Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年8月9日 No.3097  「正社員の限定化と非正社員の無限定化」をテーマに講演聞く -雇用委員会

経団連は7月31日、東京・大手町の経団連会館で雇用委員会(篠田和久委員長)を開催した。
当日は東京大学大学院情報学環の佐藤博樹教授を招き、「正社員の限定化と非正社員の無限定化~人事管理の新しい課題」をテーマに講演を聞くとともに意見交換を行った。
講演の概要は次のとおり。

■ 正社員と非正社員

正社員と非正社員という用語は、労働基準法などには使われていない。法律で規定しているのは、有期・無期、フルタイム勤務・短時間勤務、直接雇用・間接雇用(派遣)の3要素だけである。
無期雇用の社員が正社員であり、有期雇用の社員が非正社員かというと、そうではない。なぜならば、人材活用面において雇用契約の有期・無期以上の相違があるからである。
正社員は業務や勤務地を限定されずに活用されており、残業もあり得る働き方である。一方、非正社員は、職場が限定され、契約期間に定めがあり、労働時間は多様である。その意味で、正社員は無限定雇用、非正社員は限定雇用の人材活用といえる。
このため、有期契約の非正社員を無期雇用に転換しても、正社員と同じ人材活用ができるわけではなく、転換には困難が伴うことになる。

■ 人材活用の多様化

近年の実態を見ると、職種や勤務地を限定したり、育児・介護等のために短時間勤務を選択する正社員や、通勤圏内での異動や残業も対応可能な非正社員が存在する。このような雇用区分の多元化により、正社員の限定化および非正社員の無限定化が進んでいる。
このことは、企業の人事管理や労使関係に新しい課題をもたらしている。

■ 人事管理上の新課題

人材活用の多様化に伴う人事管理上の新たな課題として検討が必要なのは、無限定雇用の正社員と限定雇用の正社員の間における処遇や雇用保障の均衡・均等の整備、雇用区分間の転換ルールの整備などである。
特に、雇用保障については、整理解雇の4要素との関係で整備する必要がある。整理解雇には解雇回避努力として配置転換等による雇用維持が求められることに鑑みれば、(1)就業規則において、勤務地限定社員等の契約類型を明確に定め、限定された勤務地等が消失した場合を解雇事由に加える(2)個別に合意を得るために、採用に際し、労働契約条件として書面を交わす――などにより、特約のついた期間の定めのない労働契約を結ぶことが考えられる。

■ 労働契約法改正の影響

今般成立した改正労働契約法に伴って、有期契約が5年を超えて反復更新された場合、労働者の申し込みにより無期契約に転換させる仕組みが導入されることへの対応として、二つの類型が考えられる。
第1類型は、無限定雇用の正社員の人材活用を維持し、非正社員の活用を勤続5年までに限定するものである。この場合の非正社員の業務範囲は、5年間で人的資源投資を回収できる業務に限られるが、同時に、転換できる者は無限定雇用の正社員への転換を促進する。
第2類型は、正社員の人材活用のあり方を多元化すると同時に、非正社員は契約更新ごとに、従事する業務や勤務時間を拡大するなど労働条件の一部について無限定化を促進する。これにより、非正社員の新しいかたちの基幹労働力化が促進される。
今後、非正社員と正社員を円滑に連結する仕組みをどのように構築するかは重要であり、企業の実情を踏まえて労使の取り組みが図られることが望まれる。

【労働政策本部】