Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年10月11日 No.3104  東京大学の岩本教授から「今後の社会保障改革のあるべき姿」聞く -社会保障委員会

経団連の社会保障委員会(斎藤勝利委員長、鈴木茂晴共同委員長)は2日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、東京大学大学院経済学研究科の岩本康志教授から「今後の社会保障改革のあるべき姿」をテーマに説明を聞いた。
説明の概要は次のとおり。

■ 増え続ける社会保障給付費と財政状況の悪化

社会保障・税一体改革関連法の成立によって、消費税増税は決まったが、社会保障制度改革の主要事項は先送りとなっている。社会保障改革では、社会保障の機能強化のための給付の充実が予定されており、2015年度の公費所要額はおよそ2.7兆円程度拡大すると見込まれている。

内閣府の「経済財政の中長期試算」によれば、消費税率の引き上げにより、政府が財政運営戦略で掲げた、2015年度の基礎的財政赤字半減目標は達成される見通しである。しかし、それ以降は社会保障給付費の増大もあって、財政収支は一向に改善せず、黒字化達成を目標とする2020年度時点においても、対GDP比2.8%程度の赤字が残る。これを仮に消費税収で埋めるとすると、さらに5%程度の追加増税が必要となる。

今回の一体改革は2015年度までを射程とし、財政運営戦略は2020年度までを対象期間としている。しかし、高齢化の進行はそれ以降も続くため、団塊の世代が75歳以上となる2025年度以降も展望しつつ、社会保障制度のあり方を考えていかなければならない。例えば、2050年度までを視野に入れると、消費税収によって政府債務残高(対GDP比)を安定的に低下させるには、2015年度以降も消費税率を追加的に引き上げ、最終的には27%としなければならないと試算される。

ただし増税のみに頼るのではなく、近年膨張した歳出の削減に取り組むことも必要である。厚生労働省の直近の試算(今年3月推計)によれば、今年度の社会保障給付費の対名目GDP比は22.8%と、5年前の試算(2006年5月推計)における、2050年度の予測値(対名目GDP比19.1%)を大きく上回っている。将来の課題と見込まれていた、社会保障給付費の水準がいま実現してしまった。これは、名目GDPが減少したにもかかわらず、分子の社会保障給付費が引き下げられず、実質的に高止まりしているからである。

■ 財政の健全化に向けた一体改革の方向性

一体改革では、世代間・世代内公平の確保のために充実させるべき施策もあるが、高齢者への給付の充実は、現在の高齢者がその負担をすることにはならず、現役世代や将来世代が負担することになるため、世代間公平の確保にはつながらないばかりか、制度の持続可能性にも悪影響を与える。

そこで一体改革で機能充実を図る施策についての精査が必要である。例えば、入院から在宅医療へシフトすると、在院日数を短縮するために病院に資源を投入することになり、結果的に改革により総費用が増えてしまう。そのような資源の投入が本当に必要なのかどうか検討すべきである。また、年金分野では、デフレ下で高止まりしている給付の適正化を早期に図る必要がある。子ども・子育て支援策についても、7000億円(量的拡充に4000億円、質的拡充に3000億円)の新規財源が必要とされているが、総花的な量的拡充策であるうえ、質の改善についても使途が明確になっておらず、精査が必要である。

短期的な視野にとらわれず、長期的視野に基づいて、社会保障制度のあり方を議論することが重要である。消費税増税は先送りすべきでないが、社会保障の機能強化や給付の充実を行う財政上の余地はない。社会保障各分野における給付の効率化が急務である。

【経済政策本部】