Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年9月27日 No.3102  昼食講演会シリーズ<第17回> -「日本にも忍び寄るスクリューフレーション」
/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト 永濱利廣氏

経団連は12日、東京・大手町の経団連会館で第17回昼食講演会を開催し、約100名の参加のもと、第一生命経済研究所経済調査部の永濱利廣主席エコノミストから「日本にも忍び寄るスクリューフレーション」と題した講演を聞いた。
講演の概要は次のとおり。

■ スクリューフレーションとは

「スクリューフレーション」とは、「中間層の貧困化」と「インフレ」の同時進行を意味する造語であり、先進国に共通してみられる新たな経済現象である。この現象は、経済のグローバル化の進行によってもたらされたものだ。

具体的には、先進国のグローバル企業が新興国に生産拠点等を移転することにより、先進国から新興国へ雇用が移り、先進国では、雇用が減少、所得も低下する。一方、新興国では、雇用機会の増加により、生活水準が上昇し、食料や燃料など資源の需要が高まってくる。その結果、国際的な価格高騰が起き、生活必需品の価格が上昇する。また、新興国の都市化は、第一次産業従事者の減少、農地の減少を促し、食料価格の上昇に拍車をかけている。

先進国では、所得が増えないなかで、生活必需品の価格が上がるため、中間層以下の世帯の生活が厳しくなる。また、経済状況が厳しくなるため、金融緩和政策によって景気を改善させようとするが、その結果余ったお金が食料などのコモディティーの金融商品への投資に向かい、生活必需品の価格をさらに上昇させる要因となる。

■ 日本でも起きているスクリューフレーション

「日本はデフレなので、スクリューフレーションは関係ない」と思われるかもしれないが、日本でもスクリューフレーションが起きている。現に生活必需品の価格は上昇している。しかも東日本大震災の影響により、化石燃料による火力発電が発電量全体に占める割合が高くなっており、スクリューフレーションの影響を受けやすくなっている。年収階層別の消費者物価を見ると、日本は、米国同様、最下位20%の層は最上位20%の層に比べて消費者物価が高く、経済格差拡大の要因となっている。

■ 「スクリューフレーション」を生き抜く日本経済

経済のグローバル化に伴い、スクリューフレーションが生じるのは避けられないが、政府・日銀は、その悪影響を軽減することはできる。その方策は次のとおり、(1)世界的な資源価格の上昇を緩和すること(2)国内の雇用機会を増加すること――の二つに集約される。

  1. (1)世界的な資源価格の上昇の緩和
    食料・エネルギーの自給率を引き上げる必要がある。一次産品のなかには競争力の高いものもあるため、食料自給率を引き上げるには国を開いて、競争力のある農産品の輸出を促す必要がある。また、原子力発電の推進が容易ではないとしても、エネルギーの自給率を高めるために、地熱発電など再生可能エネルギーを導入・推進すべきである。

  2. (2)国内の雇用機会の増加
    雇用を生み出すには、企業が日本国内に立地しやすい環境をつくりだすべきである。今の日本は、国内で企業が活動しづらい環境にある。税制改革や経済連携協定の推進により、立地競争力を強化すべきである。また、円高の問題を解決しなければならない。政府・日銀は、量的緩和政策を進め、株式市場への関与を強めるべきである。

【総務本部】

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