄することは許されません。

当面、政府による行革推進を監視する第三者機関である「行政改革委員会」を早期に設置することや、「規制緩和推進計画」を早期に策定することなどを、強力に働きかけていくとともに、規制緩和を始めとする諸改革の実行について経団連のなかでも大いに議論していきたいと思います。

第2は、日本経済の再活性化であります。産業構造の転換を図り、21世紀に向けて着実な経済成長を実現していくためには、経済界が企業家精神を発揮して、自ら成長分野を見出し、新しい産業分野を興していくことが不可欠であります。

そのため、経団連としては、企業の創意と自由を制約している規制の緩和・撤廃を強く求める一方、将来の成長分野や次世代技術などの明るい展望を具体的に示し、企業自らの前向きな取組を促すとともに、新規事業への支援、新規・成長分野の基盤となるインフラ整備などを政府に働きかけていきたいと思います。このために、経団連では、新たに「新産業・新事業委員会」を設置いたしました。

第3は、企業の自己責任原則の確立、企業倫理の徹底であります。経団連では、91年9月に「企業行動憲章」を策定いたしましたが、経済界に対する国民の信頼を回復していくためには、憲章の精神を徹底し、自ら作ったルールをしっかりと守っていくことが不可欠であります。

第4が、対外経済関係の改善であります。特に、世界経済の4割を占める日米両国が良好な関係を維持することは、世界の安定と発展のためにも不可欠であります。包括協議の再開など最近米国政権内で対日強硬政策の見直しの兆候が見られますが、わが国政府としてもこうした変化に積極的に対応し、合意に向けた努力を継続していくことが必要であります。

ビジネスの間では、日米協力は必要不可欠になっているのが現状であり、こうした協力の実態を踏まえて、民間同士が一層緊密な対話を重ねていくことが、政府交渉に劣らず重要なことであります。日米財界人会議に加えて、さらに対話のチャンネルを拡大し、活発な議論を行っていきたいと考えております。

アジア・太平洋地域との関係の強化も重要であります。アジアは、世界の成長センターとして、アメリカ、ヨーロッパとともに3極の一つを占めるに至っており、その発展のために対日輸入を拡大するとともに、投資、技術移転、人材育成などについて、わが国がサポートしていくことは、アジアのみならず世界の発展と安定に貢献できることになると考えております。

また、わが国は、アジア地域の代弁者として、欧米との調整役を果たしていくことも期待されております。経団連としては、アジアの各国との対話を機動的に実施し、その考え方を日本政府に伝え、関係の改善を図っていきたいと思います。このために、先般、アジア各国の経済界首脳を招き、アジア隣人会議を開催したところであります。

ヨーロッパにおいても、EUが統合され、21世紀に向けて「汎欧州」という枠組みでの新しい統合体が形成される方向にありますが、こうした統合体の出現は、基本的には歓迎すべきものであります。自由主義と市場経済を基軸とする地域の拡大は、国際社会の政治的な安定に寄与するばかりではなく、世界経済の発展に資するものとなることが期待できるからであります。

しかし、こうした地域を単位とする集合体の形成が、経済のブロック化につながらないように関係諸国が努力していく必要があります。言うまでもなく、戦後の世界の繁栄の背景となったのは多角的自由貿易体制であり、この堅持のために、世界貿易機関(WTO)のもとで、世界経済の発展のために新たなコンセンサスを形成していく必要があります。

こうした観点から、経団連では、欧州にミッションを派遣し、今後の日本とEU関係の一層の拡大に向けた対話を行いました。

しかし、対外関係改善の基本は、わが国が国際社会からの要請にどのように応えていくかであります。この点では、平岩レポートが強調しているように、内需の拡大と市場開放を効果的に推進する施策を大胆に具体化させなければなりません。

例えば、内需拡大については、現在、政府において、430兆円の公共投資基本計画の見直しが検討されておりますが、経団連では、これに100兆円以上の積み増しを行い、住宅、情報・通信、福祉など経済波及効果が高く、かつ国民生活の質的向上やビジネス・フロンティアの拡大に直結する新しいインフラ整備に投資すべきであると主張しております。

また税制改革についても、所得税の減税を先行させる形で、直間比率を是正することが望ましいと考えております。

さらに、規制緩和につきましても、市場開放につながる大店法の廃止、農産品に関する価格支持政策の見直し、輸入手続きの簡素化など7分野196項目の規制緩和を政府に要望いたしました。とくに経済的規制については、今後、5年間で半減すべきことを総理に申し上げました。

このような大胆な改革を実行して、初めて、わが国の「変革」が実現できるのであり、海外からも信頼される国家を創造できると確信しております。

最後に、繰り返しになりますが、まとめとして2〜3述べさせていただきます。冒頭において、私は、「大胆に構想し、着実に実行する」ことを経団連活動の基本姿勢とすることを申し上げました。

この大胆な構想というのは、この変革の時代において、まさに旧来の政治、経済、社会システムを国際社会との調和のとれた、豊かで活力のある経済社会の創造に向けて、抜本的に変革していくということであります。

そのために私が今、一番重要であると考えているのが、規制緩和を実行し、海外からみても、透明かつ開かれた社会を創造していくことであります。このことは、とりもなおさず、従来の生産者重視の経済構造を、消費者・生活者に視点をおいたものに変革することになると認識しております。

只今申し上げなかった地球的規模の環境問題、地方分権の実現などわが国は解決すべき数多くの課題に直面しておりますが、私としては、新しい時代の新しい経団連を目指して、広く内外の声に耳を傾け、正しいと信ずる道を、信念と気概をもって進んでいきたいと考えております。

皆様のご理解をいただくことをお願いしてスピーチを終えたいと思います。


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