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月刊 経団連 座談会・対談 世界最先端のバイオエコノミー形成に向けて

冨田 勝
慶應義塾大学先端生命科学研究所所長(当時)

阿部 啓子
バイオインダストリー協会代表理事会長/東京大学大学院特任教授

小坂 達朗
経団連審議員会副議長、バイオエコノミー委員長
中外製薬特別顧問

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バイオ産業は、医薬品のみならず、素材、食品、繊維、エネルギーなど、あらゆる分野で飛躍的な拡大を見せており、持続的な経済成長のみならず、今後、地球温暖化、資源制約、食糧危機、海洋汚染、新興感染症・難病など世界が直面している様々な社会課題の解決に重要な役割を果たすと期待されている。こうした中、経団連では2022年にバイオエコノミー委員会を新設し、今般、提言「バイオトランスフォーメーション(BX)戦略 ─BX for Sustainable Future」を公表した。
本座談会では、地域バイオコミュニティの実践例や各国動向を踏まえ、バイオテクノロジーが今後の私たちの社会や経済にどのような影響をもたらすのか、バイオエコノミー形成に向けた課題や今後の取り組むべき方向性について議論する。

小坂 達朗(経団連審議員会副議長、バイオエコノミー委員長/中外製薬特別顧問)
バイオが注目される背景には、環境汚染や食糧危機など地球規模の課題の多様化があり、バイオテクノロジーはその課題を解決する可能性を持つ。今は、まさにデジタル技術との融合によって社会を改革していくBX(バイオトランスフォーメーション)を目指す好機といえる。日本の強みは、ライフサイエンス分野で高度な知見を蓄積してきたアカデミアや民間企業の研究開発力にある。ただ、バイオの活用には、コスト面での競争力、規制、未成熟な市場が大きな課題だ。政府やベンチャーキャピタル、 金融機関が中長期的に支援できる仕組みや体制を構築していくことがBXの実現には欠かせない。

阿部 啓子(バイオインダストリー協会代表理事会長/東京大学大学院特任教授)
農業や食料の問題も含めて世界規模で考える中で、日本が果たすべき役割とリードできる分野を産学官の連携によって見いだす必要がある。その連携のための話し合いの場が国内にも必要である。バイオインダストリー協会では、産学官の関係者に対してバイオビジネスを推進するための多様なサービスを提供している。食料分野においては培養肉などが出ている。合成生物学に投資した世界の投資家の多くが、今はこの食料に投資を行っていて、その投資先が人材育成を行っていることは重要な点だろう。

冨田 勝(慶應義塾大学先端生命科学研究所所長(当時))
バイオエコノミーに関する日本の動きは、20年ほど遅いように思う。イノベーションを起こすために必要なのは、将来を見通せる力、物事の本質を見極めることである。山形県鶴岡市に先端生命科学研究所を開設して20年余りがたち、今では世界からも注目されるサイエンスパークとなった。そこに入る9社のベンチャー創業者に共通するのは、社会課題に対する使命感だといえる。日本企業が抱える根源的な問題は、働く人が減点を恐れてチャレンジしにくい点にある。失敗してもいいという考え方で、若い人が挑戦できる風土をつくることが必要だ。

岩村 有広(司会:経団連常務理事)

  • ■ 日本におけるバイオテクノロジーの現状
  • バイオ注目の背景と社会への影響
  • 世界の動向とJBAの役割
  • ベンチャーに共通する使命感
  • ■ 目指すべき方向性と具体的なアクション
  • 産学官のマッチングの重要性
  • 我が国のバイオの強みと課題
  • ■ 政府やメディアに期待する役割
  • 人材育成のための仕組みと投資
  • 地域バイオコミュニティの役割

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