Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年5月24日 No.3086  「経済成長と財政健全化の同時達成に向けた道筋」テーマに慶應義塾大学・土居教授から説明を聞く -今後の税制改革の方向性や消費税引き上げの課題など/経済政策委員会・財政制度委員会

経団連の経済政策委員会(岡本圀衞委員長)と財政制度委員会(秦喜秋共同委員長、塚本隆史共同委員長)は9日、東京・大手町の経団連会館で合同委員会を開催し、慶應義塾大学の土居丈朗教授から、「経済成長と財政健全化の同時達成に向けた道筋」をテーマに説明を聞いた。
概要は次のとおり。

■ 経済成長と財政健全化の取り組み

まずは経済成長を目指し、その後に財政健全化を行えばいいとの声も聞かれるが、時間的余裕があったのは小泉改革のころまでの話で、リーマンショックを経て、政府債務はさらに積み上がり、事態は一層深刻さを増している。債務残高が巨額に上るため、経済成長率が高まると、税の自然増収よりもよい意味での金利上昇が起き、利払費が増加してしまう。また、デフレが終わるまで増税を待っていると、その間にも政府債務が累増して国債金利の急騰リスクが高まってしまう。
経済成長と財政健全化の同時達成が急務であり、その道筋はナローパスだが、政策的な配慮を欠かさず取り組めば、決して不可能ではない。なお、成長率を高めるうえで、政府は乗数効果の期待できない公共事業のような財政支出ではなく、成長の阻害要因となる税制や規制を改革すべきである。

■ 今後の税制改革の方向性

予算の無駄をなくす歳出改革は、不断の努力が求められるが、財政収支を改善するには無駄の削減だけでは限界がある。高齢化に伴い、社会保障費の自然増が避けられないなか、税収の確保も同時に行うことが不可欠である。
今後の税制改革の方向性として、経済成長により親和的な税収構造を目指すことで、税収確保を図りつつ、世代間格差の是正、地方分権などの政策的な要請に応えていく必要がある。
OECD加盟国を対象とした実証分析では、税収に占める消費課税の割合が高まると1人当たり実質GDP成長率も上昇するが、法人税や所得税といった所得課税の割合を高めると、逆に成長率が下がる結果が示されている。税収確保を通じた財政健全化と並行して、経済成長を達成するのであれば、消費税が税源として適していると示唆される。

■ 消費税引き上げにかかる課題

消費税の逆進性対策として、軽減税率の導入が指摘されている。しかし、軽減税率は、低所得者だけでなく、高所得者も恩恵を受けることができ、税収の減少が懸念される。むしろ低所得者対策としては、簡素なかたちの給付付き税額控除を活用し、所得制限を設けて低所得者に的を絞ったほうが有効である。
また、中小企業からは、消費税の引き上げを、製品やサービスの価格に転嫁することが困難との強い懸念が示されている。政策的に価格転嫁を担保する必要に迫られるかもしれない。ただ、この問題の根本は元請下請関係にある。原材料価格の高騰などによっても生じる問題であり、消費税引き上げとは独立して解決すべきである。

■ 法人税の引き下げと負担の帰着

スウェーデンは高福祉高負担国家の成功例として、日本で紹介されることが多いが、主要国よりも先駆けて法人税率を引き下げていたことについてはあまり知られていない。1990年代の金融危機後、法人税率を20%台にまで引き下げることによって、国内企業の競争力強化と外国からの投資の受け入れに努めてきたのである。
日本では、法人税の引き下げに対して、企業優遇と反発する意見があるが、高い法人税率は、賃金や配当の減少、さらには産業の空洞化や雇用の喪失といったかたちで、結局は国民がその負担を負うことになるという事実を認識しなければならない。

【経済政策本部】