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月刊 経団連 巻頭言 富士山の世界遺産登録

篠田和久 (しのだ かずひさ) 経団連副会長/王子ホールディングス会長

6月にプノンペンで開催されたユネスコの世界遺産委員会で、「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」の世界文化遺産への登録が正式に決定された。国内の文化遺産としては13番目、自然遺産を含む世界遺産では17番目の登録となる。

富士山に降る雪や雨は、豊かな河川や地下水となって駿河湾に流れ込む。このため、富士山の裾野地域では古くから製紙業が盛んであり、当社をはじめ多くの製紙工場がある。その背後に雄大にそびえる富士山が世界遺産に登録されるというニュースには、非常に親近感を持ってうれしく感じた。

言うまでもなく、富士山は世界的にも有名な山であるが、国内には北海道の羊蹄山(蝦夷富士)、青森の岩木山(津軽富士)、栃木の男体山(日光富士)、鳥取の大山(伯耆富士)、鹿児島の開聞岳(薩摩富士)等々、故郷の数だけ「富士」がある。その総本山としての富士山が今回、世界遺産に登録されたと考えれば、日本全国の人々にとっても喜ばしいことである。また、世界遺産登録を受けて、かつて多くの短歌や絵画にも描かれた静岡・山梨両県に広がる景勝地や文化財への関心が高まり、環境保護や地域振興にもつながればよいと思う。

富士山には毎年30万人以上もの人が登る。五合目の登山口までは道路が整備されていて車で行けるが、そこから先は強風のなか火山岩と砂の道を5時間以上かけて頂上を目指す。「登山口の五合目までなら誰でも行ける」と思いがちであるが、実際にはなかなか腰は重い。

翻って日本経済である。アベノミクス効果による景気回復の兆しが実体経済に波及し、持続的な成長につながるかどうかの正念場を迎えている。富士登山に例えれば、かつてない金融緩和という大型バスに乗って、みんなで登山口までやっては来たが、この先は各自の足で頂上を目指すことになる。前の道を見れば険しいが、せっかく、重かった腰を上げて五合目までは来たのである。勇気を持って未経験の登山道を一歩一歩進み、頂上からの素晴らしい景色を望みたい。

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