Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年7月26日 No.3095  「アジア太平洋における日本外交」 -中西・京都大学大学院教授が常任幹事会で講演

講演する中西教授

経団連は4日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催し、京都大学大学院法学研究科の中西寛教授から、「アジア太平洋における日本外交」をテーマに講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 戦略的転機を迎えたアジア太平洋地域

現在、アジア太平洋地域を中心とした国際政治が一つの戦略的転機を迎えている。一つ目は、アメリカの太平洋への復帰である。米国は2011年の9.11を契機に、中東を最重視してきたが、オバマ大統領は、最重視する戦略的地域を太平洋とする方針を打ち出している。この方針は、たとえ今年の大統領選挙でロムニー氏が勝利しても変わらないだろう。二つ目は、北朝鮮の指導体制の変化である。指導者が金正日氏から金正恩氏に移ったことで、遠からず北朝鮮は新たな外交姿勢を打ち出してくるだろう。三つ目は、東南アジア政治の変化である。特にミャンマーの政治的な変化は目覚ましく、政治的な自由化が進められている。ミャンマーをはじめとする東南アジアの国々は、これまで台頭する中国に接近することで経済を発展させてきたが、過剰な中国依存への反発から中国に対して距離を置く動きが出ている。四つ目は、中国の政治的経済的動揺である。薄熙来の解任劇や陳光誠事件は、中国の抱える問題が経済成長から政治社会に移りつつあることを示している。中国は世界第2位の経済大国となったことから、経済優先の外交方針を続けられなくなっている。またインターネットの発達により世論が政治に影響を及ぼすようになっており、中国の指導者層は外交方針を模索している。五つ目は、米韓関係の強化と動揺である。過去10年の間に米韓関係が強化されてグローバル化が進んだが、グローバル化への反動が大きくなっており、韓国の対外政策に修正の傾向が見られる。

これらの変化のなかで、「アジア太平洋地域主義」の重要性が再浮上し、米国と中国という二つの核が向き合う国際政治の第1正面としてアジア太平洋が位置付けられている。

■ 日本外交

日本は米国と中国の戦略的な境界線上にある国であり、日本の外交方針が米国、中国のいずれにとっても戦略上極めて重要になることを自覚する必要がある。日本は1億人を超える人口と経済的・技術的蓄積を持っていることから、一定規模の大国としてアジア太平洋のなかで存在感を保ち続け、アジア太平洋地域の動向を左右する大きな要因になり得る。日本は世界の国々との交流によって力を発揮する国であり、日米同盟を基盤としたうえで中国と政治的信頼を構築しつつ、多国間外交を推進することによってネットワークを強化し、アジア太平洋の一体性を高めることが日本外交の根本的な基本戦略になるだろう。

【総務本部】