Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年11月1日 No.3107  欧州におけるロケット開発に関する課題で説明を聞く -宇宙開発利用推進委員会企画部会・宇宙利用部会合同会合

経団連は10月18日、東京・大手町の経団連会館で、宇宙開発利用推進委員会企画部会(笹川隆部会長)・宇宙利用部会(西村知典部会長)合同会合を開催した。当日は、欧州の商業宇宙輸送企業であるアリアンスペースの高松聖司・東京事務所代表から、欧州におけるロケット開発に関する課題について説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 欧州の宇宙輸送について

1960年代の欧州のロケット開発は「ヨーロッパロケット」の失敗により、米ソより遅れていた。そのため打ち上げは他国に依存した方が効率的との考えがあったが、米国のロケットによる欧州の衛星の打ち上げに制約が課されたことから、欧州は宇宙輸送の自律性を確保するためにESA(欧州宇宙機関)を設立、アリアンロケットを開発した。

■ アリアンスペースの挑戦と成功

1980年にアリアンスペースが設立された。創立以来、商業静止衛星打ち上げの市場占有率で世界の約半分を占める同分野で世界第一の企業である。
商業化が成功したのは、信頼性の向上、打ち上げ能力の増強、柔軟性の向上を技術的な観点からだけでなく、顧客のビジネスの成功につながるかたちで事業を展開したためである。ロケットの信頼性の確保には継続的・規則的・安定的な打ち上げが必要である。

■ 商業打ち上げ市場

「H2Aロケット」について、打ち上げ能力の向上、補助金等の政府支援により国際競争力を強化すれば、年1機ないし2機の商業打ち上げが獲得できると報道されているが、世界は必ずしもそうは見ていない。
商業打ち上げの規模は年間約2000億円、衛星数でわずか約20機である。小さな市場にプレーヤーが少なく寡占状態にある。日本が他国を上回る政府支援を行ったり、日本の国内市場を閉鎖していると見られる鎖国主義を取ったりした場合には、国家間の外交的な問題に発展する危険性がある。
また官需と民需の要求は全く違う。商業打ち上げでは顧客から商業特有の柔軟性を求められるなどのプレッシャーにさらされるため、覚悟が必要である。

■ 日欧の未来

経団連の米倉会長と当社のジャンイブ・ルガルCEOは、日欧ビジネスラウンドテーブルの共同議長であり日欧の産業協力の推進を目指している。日本と欧州の宇宙利用には、限られた宇宙関係予算や政府重要や次期ロケットの必要性などの共通点がある。次期宇宙基本計画においては、日欧間の宇宙輸送系が相互に発展する方向での議論ができるものにしてほしい。

<意見交換>

アリアンスペースと日本の民間企業の違いに関する質問について高松氏は、「当社は株主に政府機関(フランス国立宇宙研究センター)が入っている。そのため民間会社といったことはなく、商業打ち上げ会社と言っている。他国では国が負担している固定費などを、欧州では歴史的な経緯によってアリアンスペースが負担しているため、この状況を是正するためにESAの支援を受けているが、かかる支援はアリアンスペースの負担を他国と同等にする(equal playing field)ために行われるにすぎず、商業的な競争力強化や財政的利益をアリアンスペースに与えるものではない。アリアンスペースは為替変動をはじめとする商業上の責務をすべて負うことはもちろん、利益が出た場合、または売上高が想定額を超えた場合は、その金額をESAに返還する義務さえ負っている。さらにESAはアリアンスペースの会計監査の権利を持つ等、強い緊張関係と監視体制がひかれている」と答えた。

【産業技術本部】