第37回日米財界人会議 今井会長基調講演

『日本の政治経済状況』

日時:2000年7月10日(月)
午前8時40分〜9時
於:ホテル・オークラ 平安の間 II

(はじめに)

 本日は、2000年という新しいミレニアムの年にあたり、明るさを取り戻した日本経済の新生を実現するための課題について、お話し申し上げたいと存じます。

(政治状況:総選挙後の政局と新内閣への期待)

 まず初めに、総選挙の評価と新内閣への期待を述べたいと思います。
 先月25日に実施された衆議院総選挙の結果、自民党、公明党、保守党の連立与党は議席を減らしながらも480議席中、271議席を獲得し、引き続き衆参両院で安定勢力を確保いたしました。これは、小渕前総理のリーダーシップによる金融システム安定化策、法人税・所得税減税や数次にわたる大規模な財政出動などの景気回復優先の経済運営が評価されたものと考えます。また、これらの施策を推進してきた連立三党の枠組みが国民の信任を得たものと言えましょう。
 他方、全体の定数が20議席削減されたとは言え、与党三党が改選前より65議席も減らし、特に東京を中心とする都市部での後退が目立ったことは、都市部において与党に対する批判が高まっていることを示しております。
 森新内閣には、こうした批判を真摯に受け止め、IT関連事業や都市の物流円滑化に資するインフラの整備をはじめとして、景気回復を一層確かなものにする経済運営を行って頂きたいと存じます。
 今後、景気の自律的回復を達成するには、個人消費の回復が必要不可欠であります。わが国は、急速に少子・高齢化が進んでいることや、国・地方をあわせた政府の債務残高が645兆円にも上っていることなどから、国民の間で将来への不安感が高まっております。消費を本格的に回復させるという観点からも、こうした不安感を一刻も早く払拭し、国民が安心して暮らせる社会創りを進めることが重要です。そのために政府は、社会保障、地方財政、税制を一体とした歳入・歳出両面にわたる財政構造改革のグランド・デザインを早急に示す必要があります。
 私は、先般、森総理を訪問して、直接これらのことをお願いしてまいりました。

(日本経済の現状)

 次に、景気の現状についてご説明いたします。
 先程申し上げましたように、これまでの景気対策が効を奏し、わが国経済は97年以降の深刻な不況から漸く脱しつつあります。先月発表された2000年1−3月のGDP速報値は前期比で2.4%増と3四半期ぶりにプラス成長に転じ、99年度の実質成長率もほぼ政府実績見込み通りの0.5%を達成することが出来ました。
 輸出の好調に加えて企業収益ならびに設備投資は本格的に回復しつつあります。また、消費についても、夏のボーナスをはじめ雇用・所得関連指標に下げ止まりの兆しが現れていることから、年内には持ち直していくことが期待されます。こうしたことから、2000年度については民需を中心に政府見通しの1%を大幅に上回る成長率も期待できると考えております。
 去る6月中旬に経団連で実施した景気動向に関するアンケート調査結果でも、2000年度の実質経済成長率を上期は 0.5〜1.0%、下期を 1.5〜2.0%とする見方が最も多く、2000年度通期では「政府見通しなみの 1.0%ないしはこれを上回る」との予想が全体の約88%を占めております。

 景気についての今後の課題は、景気回復の主役を官公需から民需へとスムーズにバトン・タッチしていくことにあります。そのために企業は、事業の再編・合理化を進め経営資源を得意分野に集中するなど、競争力強化に引き続き努める必要がございます。日本政府は昨年来、企業の経営革新や産業競争力の強化に資する法制度の整備を進めております。民間企業はこれらの施策を積極的に活用して、事業の一層の合理化や活性化を図っていくことが重要であろうかと存じます。さらに政府には、連結納税制度の早期導入や規制改革など、残された制度改革を積極的に推進していただきたいと考えております。

(情報化・IT革命への対応)

 また、日本経済を本格的な成長軌道に乗せるためには、IT革命が不可欠であります。
 わが国は、この10年間、インターネットの活用等の情報化の面で米国に大きく遅れをとりました。しかしながら、最近では、携帯電話から直接インターネットにアクセスする利用者が増えております。2001年からは大容量の次世代携帯電話が世界に先駆けて商用サービスに入ることから、こうした形でのインターネットの利用は一段と普及することが予想されます。また、2003年からの地上波放送のデジタル化を控えて、通信と放送が融合した新たなサービスも出てくるものと思われます。
 情報技術の活用は、経済の活性化や国民生活の質的向上をもたらすばかりでなく、行政の効率化・スリム化など経済社会システムの変革に繋がります。今後、わが国がIT革命を一層推進していくためには、国内的にはインターネット時代にふさわしい情報通信法制の構築や諸制度の見直しが必要であります。また全ての国民がITのもたらすデジタル・オポチュニティから恩恵を得られるよう、情報教育を充実することも重要です。さらに国際的には、課税や裁判管轄権などに係わるインターネット関連ルールのハーモナイゼーションを推進するとともにデジタル・デバイドへの対応も求められます。
 今月下旬に開催される九州・沖縄サミットにおいてわが国は、議長国としてのリーダーシップを発揮し、先進国・途上国を問わず、全ての人・企業・社会がIT革命の恩恵を享受できる世界の実現に向けたメッセージを発信していただきたいと考えております。

(グローバルな課題への対応)

 最後に、わが国が直面している国際的課題について、触れたいと存じます。
 ご高承の通り、昨年12月のWTOシアトル閣僚会議の交渉決裂を受け、新ラウンド交渉の立ち上げの行方は、不透明な状況が続いております。昨年来、私は欧米やアジア諸国を訪問して、世界経済の繁栄には自由で多角的な貿易・投資ルールが不可欠であることを痛感いたしました。日米両国は、緊密に協力して包括的な新ラウンド交渉の早期実現に向けて強いリーダーシップを発揮していくべきであると思います。特に、アンチ・ダンピング措置などの貿易救済措置が保護主義的に使われることのないよう、監視していく必要があります。またサービス貿易自由化交渉についても、新ラウンド交渉の一環として、推進していくことが重要であります。
 さらに、社会の一部には急速なグローバル化や情報化が市民生活にもたらす影響を懸念する声もあることから、日米の経済界が政府と協力して、貿易自由化や情報化のもたらすメリットについて広く理解を求めていくことが不可欠であると存じます。

(自由貿易協定の検討)

 また、多国間の交渉の推進と並行して、地域間、二国間でも自由化を進めていく必要があります。90年代に入ってNAFTA、メルコスール、ASEAN自由貿易地域の形成やEUの拡大等、自由貿易協定のネットワークは世界的に広がりつつあります。わが国も、こうした世界的流れを受けて、WTOのルールと整合的な形での自由貿易協定の検討を始めております。既に、シンガポール、韓国、メキシコ等とは具体的な検討を開始しており、わが国産業界としてもタイミングを逸することなく、積極的に対応していきたいと考えております。

(終わりに)

 以上、述べてまいりましたように、世界経済はグローバル化やIT革命がこれ迄にないスピードとスケールで進展しつつあります。
 このような中で、日米両国の企業は、電子商取引に関する基盤整備、デジタル・デバイドへの対応、雇用の流動化、規制改革、社会保障問題などの課題に直面しています。こうした問題について、日米の財界人が率直に意見交換を行い、共同で提言をしていくことは大変有意義であると思います。 本日からの二日間の会議が、実り多いものであることを祈念いたしまして、私の話を終えたいと存じます。

以 上

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