Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年8月30日 No.3098  「重みを増す『見えない負担増』」で説明聞く -第一生命経済研究所の熊野首席エコノミストから/社会保障委員会企画部会

経団連の社会保障委員会企画部会(浅野友靖部会長)は2日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストから、「重みを増す『見えない負担増』」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

1.勤労者の負担増

社会保障と税の一体改革は、消費税率の引き上げばかりが注目を集めているが、家計にとっては、社会保険料の上昇も大きな負担である。ここ5年間(2006~11年度)で、勤労者世帯1世帯当たりの年間の社会保険料負担は5.5万円増、所得税負担は2.6万円増となっており、合計で8.1万円の負担増である。消費税5%分に相当する1世帯の負担額が年間17.2万円であることから、その半分に相当する追加の負担を家計は強いられている。

こうした「見えない負担増」が家計所得に占める割合は、20年前から増加傾向にあったが、定率減税が全廃された2007年以降、増加ペースは一気に加速し、リーマンショックに見舞われ日本経済が苦しかった時期ですら、家計は負担増を余儀なくされていた。今後は、社会保険料率の上昇のみならず、復興増税や消費増税の影響も相まって、5年間(2012~17年度)で年間23.2万円の負担増になると試算している。

また、2014年度以降の消費増税の際に、低所得者層への何らかの給付措置が行われるとみられるが、こうした層に占める高齢者の割合は高いため、全世代で負担するはずの消費増税が、世代間不公平を助長することにもなりかねない。今後、勤労者世帯にかかる負担増は、勤労者以外の世帯の1.5倍になるとみられており、このような世代間不公平を「見える化」したうえで、一体改革の議論をフェアに進めるべきである。

2.企業の負担増

2009年度の民間企業の社会保険料負担額は21.6兆円であり、人件費対比で11.7%となっている。さらに、厚生年金保険料は2017年に18.3%の水準になるまで毎年度引き上げられることとなっており、企業負担は当面増え続ける。

この背景は少子高齢化の進行であり、65歳以上人口は2018年まで前年比3%で増加していく見込みである。19年以降、この伸び率は多少フラットになるものの、生産年齢人口の減少が続くため、現役世代の負担増は19年以降も継続する。

ただし、このような人口動態であっても負担増をコントロールする余地はある。なぜならば、負担の膨張には、現政権の「大きな政府」路線が大きく影響しているからだ。例えば、一体改革で行われる消費増税5%分のうち、1%は財政再建のためではなく、社会保障の機能強化という名目だ。歳出拡大にかかる財源の穴埋めが、企業負担につけ回されている現状があり、そうした使途は厳しくチェックしていかなければならない。

3.社会保険料負担増が生じさせる賃金デフレ

企業の保有する現預金は2012年5月時点で228兆円あり、これを賃金に回すべきだという批判もある。しかし、将来の社会保険料負担増が予想されているため、企業は将来の賃金上昇に備え、所得分配を行いにくくなっていると考えられる。

政府が目標とする「名目3%、実質2%」の経済成長を実現するためには、勤労者1人当たりの生産性上昇に合わせて、賃金も上昇していくような状況をつくらなければならない。すなわち、企業が安心して所得分配を行える事業環境を整備することで初めて、「成長」から「分配・再分配」という、マクロ経済の正常なフィードバック機能が回復する。

【経済政策本部】