Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年4月19日 No.3083  日本の農業再生をテーマに開催 -21世紀政策研究所が第90回シンポジウム

経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎所長)は10日、東京・大手町の経団連会館で第90回シンポジウム「日本の農業再生のグランドデザイン-TPPへの参加と農業改革」を開催した。

冒頭、森田所長が開会あいさつし、「政府は昨年10月、『我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画』を発表したが、依然として将来に向けた具体的な農業改革の展望が開けていない。TPPへの参加に向けた協議が行われているなか、農業、とりわけコメ、麦、大豆などの土地利用型農業の強化は喫緊の課題である」との問題意識を示した。

その後、21世紀政策研究所農業プロジェクトの研究主幹である本間正義・東京大学大学院農学生命科学研究科教授から、現在取りまとめ中の報告書の内容の紹介があった。まず、2010年農林業センサスから見た農業構造の変化と2020年における将来予測が示され、次にモデル分析によるTPP参加の経済的効果の推計と稲作の生産効率化による先進的農家のコスト推計などが紹介された。最後に、農地分散の解消の必要性、農外企業の参入の推進、農地流動化のための農地定義の見直しと保有コストの引き上げなど、TPP参加をにらんで2020年を目途に実施すべき具体的な改革提言が行われた。

続くパネルディスカッションでは、同プロジェクトの委員から、八田達夫・学習院大学特別客員教授、大泉一貫・宮城大学副学長、研究副主幹の齋藤勝宏・東京大学大学院准教授、八木洋憲・東京大学大学院准教授の4名がパネリストとして加わり、モデレーターの本間研究主幹のもと、会場からの質疑も交えた活発な討議が行われた。

まず、齋藤副主幹が基調報告で紹介された先進的農家のコスト推計についてより詳しい説明を行い、農地を集約して50ヘクタール規模とすれば、米の生産コストは60キログラム当たり5000円台にまで下げられることを示した。大泉委員からは、大規模水田経営を中心に農地を貸し出した小規模地主をも組み込んだ農村システムの提案があった。さらに、八木委員から農村地域における集落営農と個別経営の動向についてデータに基づく分析が紹介され、八田委員からはこれまでの発表についてのコメントの後、特に農地の転用や税制に関する具体的提案がなされた。

会場からは、いわゆる6次産業化の進展状況やITを活用した農業の可能性などの質問が投げかけられ、各パネリストや本間研究主幹がそれぞれの現状と今後の展開について丁寧に答えていた。

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シンポジウムを通して、日本の農業、特に土地利用型農業は、農地分散の解消を行いながら構造改革を進めることにより十分なコスト競争力を持ち得ること、その際、大規模水田経営に土地を貸し出した地主を農村コミュニティーのなかで活かしていくことが重要であること、集落営農は農地集積において優勢であるが、形式的な法人化ではなく経営管理面でのメリットを生かすことが重要であること、そして地域の農業特性にあわせた農地の流動化施策が必要であることなどが確認された。なお、このシンポジウムの詳細は21世紀政策研究所新書としてまとめられ、農業プロジェクトの研究報告書とともに今春、公表される予定である。

シンポジウムではTPP参加に向けた農業改革の提案が行われた

【21世紀政策研究所】