Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年10月18日 No.3105  「『失われた20年』と成長戦略の評価」テーマに説明を聞く -経済政策委員会企画部会

経団連は9月27日、都内で経済政策委員会企画部会(村岡富美雄部会長)を開催した。今回は、学習院大学経済学部の宮川努教授から「『失われた20年』と成長戦略の評価」をテーマに説明を聞いた。主な内容は次のとおり。

1.「失われた20年」と七つの成長戦略

1990年代を境に、日本の経済成長率は大きく低下した。ここ20年間は、実質成長率が平均で1%程度にすぎず、「失われた20年」とも言われている。低成長は人口減少に起因するとの言説があるが、必ずしもそうではない。成長率は、資本、労働、全要素生産性の伸びに分解されるが、「失われた20年」の間、日本はこの3要素すべてが低い伸びにとどまっている。人口減少は労働の減少を引き起こすが、低成長の一因にすぎない。

1997年の金融危機以降、従来の財政政策の限界が意識されるとともに、経済の体質改善を含む経済政策の必要性が議論され始めた。2000年代前半に不良債権問題の解消にめどが付いたことを契機に、小泉政権で「構造改革と経済財政の中期展望」(2002年)が策定されると、野田政権の「日本再生戦略」(2012年)に至る10年間で七つもの成長戦略が立て続けに策定された。

しかし、これらの成長戦略は、経済に配慮しているという政治的なポーズにすぎない。経済成長の3要素である、資本、労働、全要素生産性をいかに伸ばすかという点を主眼としたビジョンに基づく施策の体系になっていない。

2.成長戦略と全要素生産性

全要素生産性は、生産の効率性を測る指標である。新しいアイデア、例えば鉄道事業におけるダイヤの工夫や、旭山動物園における動物の見せ方の工夫も、全要素生産性の向上につながる。

日本では1990年代以降、この全要素生産性の上昇率が低下しており人口減少をカバーできていない。人口減少に歯止めをかけることが非常に困難ななか、成長戦略により経済成長率を高めるうえで、全要素生産性の上昇率を高めることが最も重要になってくる。

3.成長に向けた具体的施策

成長戦略のすべてを政府に頼るわけにはいかない。企業と政府双方の役割分担が必要である。

企業には競争力の強化が求められる。第一はネットワークの活用である。1995年あたりを境に、ITに関連した産業とそうでない産業との間で、全要素生産性の上昇率に大きな差が生まれた。日本は「すり合わせ」に代表される、取引先との綿密なコミュニケーションが求められる相対型の産業に強みがある。他方、ITを含めたネットワークの利用は不得手である。今後は競争力強化のためにネットワークを有効活用していかなければならない。ほかにも、労働の質を向上させる研修および昇進制度等の改善や、グローバル化への対応が求められる。

一方、政府が果たすべき役割として、経済的に重要な生産集積地については災害に備えてあらかじめ代替地を確保しておくといった防災対策や、地熱発電をはじめとする新エネルギー開発を促進させるための規制改革を進めることが求められる。また、円高対策として、欧米諸国と協調することにより、中国や韓国といった日本の競合国の為替制度を、日本や欧米諸国と同様の制度に移行するよう働きかけていくべきである。ほかにも、大学教育の期間を4年半とする高等教育改革、無形資産価値を評価することを通して新規企業に資金を供給する新規企業育成策も重要である。

【経済政策本部】