活力と創造性あふれる経済社会を目指して

−経団連会長新年メッセージ−

1995年1月3日
社団法人 経済団体連合会
会長 豊田章一郎


戦後50年、日本は今や、経済社会システムの大きな変革期を迎えている。世界的な大競争時代が到来する中で、日本は、急激な円高とあいまって、製造業、金融、技術、情報等の空洞化の危機に直面している。これを座視すれば、経済の活力が大幅に低下し、生活水準の維持や雇用の安定が困難になるとともに、社会全体の躍動感が失われるおそれがある。

しかし、事態を決して悲観的に捉えるべきではない。戦後、日本は、石油ショックなど、幾多の試練に直面したが、その都度危機感をバネにして乗り越えてきた。現在の難局も、思い切った規制の撤廃、緩和や法人の税負担軽減を行い、自己責任原則に基づく経済システムへ転換することによって、必ずやこれを克服し、活力と創造性あふれる経済社会を作りあげることができると信ずる。そのためには、企業経営者も、企業家精神を最大限に発揮して、新技術の開発、新事業・新産業の育成に努めなければならない。

私は、このような認識に立ち、経団連会長に就任して以来、政治、行政、経済の3大改革、特に、規制の撤廃、緩和に積極的に取り組んできた。また、各国経営者の相互信頼関係の確立が、世界の安定と発展に不可欠であると考え、米国経済界との会合をはじめとして、海外との対話に努めた。

本年は、これらの構造改革や海外との対話への取り組みを着実に実行・前進させ、具体的成果につなげていきたい。また、21世紀の経済社会をどのように構築していくかについて、政界をはじめ労働、教育、言論などの各界と一層積極的に政策対話を行っていきたい。特に以下の課題に重点的に取り組む。

  1. 景気回復の足取りを確かなものにする
  2. 景気回復の足取りを確かなものにし、適正な安定成長軌道に乗せていくために、適時適切な財政金融政策の実施を政府に働きかけるとともに、円高や対外不均衡を是正するために構造改革の断行を訴える。為替相場の安定については、国際的な政策協調や円の国際化を求めていく。

  3. 規制の撤廃、緩和を強力に推進する
  4. 産業界自らが痛みを乗り越え、規制の撤廃、緩和に関する課題を一つ一つ具体的に前進させ、その成果を国民が享受できるようにしたい。そのために、社会の諸勢力と密接に連携し、政治が不退転の決意で規制の撤廃、緩和に取り組むよう働きかける。我々は、行政改革委員会の活動を全面的に支援する。

  5. 創造性に富む人材の育成策を提言し、実行に移す
  6. これからの経済社会においては、創造性、国際性、個性に富んだ人材があらゆる分野で求められる。経団連としても、有識者を含む特別懇談会を設け、その育成のために企業の果たすべき役割や教育システムのあり方等について提言し、実行に移す。

  7. 海外諸国との民間レベルでの交流を拡大する
  8. 各国経済界との交流を促進するとともに、対外広報を強化する。米国とは、ビジネス・ラウンドテーブル等との会合や地域経済界との草の根交流を進め、アセアン諸国や欧州へはミッションを派遣する。特に、アセアン・ミッションの成果を、APEC大阪会議に反映させるとともに、欧米経済界と連携し、WTO(世界貿易機関)を支援する。また、経済協力、難民救済、環境保護等の面で、世銀や国連などの国際機関との連携や民間の諸団体との協力を拡大していく。

  9. 活力と創造性あふれる経済社会の構想づくりを進める
  10. 日本は、21世紀においては、効率的で小さな政府のもとで、活力と創造性あふれる民間主導の経済社会を構築する必要がある。高齢者福祉、環境等の重要問題についても、企業、個人、地域社会が、ボランティア活動などを進めつつ、創意を生かし自主的に取り組むべき余地は大きい。豊かで明るい長寿社会の実現も、このような参加型の経済社会においてこそ可能になる。経団連として、その具体的構想づくりを進める。


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