日本記者クラブにおける今井会長講演

講演テーマ:日本経済再生に向けて

日時:1998年10月29日(木)正午〜午後2時
場所:日本記者クラブ10階記者会見場

  1. はじめに
  2. ただ今ご紹介いただきました今井でございます。本日は日本記者クラブにお招きいただき、誠にありがとうございます。
    私は5月に経団連会長に就任いたしましたが、私に課せられた当面の最大の課題は、何と申しましても景気回復であり、特に金融システムの安定化であると考えております。先般、98年度の経済成長率の見通しがマイナス1.8%に大幅に下方修正されたことにみられますように、日本経済はかつて無いほど厳しい状況であり、このままで推移すると来年度を含めて3年連続のマイナス成長になる可能性もございます。
    しかし、決して日本経済を悲観することはありません。戦後50年、日本がたどってきた道を顧みても、決して平坦ではありませんでした。二度にわたるオイルショック、急速な円高などに対して、日本はその都度、血のにじむような努力で難局を乗り切ってまいりました。こうした経験こそが、日本の強みであります。日本は現在の危機も必ず乗り切り、立ち直っていくと確信いたしております。
    そこで本日は、日本経済再生に向けた、当面の経済対策と中期的な構造改革について、私の考えをご披露したいと思います。

  3. 当面の経済対策
    1. 日本経済の早期回復は日本の国際的責務
    2. 私は、日本経済の早期回復は日本の国際的責務であると認識しております。10月1日から8日にかけて、ベトナム、タイ、フィリピンの三カ国を訪問し、各国政府首脳や経済界関係者と懇談してまいりました。ベトナムのフュー書記長、ルオン国家主席、カイ首相、タイのチュアン首相などから異口同音に述べられたのは、日本経済の早期回復に対する強い期待感であります。「日本経済が良くならなければ、アジアは決して立ち直れない」ということであります。
      日本の政府は、既に430億ドルのアジア支援パッケージを実施しております。更に先般発表された300億ドルの宮沢構想には、大きな期待が寄せられております。現地の日本企業の方々に伺いますと、撤退したのはわずか1〜2%程度で、アジア各国の経済状況が悪い中でも、国内需要が減少した分は、第3国への輸出拡大で補うなどして、歯を食いしばって現地に根づこうとしております。このような日本政府や企業の努力は、アジア各国に大変、高く評価されております。我々はアジアのためにも努力していかねばなりませんが、日本経済はGDPベースでアジア経済の3分の2を占めることから、日本経済の回復は、アジア経済に不可欠であります。
      GDPベースで世界経済の15%を占める日本の景気回復は、世界全体にとっても不可欠であります。ロシア、南米が経済的苦境に陥り、これが米国の金融に混乱を生じさせている現在、一日も早い日本経済の再生は、日本の国際的な責務であります。

    3. 金融システムのさらなる安定化
    4. そこで、日本が緊急に取るべき具体的アクションとして、5点申し上げたいと存じます。つまり、(1)金融システムの安定化、(2)証券市場の活性化、(3)為替安定化、(4)税制改革、そして(5)大規模な財政出動であります。

      第一の金融システムの安定化につきましては、去る16日に閉会した臨時国会で、破綻処理と早期健全化という金融再生の仕組みが一応、整いました。このスキームが成立するまで、3ヶ月近くもかかったことは大変残念ですが、政策立案の過程で、政治が官僚にかわりリーダーシップを発揮したことは、今後の議会制民主主義のためには、評価してもよいと考えます。
      本年7月の参院選の結果、自民党の参議院での議席は過半数を23下回りました。3年後の参院選でも、自民党の過半数回復は期待できないことから、今後6年は与野党どちらが政権を取っても、両者が協議しないと法案が一つも通らない事態が続くと思われます。そこで経団連としては、与野党双方に、経済の実態を反映した政策立案を行っていただきたいと申し上げており、8月から9月にかけては、与党自民党はもちろんのこと、民主党、新党平和・公明と、そして本日は、自由党幹部との話し合いを行ってまいりました。今後とも与野党との対話を深めていくことによって、より迅速・適切な政策の実施を政治に促して参りたいと考えております。
      さて、私は、金融機関が不良債権を処理していく中で、貸し渋りなど実体経済に与える悪影響を最小限度に抑えることがまず必要であり、更には、国際的に活動している大銀行の破綻を未然に防ぐために、金融機関の自己資本の強化が不可欠であると訴え続けてまいりました。
      早期健全化法では、健全な金融機関の資本を増強する資金規模が、13兆円から25兆円に増額されている点は評価できますが、問題は、これを適宜・適切に使っていくことであります。現在のように、日本の金融システム全体に対する信任が揺らいでいる場合とか、連鎖的な金融機関の破綻の恐れがある場合には、大手金融機関に対して大規模な公的資本を一斉に注入することが必要であると思います。
      現在、日本の金融機関が海外でドルを調達することは困難になっております。国内から円を送って、スワップでドルを調達することもままならず、インターバンクにスムーズに資金が流れない状況となっており、大変憂慮しております。政治が、インターバンクでの取引きは安全だ、との明確なメッセージを早急に出していただきたいと考えます。
      公的資本を注入する際に、個々の金融機関の経営責任の問題が指摘されております。しかし、これを一時、横に置いておき、まず、大規模に公的資本を注入し、その資本注入を受けた金融機関が、ペイオフが始まる2001年4月までの間に、早急に経営を改善して株式等を買い戻す、そして、もし買い戻せない場合には溯って経営責任を厳しく問うことが適当と思っております。
      また、ペイオフが始まるまでに、預金者に対して、金融機関を選択するに十分な情報開示を行うことが不可欠であり、また、これによって、金融機関に対する信頼が回復してまいります。情報開示を進めるためには、まず、第一に、特に問題になっている第II分類を含め、金融監督庁が不良債権の明確な分類ガイドラインとそれぞれの分類についての引当て処理の方針を決定し、これらを早急に公表すべきであります。その上で、そのガイドラインと方針に沿って、各金融機関が自主的に十分な情報開示を行い、国民、および内外の投資家に不良債権処理の進み具合を明らかにする必要があります。既に金融機関の中には、情報開示を自主的に行なうことによって、市場の評価を得たところもあり、私は多くの金融機関の自主的な情報開示が是非とも必要だと思います。
      第二に、金融機関の信頼回復の上で、金融監督庁の役割が重要であります。金融機関は原価法を採用しているため、含み損益は決算には計上されませんが、金融監督庁は、この含み損益なども勘案して、金融機関の経営実態を厳格に検査し、問題のある金融機関には業務改善命令を出すなど、破綻の芽を未然に摘む必要があります。
      これまで申し上げました点は、いわば金融システム安定化のための環境整備であり、その中で個々の金融機関が国民や産業が求めるサービスを提供していくためには、金融機関自身の一段の経営努力が必要不可欠であります。金融機関は、不良債権を早急に処理し、その結果減少した自己資本を増強するために資本注入などの支援を受けつつ、一方で、リストラ、合理化や合併・再編などに積極的に取り組み、金融ビッグバン時代に相応しい競争力を持たなければなりません。最近、日本の金融機関と外資、ないしは国内金融機関同士の提携などの動きが活発化しておりますが、是非とも早急に戦略的かつ迅速な経営転換を図っていくべきであります。

    5. 証券市場の活性化
    6. 第二の課題は、証券市場の活性化であります。バブル経済によって、1200兆円増えた資産は、その崩壊で1200兆円、つまり株が400兆円、土地が800兆円減少致しました。今後、時価会計が導入されることを勘案しますと、証券市場を活性化できなければ、実体経済に大きな影響が出てまいります。このため、まず、日本の証券関連税制を見直す必要があると考えます。
      一方、株の持合は、今まで日本企業の長期的な発展に貢献してきたわけでありますが、今や効率的な経営を目指す企業は、急速に株の持合解消に向かっております。2001年4月からの時価会計の導入によって、他社の株を大量に保有していると、株価の動きで大きな利益や損失が出ることから、経営上、大きな問題となります。
      現在の経済状況の下で大量の株式が売却されれば、株価の一層の下落を誘い、景気回復をさらに遅らせる結果になります。そこで経団連では、持合株式を企業間で相対で取り引きし消却することを8月に提案致しました。この提案は、市場時価による取り引きであることから、市場による価格決定を歪めるものではございません。中長期的な視点から証券市場の活性化を図るため、持合株式の相対取引の実現が必要だと考えます。米国企業の場合、好景気の中でも自社株の消却を進め、その結果、株価が上昇しております。日本の場合、バブル時に各社が大量の株を発行したことから、株価をあげていくためには、余剰株式の消却によって一株当たりの価値を高める必要がございます。
      しかし、現在、事業会社との株式持合を幅広く行っている金融機関にとっては、自己資本比率の低下を懸念して自己株式を即座に消却することは困難であります。また、上場企業の約4割が原価法を採用していると言われておりますが、現在の経済状況の下では、これらの企業にとっても直ちに消却することが困難であります。このため、自己株式の取得・消却の時期を弾力化する必要があり、これを実現するために、先般、「証券等健全化機構」の設立を提唱しました。
      これにより、企業と金融機関が一時的に株式を機構に預け、適切な時期にそれそれが自己株式を消却することが可能になりますが、これは、相当なインセンティブがないと進まないと思われます。そこで、譲渡益課税上の特例などの税制上の措置が必要であります。また、譲渡した株式の議決権・配当の停止などが必要になることから、この機構は、税制・商法・会計上の特別措置の対象となる公的機関とすべきと考えております。企業がこの機構から自己株式を買い付ける際には、株価が下がっていれば企業の負担になり、上がっていれば機構の利益になります。現在、経団連では、この機構を5年程度の時限的なものとして設立するために働きかけております。

    7. 為替の安定化
    8. 当面の経済対策として、第三に、為替変動の安定化について申し上げたいと存じます。一日で円が10円も上昇するといった急激な為替変動によって、輸出額の大きな企業の損益は、重大な影響を被っております。ヘッジファンドなどの投機資金のために、健全な企業の利益や損失が大きく変動することを、このまま放置してよいわけはございません。
      現行の国際金融体制は、固定相場制であった50年前に形作られたものであり、変動為替相場制の下での大規模かつ急激な投機資金の動きに対応できていないと思います。先般、英国のブラウン蔵相は、ヘッジファンドなど国際的に活動する機関投資家に対する規制強化などを盛り込んだ、国際金融システムの改革案を先進各国に提示し、かなりの数の先進各国も賛同の方向と伝えられております。多少時間がかかっても、国際的な為替安定の枠組みを早期に作り上げるため、先進各国が今後具体的な議論を積み重ねていくことを期待したいと思います。
      なお、先進各国は、IMFなどの国際機関との連携を強化するとともに、外為市場の不自然な動きの監視を強化することも実行して欲しいと考えております。

    9. 税制改革
    10. 四つ目の税制改革について申し上げますと、小渕内閣は、所得税の最高税率の65%から50%への引き下げと、国民各層に対する定率減税を検討しております。これらは、個人消費に刺激を与えるために是非とも必要と考えます。
      法人税については、昨年、実効税率が46.5%まで引き下げられましたが、課税ベースも拡大されたため、企業としては、数年後まで減税効果を期待できないものでございました。今回は、法人実効税率を国際水準の40%まで引き下げて欲しいと考えております。更に、経営のスピードと重点化のため、持株会社の活用や分社化によるグループ経営の強化が必要になっていることから、こうした動きを支援するために、連結納税制度を是非とも早急に導入することが必要であります。
      以上に加えて、内需拡大の観点から政策減税も実施すべきであり、特に、経済波及効果の大きい住宅投資と、自動車需要を刺激することが必要であります。住宅投資は、GDPの中でも大きな位置(96年度で名目GDPの5.9%)を占めるものでありますが、97年度の住宅着工戸数は、96年度から30万戸減少しております。住宅投資を拡大させるためには、現行の住宅取得促進税制を時限的に拡充するとともに、消費税と二重課税となっている登録免許税などの免除、更には米国型の住宅ローン利子の所得控除制度を導入すべきであります。
      また、登録から一定期間を経過し、環境に悪い影響を与えている自動車を買い替えた場合には、自動車取得税を免除すべきことを、今般、経団連は提言致しました。

    11. 財政出動
    12. 当面の経済対策として、最後に財政出動について申し上げますと、ここしばらくは大規模な財政出動で景気の下支えを続ける必要があります。そこで、まず、小渕内閣が打ち出した10兆円規模の補正予算と99年度予算を一体化して運用する15ヶ月予算の編成が必要であります。橋本内閣の下で、4月に策定された16兆円に上る総合経済対策は、ようやく地方でも予算化され、実効が出始めておりますが、これと切れ目なく公共事業を実施する必要があります。このため、11月末にも臨時国会を開いて、減税とともに、補正予算の具体的な内容を決定すべきだと考えております。
      その際に考慮すべきことは、公共事業に対する様々な批判を踏まえて、21世紀の日本にとって有用で、且つ、民間投資を誘発し景気に即効性が期待されるものに重点を絞って、公共事業を推進していくことであります。例えば、都市の再生・住環境の整備、物流効率化に資するインフラ整備、各小学校にパソコンを導入するなどの情報関連基盤整備、環境および科学技術関連基盤整備などであります。明日(10月30日)、小渕総理にお会いすることになっておりますので、以上の点を具体的に提言したいと考えております。

    13. 思い切った対策が必要
    14. 今まで当面の景気対策について申し上げましたが、小渕内閣は、G7等の国際会議での各国からの要請をも考慮し、景気回復が日本の国際的な責務であるとの認識から、公共事業と減税の上積みを検討していると伝えられております。もちろん、上積みは歓迎できることでありますが、何よりも重要なのは、少しづつ上積みしていくのではなく、「あらゆる手を尽くした」と評価される景気対策のパッケージを一気に実現させることであります。このような景気対策の効果が現れていくことによって、来年後半には、日本経済は2%成長の軌道に乗っていくと考えております。

  4. 日本経済再生への構造改革
    1. 日本・世界を取り巻く状況
    2. さて、現在、我々は、厳しい経済状況に目を奪われておりますが、構造改革の必要性を忘れてはなりません。構造改革の必要性は、まず、戦後日本の発展を支えてきた様々な諸制度・法律が硬直化し、現実の社会的な変化に追いつけず、制度疲労を起こしていることにあります。
      また、日本では世界に類を見ないスピードで少子高齢化が進んでおります。現在、総人口の15%を占める高齢者人口は、25年後には25%まで上昇致します。その一方で、勤労者の人口は、60%から50%に低下し、この結果、4人の勤労者で1人の高齢者を支える現状が、25年後には2人で1人を支える社会になります。現在の社会保障制度に手を加えないと、社会保険料を折半している勤労者と企業に大きな負担を与えることになります。
      更に、世界経済が大競争時代に突入しており、日本はこれに勝ち抜いていかねばなりません。
      こうした中で、日本経済の発展を確かなものにしていくためには、第一に行政改革により小さな政府を実現し、第二に将来の不安を払拭する社会保障制度を作り上げ、そして第三に、技術開発を更に推進する必要があると存じます。

    3. 行政改革の実行
    4. まず、行政改革についてであります。財政構造改革は景気が回復するまで一時的に棚上げせざるを得ませんが、行革はどうしても進めなければなりません。企業と個人に最大限活力を発揮させるためには、規制の撤廃・緩和を徹底するとともに、「官から民へ」、「国から地方へ」という理念の下、「小さな政府」に向けて政府の役割を抜本的に見直していくことが急務であります。
      現在、2001年1月1日の中央省庁等の新体制移行に向けて、具体的な作業が進んでおりますが、これをできるだけ早く進めることが必要であり、事前規制から事後チェック型への行政の転換を進めなければなりません。私は、省庁再編作業の進捗状況をチェックする、顧問会議の座長を務めていることもあり、今後とも政府の動きを監視し、真に簡素で効率的な行政が実現し、改革の具体的な成果があがるよう、努力していきたいと思います。
      民間活力を向上させるためには、規制の撤廃・緩和が不可欠であります。規制緩和については、経団連として従来から多くの項目について改善を求めて参りました。小さなものは進んでいるとは言え、まだまだ不十分であります。そこで、経団連では、10月20日に552項目におよぶ追加要望を政府に提出致しました。今回の要望では、民間企業の医療福祉分野、あるいは農業経営への参入、労働者派遣事業の自由化など、経済活性化や雇用創出に効果の高いものを、優先して実現すべきと指摘致しました。
      また、昨日(10月28日)、野田郵政大臣と懇談いたしましたが、その際に、郵便事業への民間事業者の参入について、期限を切って検討していただきたい、と申し上げました。国家独占分野に対しても、競争の導入を推進して参りたいと考えております。

    5. 将来の不安を払拭する社会保障制度の構築
    6. 日本が取り組むべき構造問題として、次に社会保障制度について申し上げたいと存じます。
      日本の社会保障制度は、世界に誇れるものであり、これまで社会の安定に貢献してまいりました。しかし、25年後には4人で1人から、2人で1人の高齢者を支えねばならないなどの現実を前に、現行の社会保障制度は抜本的な改革を迫られております。
      今後の社会保障制度を考えると、490兆円にのぼる厚生年金の積立不足の問題を解決することが不可欠であります。また、少子高齢化に伴い、25年後の厚生年金の保険料率は現在(17.35%)の2倍程度(34.3%)にまで上昇致します。25年後の勤労者に、現在の倍という過大な保険料負担を求める制度を維持することは不可能であります。更に、現行の国民年金制度には、約3分の1の未納者・未加入者が存在しており、国民皆年金が空洞化しつつあります。今後、未納者・未加入者が受給世代になるころには、無年金者が増大し、国民全体の生活安定の基盤は揺るぎかねません。
      これらの問題は、年金制度が日本経済が大きく伸びていた時期に設計され、その後、適切な見直しが行われなかったために生じたものであります。この解消のためには、基礎年金部分、高齢者医療保険、介護保険は、ナショナル・ミニマムとして、国民全体、つまり福祉目的税といった間接税で負担する方向で制度改革を進めるべきであります。これを避けるならば、先ほど申し上げた問題は、大きな社会不安を引き起こすと思われます。
      今や社会保険料は、個人と企業にとり、税金以上に重要な問題となっております。社会保障制度の改革を進めるにあたっては、社会保険料と税をあわせた国民負担率を抑制し、国民が薄く広く社会保障のコストを負担するという方向で制度改革を進める必要がございます。
      来年行われる5年に一度の公的年金制度改革に向けて、現在、議論が行なわれておりますが、将来的な保険料の引き上げや間接税による社会保障コスト負担への移行といった基本的な考え方を国民に明確に説明する必要があります。間接税を引き上げることは先延ばしするにしても、基本的な考え方については、明確に打ち出しておく必要があります。困難な問題を棚上げすれば、いたずらに将来への不安をあおり、消費を冷え込ませ、景気回復を更に遅らせることになると思われます。

    7. 技術開発の推進
    8. 最後に、技術開発の推進について述べたいと存じます。
      冒頭で申し上げましたように、日本の産業界は、石油ショックを切り抜け、プラザ合意後の円高を血のにじむような努力で克服し、国際競争に耐える体質を作り上げてまいりました。今でも技術力は決して世界に劣っておらず、世界有数の競争力を維持しております。しかし、今後の少子高齢化により、労働人口が減少し、貯蓄率が低下するなど、労働・資本面で成長が制約されることが懸念される中で、日本が大競争を勝ち抜いていくには、技術の力で生産性を向上させることが必要であります。更に、今後とも日本が貿易黒字を計上し、円高傾向にあると思われることから、日本には、戦略的な技術振興が必要であります。
      一部にはターゲティング・ポリシー的な技術振興は時代遅れで、今や市場経済の時代、との見方があります。しかし、欧米諸国は国家戦略として重要技術の振興に取り組んでおります。米国の場合、情報技術産業や航空宇宙産業では、国防総省を核に産官学が協力した結果、他の追随を許さぬ米国の国際競争力が確立されております。特に1980年代後半以降は、産業戦略を転換し、独禁法の運用を緩和してまで、半導体などの研究組合を官民共同で設立し、競争力の強化を図って参りました。
      日本もこうした世界の潮流に取り残されてはなりません。21世紀の繁栄のために必要な情報、環境、エネルギー、バイオなどの戦略的技術については、日本も産官学がより一層連携し、国家的な研究開発プロジェクトを進めていく必要があると考えます。現在進んでいる行革の一環として、総合科学技術会議が設立されることになっておりますが、この設立を待つことなく、早急に産官学の戦略的な連携を進めるべきであります。

  5. 結 び
  6. 本日、日本が抱える課題とその対応策について、私の考えをご紹介いたしましたが、私は日本企業の行動力と国民の勤勉さを信じております。日本は改革を断行していくことによって、21世紀においても豊かで活力に溢れた社会を築き上げることができると確信しております。
    そして既に改革は始まっております。金融界では、金融機関が国民から選ばれる時代に突入し、かつての横並び意識や政府依存の体質は確実に変わりつつあります。他方、借り手の企業も金融機関の選別融資の対象となっております。
    今後の経済は、「自立・自助・自己責任」の考えから、民間主体で運営されるべきであります。経団連としては、「自立・自助・自己責任」の前提に立ち、タイムリーに政策提言を行うとともに、積極的に行動して参りたいと思っております。

    ご静聴、ありがとうございました。

以 上


日本語のホームページへ