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月刊 経団連 座談会・対談 世界の政治経済・安全保障環境を俯瞰する

兼原信克
前内閣官房副長官補・国家安全保障局次長

船橋洋一
アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

平野信行
経団連副会長、日米経済協議会会長
三菱UFJフィナンシャル・グループ会長

中村邦晴
経団連副会長、通商政策委員長
住友商事会長

片野坂真哉
経団連副会長、外交委員長
ANAホールディングス社長

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片野坂真哉(経団連副会長、外交委員長/ANAホールディングス社長)
現在の最大の懸念は、米中の貿易摩擦である。両国の覇権争いが非常にエスカレートしており、収束が見えない。この状況をニューノーマルととらえ、腹を据えて取り組むことが必要。そして、経済と政治・安全保障を一体的にとらえた外交を展開していく必要がある。経団連ではB7、B20等を通じて経済界の意見を各国首脳に伝達するなど、積極的な民間経済外交を展開している。こうした活動は政府外交の力にもなり、好循環を生み出している。今後も、官民連携のもと、ルールに基づく、自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化に向けて取り組んでいく。

中村邦晴(経団連副会長、通商政策委員長/住友商事会長)
現在は、複雑なグローバルサプライチェーンが構築されている。これまでは、効率を求め集中生産方式を展開したが、今後は経済と安全保障を考えたリスク分散型の生産になる可能性がある。しかし、本当にそれが合理的かどうかは疑問だ。ルールに基づいた、自由で公正な貿易、投資を確保するには、まず経済連携を拡大していくことが大切。同時にWTOの改革推進が必要。今のWTOは、その機能を果たしていない。デジタル化の進捗に伴う国際ルールづくりも課題だ。また、商社としてはエネルギーの安全保障の問題がある。今、ペルシャ湾の緊張など地政学的なリスクが高まっているが、それらの安全をどう確保するのかが重要だ。

平野信行(経団連副会長、日米経済協議会会長/三菱UFJフィナンシャル・グループ会長)
国際経済秩序が揺るぎ、国際金融システムも分断のリスクが高まっている。その要因ともなった反グローバル主義の背景には、長期的な低成長や経済格差の問題がある。安保や政治経済を取り巻く環境変化への対応として、経済界には民間経済外交という大きな役割がある。例えば、日米経済協議会では、過去60年近くにわたり、日米経済界の意見をワンボイスで発信し、両国政府に提言してきた。今後は、日米に欧州も加えた三極での民間経済外交が必要と考えられる。今後、日本は、SDGsのような世界共通の価値観を基軸に、国際経済秩序の維持強化、再構築に向けて取り組んでいかなければならない。

船橋洋一(アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)
国際秩序崩壊の怖さに、われわれはまだ十分に気付いていない。その1つはルールが守られなくなるということ。誰が新たにルールメーカーとなるのか、その担い手、リーダー不在という問題こそが、世界の危機的な状況である。アジア・パシフィック・イニシアティブでは、「世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター」を経済産業省と提携して設立した。ルールづくりとともに、技術革新の社会実装におけるガバナンス・イノベーションの研究をしている。また、今後10年、最も重要なのは金融とフィンテック、デジタル通貨の地経学的挑戦だ。そして、ものづくり。日本の製造業は産業別構成比で約20%だが、デジタル技術とあわせ、ものづくりの力をいかに維持、発展させていくかが課題だ。

兼原信克(前内閣官房副長官補・国家安全保障局次長)
日本は、世界の運営について積極的に発言していく時期に来ている。アジアでの自由主義的国際秩序の構築をリードしていくべきである。エネルギー安全保障問題では、ホルムズ海峡の問題が大きい。ここが機能しないと日本経済は倒れてしまう。このエネルギー動脈を支えているのは、海運業界と造船業界だが、体力が落ちてきている。安全保障の観点からも、重点的に立て直す必要がある。経済界には、日米関係を下支えする米国への直接投資や雇用、そしてCPTPP、日EU EPAといった自由貿易の促進をリードしてほしい。

久保田政一(司会:経団連事務総長)

  • ■ 世界の政治・経済・安全保障環境 ~現状をどうとらえるか
  • 経済と政治・安全保障を一体的にとらえた外交が必要
  • リーダー不在のなか今、国際秩序が音を立てて崩壊している
  • 日本がアジアの自由主義圏をリードしていかなければならない
  • グローバルサプライチェーンへの影響が大きい
  • 経済格差が国際経済秩序を揺るがす要因の1つ
  • 国際金融システムの分断が起こる可能性がある
  • 航空業界でも米中貿易摩擦によるサプライチェーンの影響が大きい
  • ■ これまでの取り組みと課題
  • 日本は、世界の運営について発言するべき
  • B7、B20といった民間外交が政府外交の力になっている
  • 経済連携の拡充とWTOの改革推進が喫緊の課題
  • 日米欧、三極での民間経済外交をやるべき
  • 「世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター」を設立
  • ■ 今後の取り組み、経済界への期待
  • 金融とものづくりの今後を経済界に託したい
  • 米国に現実を伝え国際経済秩序を再構築することが必要
  • 産学官が連携しIT人材を育てる
  • エネルギー安全保障の観点から海運業界と造船業界にてこ入れを
  • 官民連携のもと、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化に向け民間外交を積極的に展開していく

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