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月刊 経団連 巻頭言 ICT力でSociety 5.0の価値を最大化するために

遠藤信博 (えんどう のぶひろ) 経団連審議員会副議長/日本電気会長

私は、皆さんにICT(情報通信技術)の価値創造について話す際、以下のような話から始めさせていただいている。

「ICTはコンピューティングパワー、ネットワーク、ソフトウエア・ソリューションの3つから成り、これらがリアルタイム性、ダイナミック性、リモート性の3つの重要な機能をつくり、この組み合わせで人間社会に大きな価値がつくり上げられる。ダイナミック性は多くのデータを集め分析することで、ダイナミックにソリューションに変換する価値提供能力で、リモート性は遠隔医療や教育、電子行政など、場所の制約なく公平に価値提供する能力である。特にリアルタイム性が与える価値は大きく、携帯電話がデジタル化した1995年ごろには1年を要した計算処理が今や15秒ででき、CD1枚分のデータ転送に150時間かかっていたものが、たった0.5秒で済む。まさに時間と場所の制約を取り払う力を、人間はわずかこの25年間で手に入れた」。

AIは、このICT力をフル活用した価値創造ツールで、サイバー空間に良質で大量のデータを集めることで、人間社会の課題に最適解をもたらすことができる。このAIの最大活用で実現するサステナブルな社会がSociety 5.0だと理解している。

しかしながら、AIの価値を最大限に享受するには、人間社会の側で、その最適解を受け入れて活かすための仕組みが必要になる。例えば、ある病院にAIを適用すると「病院運営の最適化」を実現できるが、もし病院間で手を結び、より大きなAIの適用枠で、データを共有して全体最適解を出せば、それは「医療の最適化」という一段高い社会価値を得ることとなる。

このようにAIは全体最適による価値をつくることができるが、価値の大きさは、人間社会が全体最適の価値を理解し、最適化の範囲やそれを受け入れる仕組みをどこまで積極的に構築するかで決まる。すなわちSociety 5.0の成否は、AIの最適化が及ぶ範囲をいかに設計し、いかに高い価値をつくり出せるかに懸かっている。

そして、その実行は人間社会を形成するわれわれに託されている。

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