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月刊 経団連 巻頭言 経済安全保障と経済による安全保障

大橋 徹二 (おおはし てつじ) 経団連副会長/コマツ会長

1990年代初めの東西冷戦の終結を受け、世界の分断が消滅し、米国を中心とする自由主義経済のもと、企業がルールにのっとり自由にグローバルでビジネスを展開できる時代が始まった。お隣の国、中国は、1980年代からの改革開放政策を経て2001年のWTO加盟により、世界の工場としてだけでなく、13億の人口を持つ巨大市場として、飛躍的な経済成長を遂げるとともにグローバリゼーションを加速させた。この間の30年、世界中の企業は、市場を世界全体へ拡大し、それに合わせ最適なサプライチェーンをグローバルで構築していった。その結果、世界の貿易金額は、2018年に19.4兆ドルと2001年に対し3倍強に増加し、世界全体のGDPは、2001年の33.6兆ドルから2018年の86.4兆ドルと2.6倍に拡大し、地球の反対側で起きたことが、すぐに実体経済へ影響を及ぼすほど、経済はグローバルで緊密につながっている。

その最中の2018年に始まった米中貿易摩擦は、グローバルサプライチェーンに揺さぶりを加え、それに続く経済対立が、自由で民主的な資本主義対国家資本主義という、国家体制の対立へと進展し、経済安全保障の重要性が叫ばれるようになった。以前にも、日中関係のように政治的対立で国家間の関係が難しくなる場面があったが、政治から距離を置いた民間主導による経済が、結び付きを強めることにより静めてきた。言い換えると、政治的対立を経済安全保障ではなく、経済による安全保障へ結び付けてきた。グローバルに展開されたサプライチェーンは、もはや後戻りできない。経済界として、政府の経済安全保障政策立案に積極的に関わりながら、日本企業のグローバル産業競争力を向上させていくことが重要である。また、アフリカのように人口が増大し将来の経済発展が見込まれる地域に対し、経済界が、その礎となる現地人材の育成を含めた現地経済の発展と、日本とアフリカ地域の関係健全化に向けて主体的に活動し、日本の安全保障に資することを望んでいる。

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