経団連第54回評議員会 今井会長挨拶

『日本経済の現状と今後の課題』


2000年12月13日(水)12:15〜14:30
於 経団連会館 12階 ダイアモンド・ルーム

  1. 本日は、年末のお忙しい中、評議員の皆様には、多数ご出席いただき、ありがとうございます。平素より経団連の活動に積極的にご参加いただくとともに、貴重なご意見を賜り、この場を借りて厚くお礼申し上げます。また、チエ・サンヨン駐日韓国大使には、公務ご多忙のところご来席賜り、心より感謝申し上げます。後ほど「新しい韓日関係と南北間の和解」と題してご講演をお願いいたします。
    本日は、後ほど森総理はじめ主要閣僚の方々にもお越しいただき、ご挨拶を賜る予定にしておりますが、最初に私から「日本経済の現状と今後の課題」について、経団連の考え方を説明させていただきます。

  2. まず、景気認識ですが、実質GDP成長率が1−3月期から7−9月期まで3期連続して増加するなど、景気は緩やかでありますが、確実に回復を続けております。昨年までは外需と公需が経済回復を主導してきましたが、最近は設備投資を中心とした民需主導がはっきりと読み取れるようになっております。しかし、家計部門の回復の遅れからGDPの60%を占める消費の伸びが低くなっております。加えて、米国経済の減速化により日米の株価が低迷し、アジア経済の減速から輸出が横ばいに転じております。したがって、景気の先行きについて、まだ手放しで楽観できる状況には到底ございません。今しばらくの間、財政と金融の両面からの下支えが必要であり、先ごろ成立しました補正予算に経団連は賛成しております。今後は切れ目のない対策という観点から、その早期執行を心がけるべきであります。
    2000年度の実質経済成長率については、経済企画庁が当初の1%から1.5%に見通しを上方修正しております。経団連では、それを上回る2%近くの成長を達成できるのではないかと見ております。

  3. このように今年の日本経済は、グローバル・スタンダードにあわせた企業の構造改革が進む中で着実に改善してきてまいりました。しかし、今後急速に少子・高齢化が進む中で、日本経済を真に活力ある経済として維持していくためには、今一段の構造改革が不可欠になってきております。特に、企業に比べ改革が先送りされてきた政府部門の構造改革は待ったなしの状況にあります。政府部門の改革で、とりわけ重要なのが財政の構造改革と行政改革・規制改革であります。
    財政構造改革については、ここ数年は景気回復が最優先であったため、先送りされてきたことはやむをえないと思います。しかし、その結果2000年度末の国・地方をあわせた債務残高が645兆円と予想されており、単年度財政収支は先進国中最悪、残高でみてもイタリアと並んで最悪の水準にあります。今後年率2%成長の継続が確認された段階からは、早急に財政再建に取り組む必要がございます。
    85兆円の国の歳出規模に対し、税収でまかなえる部分は52兆円、全体の62%にすぎません。残りの33兆円、38%は国債発行でまかなっています。一方、歳出のうち国債の利払い費と償還費である国債費が22兆円、26%あります。国債を除く歳出入のバランスをプライマリー・バランスといいますが、これも達成できておりません。国債収入33兆円のうち22兆円は国債費に充当するので、残りの11兆円が歳入欠陥の穴埋めに使われております。財政再建の第一歩は、歳出の徹底した見直しを中心に、プライマリー・バランスの均衡を回復することからはじめる必要があります。
    歳出63兆円のうち、15兆円が地方に交付される地方交付税交付金であります。これを除いた、いわゆる一般歳出48兆円のうち、最大の費目が社会保障の17兆円で3分の1を占めます。つまり、歳入面では税制を抜本的に見直して、いかに安定した税構造を確立できるか、歳出面では事実上の不足払い制度になっている地方交付税交付金と高齢化の中で肥大化が予想される社会保障制度をどのようにして維持可能なものに改革できるかが、財政構造改革のポイントとなります。
    このたび、第2次森改造内閣が発足しました。前総理がお二人も入られる重厚な内閣が成立したことを高く評価したいと考えます。とりわけ、今度の内閣では財政構造改革の必要性が強調されている点が重要だと思います。ぜひ経済財政諮問会議を活用されて、中長期の観点にたった、税、社会保障、地方財政を柱とする財政構造改革のグランド・デザインを早急に策定していただきたいと存じます。
    経団連では、政府が検討を行う際の参考にしてもらうための財政構造改革のシミュレーションを既に発表しております。これによりますと、改革を実施しないケースでは、歳出は肥大化し、税と社会保障を合わせた国民負担率は、現在の37%から25年後には70%を超えてしまいます。公共事業などの歳出見直しに加えて、社会保障制度の抜本改革も合わせて実施することにより、国民負担率を第二次臨調以来の基本方針である50%以下の46%に抑えることが可能になります。国民負担率の上昇の抑制が経済活力の維持のため最も重要であります。
    社会保障制度改革のポイントは、世代間、世代内の負担と給付の公平化であります。すなわち、企業と現役世代の負担増を抑制しながら、給付を合理的な範囲に削減するとともに、負担能力のある高齢者にも負担を求めていくことが必要になります。特に、肥大化を続ける高齢者医療制度をいかに改革し、医療費総額をいかに抑制できるかが今後の制度改革の柱になると考えます。年金、医療、介護、福祉など、全般にわたって持続可能となるよう総合的に見直しすることが求められております。

  4. 行政改革、規制改革への取り組みも重要であります。来年の1月6日より中央省庁の再編が行われ、1府22省庁から1府12省庁となります。簡素で効率的な政府を目指し、引き続き行政改革に取り組むとともに、地方自治体、特殊法人、公益法人などの改革も必要であります。
    今回の内閣改造で橋本前総理が行革担当大臣に就任されました。行革のプロを自認し、中央省庁再編の事実上の責任者である橋本前総理の就任を歓迎するとともに、橋本大臣のリーダーシップで行革が格段に前進することを期待したいと存じます。12月1日に閣議決定された行革大綱においても、多くの改革が盛り込まれております。経団連としても、引き続き行政改革を強力に進めていきたいと考えます。
    今般の再編では、内閣府が新設され、そこに経済財政諮問会議と総合科学技術会議が設けられます。これは、従来の縦割り行政の弊害を、総理の強力なリーダーシップによって打ち破ることを目的にしたものであります。財政構造改革のグランド・デザインの策定をはじめ、経済、財政、科学技術などの重要課題について、総合的な政策が実行されることを期待しております。
    規制改革については、過去2回にわたる3ヵ年計画の実施により、着実に成果があがってきております。しかし、IT革命の推進など21世紀に相応しい経済社会ルールを創るためには、まだまだ改革が遅れている分野があります。従来指摘されてきた情報通信、エネルギー、物流、金融に加え、医療・福祉、教育、雇用などの分野についても、一層の規制緩和が必要であります。経団連では、政府に対して、新たな規制改革推進計画を策定することと、現行の規制改革委員会の来年の任期終了後に、新たに強力な推進機関を創設することを働きかけてきました。行革大綱では、新3ヵ年計画の策定、新たな審議機関の内閣府への設置が明記されており、規制改革がさらに推進されるものとみております。

  5. こうした政府部門の改革に加え、既に進行している経済構造改革をより加速化させる必要があります。経済構造改革による産業の活性化、生産性の向上が今後のわが国の経済成長の鍵となります。この点については、小渕前総理のときに設置された産業競争力会議を引き継いだ産業新生会議の検討成果が、「経済構造変革と創造のための行動計画」として12月1日に閣議決定されております。
    経済構造の改革をすすめる上で、重要なものの第1は、IT革命の推進であります。米国はIT革命の成功によって、持続的な高成長を達成しております。わが国もIT先進国を目指し、先の臨時国会においてIT基本法や電子的手段で書類交付を行うため50本の法律の一括改正法が成立するとともに、IT国家戦略が策定されました。これによって、ハード面では高速インターネット網の整備、ソフト面では電子商取引ルールの整備などが進められることになります。
    第2は、グローバルスタンダードに合った法制面、税制面の整備であります。平成13年度からの税制改正で会社分割税制が整備されますが、今後は連結納税制度を平成14年度にも導入しなくてはなりません。また、株主代表訴訟の見直し、ストックオプションの改善なども必要であります。なお、外形標準課税については、今回の税制改正では導入が見送られました。しかし、外形標準課税自体が先進国の潮流に逆行し、国際競争力に悪影響を与えるものです。今後とも導入反対の立場から各団体とも連携をとりながら運動を強めていきたいと考えております。
    第3は、科学技術の振興であります。バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、新素材などの最先端領域の開拓、資源循環型社会構築のため、産学官の一層の連携・協力による技術開発、競争原理を活用した効果的な資金投入ができる体制整備が必要であります。また、優れた技術者を育成できる、大学をはじめとする教育システムの改革が不可欠であります。
    こうした構造改革を実施すれば、日本経済は今後10年間にわたって3%成長が可能になると、政府では試算しております。経団連でも、財政や経済の構造改革によって、今後25年間にわたって3%近い成長が確保できると試算しております。いずれにしても、3%近い潜在成長力を持っているといわれる日本経済にとって、これを引き出すための改革の実施が重要になります。

  6. 最後に国際関係に簡単に触れさせていただきます。
    まず、貿易投資の課題ですが、WTOの新ラウンド交渉を早期に立ち上げ、貿易、サービスの自由化を進めていくことが重要であります。昨年12月のシアトルのWTO閣僚会議が失敗した結果、いまのところ新ラウンド交渉開始のめどは立っておりません。そこで、経団連といたしましても、包括的な新ラウンド交渉の早期立ち上げについて、各国の政府、関係者に働きかけております。
    同時に、多国間ルールを補完するものとして、二国間で自由貿易協定を締結していくことが重要であります。自由貿易協定は、締結国間の貿易や投資の自由化を促進するとともに、規制改革など日本経済の構造改革にも寄与いたします。長期的にとらえれば、両国経済のいずれにもプラスの効果をもたらすものであります。
    シンガポールについては、来年から自由貿易協定交渉の開始が決定いたしました。今後は、韓国やメキシコなどとも自由貿易協定の締結に向けた具体的な検討が課題となってまいります。また、米国との自由貿易協定の可能性についても、長期的視点にたって検討していく必要があると考えます。
    近隣のアジア諸国との関係につきましては、アジア重視の姿勢をさらに強めていく必要があります。中国の朱鎔基総理はじめアジアの政界、産業界の方々とも種々懇談しておりますが、日本に対する期待は大変高く、これに応えていかなくてはならないと感じました。アジアの発展は、ひいては日本の発展に結びつくものと存じます。

  7. 21世紀の幕開けとなる来年は、産業界は自立、自助の基本精神の基に、企業家精神を発揮し、経済構造改革に全力をあげて取り組む所存であります。政府には、経済界が自由かつ主体的に活動できる環境整備をお願いしたいと存じます。
    本日は、那須議長をはじめ評議員各位には、お忙しい中を多数ご出席いただき、ありがとうございました。改めて厚くお礼申し上げます。評議員の皆様には引き続き経団連の活動に対するご支援、ご協力、ご助言を賜れば幸いに存じます。
    どうもご清聴有難うございました。

以 上

日本語のホームページへ