Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年8月9日 No.3097  「大震災後のエネルギー政策の課題」 -日本エネルギー経済研究所の豊田理事長と意見交換/エネルギー・環境政策に関する懇談会開催

政府は6月末に、エネルギー・環境に関する三つの選択肢(2030年時点での電源構成における原発比率を基準に、(1)ゼロシナリオ(2)15シナリオ(3)20~25シナリオ)を提示した。現在行われている意見聴取会やパブリックコメント等の国民的な議論を踏まえ、「革新的エネルギー・環境戦略」を決定する予定である。

こうしたなか、経団連は7月24日、東京・大手町の経団連会館で「エネルギー・環境政策に関する懇談会」を開催し、「大震災後のエネルギー政策の課題」について、日本エネルギー経済研究所の豊田正和理事長から説明を聞き意見交換を行った。また、当日は「『エネルギー・環境に関する選択肢』に関する意見」の審議を行った。豊田理事長の説明概要は次のとおり。

■ 複数の視点から望ましいエネルギー・ミックスを

中長期の電源構成、いわゆるエネルギー・ミックスについては、安全性(Safety)、安全保障(Energy Security)、効率・コスト(Efficiency)、環境・温暖化対応(Environment)の「S+3E」という複数の要素を勘案して総合的に考える必要がある。エネルギー小国である日本に完璧なエネルギーは存在しないため、省エネを進めるとともに、原子力25%、再生可能エネルギー25%、化石エネルギー35%、コジェネレーション(注)15%の四つをバランスよく組み合わせる必要がある。

国際的な視点を踏まえることも重要である。ドイツは脱原発を掲げているが、欧州大陸における国境を越えた電力ネットワークを通じて、近隣諸国から安定的に電力を輸入できる。また、欧州諸国は国によって電源構成が大きく異なるが、EU15カ国で見れば非常にバランスが取れており、日本と概ね同じ構成となっている。中国、インドをはじめ新興国の原発が今後20年で現在の4~7倍の160~260基まで増加すると見込まれており、日本の原子力関連安全技術をいかに提供していくか、という視点が必要になる。

福島第一原発のような事故は、(1)過酷事故対策および全電源喪失対策を充実・進化させ、対策済みの原発のみを再稼働させること(2)原子力安全規制機関の独立性を確保すること(3)国際協力により各国が相互に安全性を確認すること――により防止することが可能と考えられる。

■ 三つのシナリオの留意点

2030年までの平均経済成長率を1%とすると、電力需要は現在よりも23%増加する。しかしながら、政府の三つのシナリオはいずれも2030年の電力需要を09年時点よりも約10%減少させることを想定しており、年率1.5%程度という、日本が過去に経験したことのない省エネを進めることが必要になる。

政府の三つのシナリオでは、こうした省エネ見通しのほか、再生可能エネルギーについても極めて厳しい目標が掲げられているが、GDPや電気料金への影響等が一般国民に正しく理解されているとは言い難い。エネルギーを近隣諸国から輸入できない日本がドイツのような選択を取り得るのか。現実を見据えた中長期のエネルギー・ミックスの形成が求められる。

(注)コジェネレーション=発電と同時に、発電時に発生した排熱を利用して冷暖房や給湯等に利用する熱エネルギー供給の仕組み

【環境本部】